
10年の恋を捨てて、私は晴れ空へ歩き出す
| 言語 | 日本語 |
|---|---|
| 試し読み | 第1〜3話(当サイト) |
| 掲載日 | |
| 読み方 | 横書き・縦書きを切り替え可 |
『10年の恋を捨てて、私は晴れ空へ歩き出す』は日本語の小説です。当サイトで第1〜3話を試し読みできます。
冒頭試し読み第1話より・約588字
退職を前に、上司から尋ねられた。
「神谷本部長は、部長に昇進したら結婚すると約束してくれたんでしょう?あと一歩なのに、どうして急に辞めるの?」
私は、雨水に濡れたスラックスの裾に目を落とした。
「傘が一本しかなかったからです」
脳裏によみがえったのは、土砂降りだった昨日のことだ。
傘を忘れた私・宮下栞(みやした しおり)は、会社のエントランスから出られずにいた。同じように足止めされていたのが、神谷啓介(かみや けいすけ)の新しいアシスタント、篠原朱里(しのはら あかり)だった。
傘を一本だけ持って下りてきた啓介は、迷うことなく朱里を選んだ。彼女とは、交際を疑われる心配がないからだ。
啓介は私を見ると、淡々と言った。
「栞、俺たちは特別な関係なんだ。こんなことで余計な噂を立てられる必要はないだろう」
一つの傘に入って遠ざかっていく二人の背中を、私は長いあいだ呆然と見つめていた。
やがて意を決し、降りしきる雨の中へ飛び出した。
啓介と付き合って10年。彼からいちばん多く聞かされたのは、「特別な関係だからこそ、公私を分けるべきだ」という言葉だった。
だから、通勤はいつも一人。昇進の機会は、いつもほかの誰かに譲らされた。
今では、同じ傘に入ることさえ望んではいけないらしい。
退職届の控えを受け取ったあとも、外では小雨が降り続いていた。
けれど今度は、自分の傘を差し、落ち着いた足取りで歩き出した。
※作品紹介ではなく、第1話の書き出しをそのまま掲載しています。第1話の続きを読む
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