和紙文風に散る霧、過ぎし日の痕 · 第2話設定≡

風に散る霧、過ぎし日の痕第2話

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「絶対に、お前を失望させたりしないから!」

その簡潔な返信は、傷だらけの夢乃の心を、かすかに慰めてくれた。

そもそも、礼がまだ生きていると電話を受けたとき、夢乃はまだ現実感が持てず、ぼんやりしていた。

すべての真相をようやく知らされたばかりだったから、というだけじゃない。

電話口で礼が最初に口にした一言が、あまりにも衝撃的だったのだ。

「夢乃。やつらが俺たちに押しつけてきたこの茶番、全部まとめてそっくり返してやる気はないか?」

最初は、あまりにも馬鹿げた話に思えた。

だが、次から次へと重なっていく欺きと傷つけられる出来事の中で、胸の奥にかろうじて残っていた風雅への愛情にも、完全に憎しみが入り込み始めていた。

どうせ彼は、佐藤家の次男・礼という身分と、茜という女があれほどまでに気に入っているのだ。

ならば自分も、その流れに乗ってやるだけだ。

二度と後戻りできないところまで──

……

翌日。夢乃は一人で退院の手続きを済ませた。

病院の外には、すでに父の運転手が車を停めて待っていた。

「お嬢様、今日は奥様のご命日です。社長が、ぜひお屋敷に戻ってきてほしいと仰っています」

母の優しい顔がふっと脳裏に浮かぶ。

夢乃はしばし迷った末、結局そのまま車に乗り込んだ。

けれど、三浦家の本宅に足を踏み入れた途端。

リビングでは茜と継母が、楽しそうに婚約パーティー用のドレスと祝い菓子を選んでいるところだった。

夢乃は眉間に深く皺を寄せ、そのまま歩み寄ると、テーブルを勢いよくひっくり返した。

茜の悲鳴じみた叫び声が二階にいた父を呼び寄せる。

様子を見下ろした父は、怒鳴りつけるように問いただした。

「夢乃、お前はまた何を馬鹿な真似をしているんだ。

長いこと家に寄りつきもしなかったくせに、戻ってきた途端、家の中をこんなにかき乱して!」

夢乃は鼻で笑った。

「そうね。

私が長いこと帰ってこなかったせいで、あなた、もうこの家のことを忘れたのかしら。

今のあなたの地位も、会社も、全部、私の母の家柄と才能のおかげだっていうのに。

三浦健太(みうら けんた)。今日は私の母の命日よ。

本来なら家族全員、精進して仏前で手を合わせているべき日でしょう?

それなのに、あなたは自分の溺愛する女たちに、私の目の前でこんな縁起でもないことをさせている。

私に暴れろって、わざと挑発しているのと同じじゃない?」

パシン、と乾いた音が鳴り響き、平手打ちが夢乃の頬に叩きつけられた。

父は怒りに任せて怒鳴る。

「夢乃、ここはお前だけの家じゃない。

玲子(れいこ)は今やお前の継母で、茜はお前の妹だ!

たとえお前が俺の実の娘でも、この家で好き勝手していいわけじゃない!」

夢乃は頭をわずかに傾け、舌先で口元ににじんだ鉄の味をそっとなめ取った。

そのとき、気づかれにくい一粒の涙が、つうっとこぼれ落ちた。

彼女はそれを淡々と拭い、振り向きざまに腕を振り抜いた。

パァン、と鋭い音とともに、その掌はそばにいた茜の頬を強く打ち据える。

激昂する父に向かって、夢乃は言い放つ。

「私は昔から、恨みは恨みで、復讐は復讐で返す人間よ」

そう言いながら、夢乃は手を上げ、父と、床にへたり込んで泣き叫ぶ茜を指さす。

「だから、この一発は──親の罪を、子に償ってもらっただけ」

……

そのあと、周りの人間が怒りで顔を青紫に染めていようと、夢乃は一切気にも留めず、くるりと背を向けて、母のもとへ参りに行こうとした。

だが次の瞬間、その腕が誰かに乱暴に掴まれ、ぐいっと引き止められる。

「夢乃。謝れ」

陰鬱で低い風雅の声が、すぐ横から響いた。

夢乃はその手を乱暴に振りほどき、せせら笑う。

「何を根拠に私が謝らなきゃいけないわけ?礼。

記憶が間違ってなければ、ここは三浦家よ。

たとえ佐藤家にいたとしても、少なくともあなたは……私のことを義姉さんって呼ぶ立場じゃなかったかしら?」

風雅はその言葉に、一瞬だけ動きを止めた。

代わりに茜が前に出て、いかにもか弱そうな演技で彼の胸に飛び込み、か細い声で泣き出した。

「礼、もうお姉ちゃんを責めないで。

全部私が悪いの。私が余計なことをして、お姉ちゃんを怒らせちゃったの。

もし私を叩くことでお姉ちゃんの気が済むなら、私はそれでも構わないから……」

こうしていかにも健気な芝居を打つ姿が、かえって風雅の目元に怒りの色を浮かび上がらせた。

「お義父さん。兄はもう事故でこの世を去りました。

今の佐藤家のことは、すべてこの俺が決めています。

そして今、三浦家の娘が過ちを犯しました。

なら、その罰は──あなたの手でしっかりと与えるべきじゃありませんか?」

父は風雅の含みのある言葉をすぐさま理解し、そばに控えていたボディーガードに向かって怒鳴った。

「お嬢様を仏間へ連れていけ。家の掟どおり罰を受けさせろ!」

夢乃は信じられないものを見るように父を見上げ、目を血走らせて叫び、必死に抵抗する。

「離して──っ!」

だが彼女を待っていたのは、仏間に響き渡る鞭の音だった。

「あああっ──!」という悲鳴が上がるたび、夢乃の全身は震え、額からは冷たい汗がにじみ出た。

風雅はようやく片膝をつき、口を開く。

「夢乃。茜に謝りさえすれば、これらすべて終わる」

夢乃は嗤うように顔を上げ、その冷えきった唇から、たった一言だけを吐き捨てた。

「夢でも見てなさい」

彼女は唇をかみしめたまま、背中の皮膚が裂け、血がしたたろうとも、一言たりとも譲ろうとはしなかった。

最後の一撃が落ちたとき、夢乃は息も絶え絶えに、ようやくその場に崩れ落ちた。

風雅はといえば、茜を腕に抱いたまま、高みから見下ろすだけだった。

その冷ややかな眼差しは、毒を含んだ氷のようだ。

じわじわと、夢乃の心を切り裂いていく。

……

風雅は、本当は知っている。

母の死以来、夢乃がこの仏間を何よりも嫌っていることを。

父親が、言うことを聞かないという理由で、いつも彼女をここへ閉じ込めてきたからだ。

そのことを知ったとき、風雅は直接健太のもとへ乗り込み、鋭い声で警告したことがあった。

「三浦さん。もしまた夢乃を閉じ込めているなんてことがあれば、そのときは三浦グループに、破産する覚悟を決めてもらうことになりますよ」

なのに今の彼は、別の身分をまとったまま、自分の手で彼女をここへ放り込んだのだ。

仏間の扉が閉まるとき、夢乃は顔を上げ、母の位牌を見つめた。

堪えていた涙が一気にあふれ出す。

「お母さん……娘の私も、あなたと同じ。目も心も曇って、人を見る目がなかったみたい。

でも安心して。私は必ず、あの人たちに代償を支払わせるわ」

そう呟き、夢乃は歯を食いしばって立ち上がり、脇に置かれていたハンマーを手に取った。

「ゴン、ゴン、ゴン──!」と轟音が響き渡る中、彼女は三浦家の仏間をめちゃくちゃに叩き壊していった……

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