
昨日の影、過去の風
| 言語 | 日本語 |
|---|---|
| 試し読み | 第1〜3話(当サイト) |
| 掲載日 | |
| 読み方 | 横書き・縦書きを切り替え可 |
『昨日の影、過去の風』は日本語の小説です。当サイトで第1〜3話を試し読みできます。
冒頭試し読み第1話より・約582字
彼氏の誕生日パーティーの主役席で——私は、ひとり三時間も待ち続けていた。
華やかに着飾り、主役として登場するはずの彼——桐生律真(きりゅう・りつま)は、一本の電話で病院へと呼び出されていた。電話の相手は、彼が長年心に秘めていた初恋の人、藤崎詩織(ふじさき・しおり)。
足を捻ったという口実で、詩織は病院の個室で彼を待ち構え、自ら仕掛けたカメラの前で——彼にキスをねだった。
その唇が深く重なる頃——「足が不自由で立てない」はずの律真が、何の躊躇もなく立ち上がり、詩織を壁際に押し付けた。
「律真……どうして高梨文咲(たかなし・ふみさき)には、足が治ってることを隠してるの?」
詩織の問いに、彼は熱を帯びた声で囁いた。
「知られたら、結婚しろって騒ぎ出すに決まってるだろ。
あいつなんか、ただの無料の家政婦だ。俺が妻にする価値なんてない」
そして——彼と詩織は激しく絡み合い、詩織は私が心を込めてデザインした純白のウェディングドレスを身に纏いながら、カメラ目線で勝ち誇った笑みを浮かべた。
画面は、淫らな水音と共に途切れた。
そうか。彼は、最初からずっと私を騙していたんだ。
私は、彼のために作ったバースデーケーキを無言でゴミ箱に投げ捨て、震える指先で母にメッセージを送った。
「お母さん。わかった。お見合い、行くよ」
彼氏の誕生日パーティーの主役席で——私は、ひとり三時間も待ち続けていた。
※作品紹介ではなく、第1話の書き出しをそのまま掲載しています。第1話の続きを読む
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