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昨日の影、過去の風第3話

この話は約1544字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

律真の怒りを抑え込んだ目線が、私に突き刺さる。

今夜の私は、あまりにもいつもと違っていた。

彼の言いなりだった私が、何度も彼の機嫌を逆撫でしている。

でも、もう彼の顔色を窺う気すら起きなかった。

静まり返った室内に、律真のスマホの着信音が響いた。

どうせ——藤崎詩織だ。

「もしもし、律真さん……今、家にいますか?なんか、さっきから知らない人がドアを叩いてて……怖くて……」

電話の向こうで、今にも泣きそうな甘ったるい声。

律真は眉をひそめ、優しく言葉をかけると「すぐ行く」と約束して電話を切った。

私が彼を見つめていると、律真は取り繕うように言い訳をした。

「会社の社員の家でちょっとトラブルがあって……確認にいく」

まるで私が聞こえてないとでも思っているのか。

私はもう何も言わず、適当に「ああ」と返した。

「文咲、車で送ってくれよ。俺、今は運転できないし、ドライバーも帰っちゃったからさ」

当然のように頼んでくる。

私は皮肉めいた笑みを浮かべ、彼の脚を見やった。

「本当に運転できないの?」

一瞬だけ彼の顔が引きつった。だがすぐに平静を取り繕った。

「知ってるだろ、文咲。俺がそんな嘘をつくわけない」

その目には焦りと真剣さが滲んでいた。

無言のまま車を走らせ、詩織の住むマンションに着いた。

ドアを開けた彼女は、律真を見るなり飛びついた。

彼は私を一瞥すると、詩織の背中に手を回し、優しく囁いた。

その光景を無視して、私は踵を返した。

「文咲」彼が私を呼び止めた。

少しくらい私を気遣う言葉があるかと思った。

でも、彼の口から出たのは冷え切った命令だった。

「詩織、怖かっただろ。台所でお粥でも作ってやれよ。お前の作るお粥が好きなんだからさ」

ああ——思い出した。

最近、粥が嫌いだったはずの彼が、なぜか毎朝お粥を要求してきた理由。

詩織が好きだったから。

「文咲さん、ごめんなさい。でも、これも律真さんが言ったことだから。あなた、いつも彼の言うこと聞いてたじゃない?」

律真は鼻で笑った。

「俺に逆らう嫁なんか、いらない」

溜まりに溜まった失望が、ついに臨界点を超えた。

私は静かに笑った。

振り返り、二人を冷たく見据え、淡々と言い放った。

「桐生律真——私があなたのために朝食を作って、世話をしてきたのは、私が『あなたを愛していたから』。自分でそうしたかっただけ。

でも今は?あなたはもう何の価値もないわ」

言い捨てて背を向けた。

その夜——彼は帰ってこなかった。

夜遅く、眠りにつこうとしたとき、スマホに届いたのは——律真と詩織が、裸でベッドに絡み合う動画。

詩織がカメラ目線でVサインをして、勝ち誇ったように笑っている。嫌悪と侮蔑の感情しか湧かない。

私は動画を消そうとしたが、誤ってビデオ通話のボタンを押してしまった。

スマホから、低く掠れた喘ぎ声が漏れ出した。

律真が詩織を抱き上げた瞬間——彼の目がスマホの画面に気づき、動きが止まった。

私は静かに通話を切り、すべてをシャットアウトするように眠りについた。

こんなにも、心地よい眠りは久しぶりだった。

翌朝。目を覚ますと、彼は既に私のベッドのそばにいた。

車椅子に座ったまま、暗い表情で私を見つめていた。

「昨日のこと、見た?」

彼が探るように尋ねてくる。

ちょうどそのとき、母からLINEが届いた。「いつ帰ってくるの?」

私は「明後日帰る」とだけ返信した。

私が彼を無視してスマホを操作するのが、彼には相当面白くないらしい。

指でテーブルを叩きながら、苛立った声で聞いてきた。「誰とLINEしてるんだ?」

「母から帰省の連絡」淡々と答えた。

彼は「ふーん」と気のない返事。

「昨日の夜、変なものは見てないよな?」

再び確認してきた。

私は鬱陶しくて眉をひそめ、首を横に振った。

彼は露骨に安堵し——

「ならいい。

朝食作ったんだ。食べる?」

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