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真夏の蝉時雨

言語日本語
試し読み第1〜3話(当サイト)
掲載日
読み方横書き・縦書きを切り替え可

『真夏の蝉時雨』は日本語の小説です。当サイトで第1〜3話を試し読みできます。

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冒頭試し読み第1話より・約540字

桐山涼真(きりやま りょうま)がどん底の貧乏だった頃。40度近い猛暑のなか、彼は私・安藤夏帆(あんどう かほ)に会うためだけに五、六時間も歩いてやってきた。

焦げつくような日差しのもと、けたたましい蝉時雨が降り注いでいた。

暑さで溶けてしまいそうなほど汗だくの涼真は、両手を膝について荒い息を吐き、その長いまつ毛から汗の雫がぽたぽたと滴り落ちていた。

のちに彼と結ばれ、幾度となく夜通し喧嘩を繰り返すたび、私は決まってあの時の彼の濡れたまつ毛を思い出した。

その記憶があったからこそ、私は未練なく仕事を辞め、見知らぬ土地へ嫁ぎ、心から彼との子供を望んで辛い妊活すら耐えてきたのだ。

――ついさっき、私のワイヤレスイヤホンが偶然、彼のスマホに繋がってしまうまでは。

イヤホン越しに聞こえてきたのは、彼の親友である片倉拓也(かたくら たくや)の嘲笑うような声だった。

「夏帆ちゃんってけっこう純粋だよな。いまだに気付いてないんだろ?

お前があの夜、昔の女を抱いたのは、たまたま店で再会したあいつが、タダでヤレる『安全な女』として向こうから転がり込んできたからだってことにさ」

今年の夏は、ずいぶんと早く暑さが訪れた。

桐山涼真(きりやま りょうま)と一緒に真夏の蝉時雨を聞いたのは、もう5年も前のことだ。

※作品紹介ではなく、第1話の書き出しをそのまま掲載しています。第1話の続きを読む

目次試し読み3話

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