和紙文風に散る霧、過ぎし日の痕 · 第3話設定≡

風に散る霧、過ぎし日の痕第3話

この話は約1710字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

夢乃の父は物音を聞きつけて駆けつけ、仏間の中の光景を目にした。

位牌は床一面に倒れ、蝋燭の火は四方に飛び散っている。

彼は怒りで顔を真っ赤にし、怒鳴った。

「夢乃、お前本気で頭がおかしくなったのか?」

夢乃は涙を浮かべたまま、冷たく笑う。

「そうよ。私はもう昔の夢乃じゃない。

あんたの仏間なんかに、もう私を閉じ込めておけないから!」

そう言い放つと、彼女は手にしていたハンマーを振りかぶり、父の目の前の床に叩きつけた。

そして、母の写真と位牌だけをぎゅっと抱きしめると、一度も振り返らずに三浦家を出ていった。

……

けれど車に乗り込み、バックミラー越しにあの家を見たとき、涙はやはり止まってはくれなかった。

子どもの頃は温かくて、大好きだった家。

父の愛と母の穏やかさに包まれていた日々。

それらは、彼女が十二歳の年にはもう、完全にバラバラに壊れていた。

その年、夢乃の母は、自分が夫にとって、心に抱き続けてきた女の「身代わり」に過ぎなかったことを知ってしまったのだ。

絶望した母はやがて交通事故に遭い、突然この世を去った。

母の死後、父はずっと、どこか母に似た女たちを探し続けていた。

最初、夢乃はそれを「母を忘れられない父なりの、苦しい自己暗示」だと、無理やり納得しようとしていた。

だが、茜の母が姿を現したとき、ようやく思い知らされる。

本当の「身代わり」だったのは、自分の母のほうだったのだと。

二人が再会すると、父はあっという間に彼女を妻として家に迎え入れた。

そして、その女の娘である茜をそれとなく甘やかしてきた。

それからというもの、夢乃と父の関係は、ますます水と油のようになっていった。

ただ一人、風雅だけが、ずっと夢乃のそばにいた。

とろけるような夜のたびに、耳元で何度もささやいてくる。

「夢乃。俺は一生、お前を愛してる」

けれど今振り返れば、その愛は、糖衣をまとった毒のようなものだった。

華やかだが致命的な毒。

……

夢乃は傷だらけの身体を引きずりながら、東都で昼夜絶えず故人の安らぎを祈るための長寿香が焚かれている福安寺に向かい、そこに母の位牌を納めた。

そして、全身の力が抜け落ちたような状態で、ようやく佐藤家へと戻ってきた。

だが灯りより先に彼女を照らしたのは、スマホに届いた通知だった。

茜が次々とアップしている投稿は、どれも風雅との甘いシーンばかりだ。

アイスランドのオーロラの下で、熱く抱き合っている写真。

雪山の頂で、肩を並べて遠くを見つめるツーショット。

深海ツアー用のカプセルの中で、掌と掌を合わせている姿。

違う海域ごとに撮られた、ロマンチックなキスの写真。

最新の一枚は、茜が風雅の首に親しげに腕を回し、朝日に染まって金色に輝く雪山を背景にした、二人のシルエットだった。

添えられた一文。

【何年も前に何となく口にした好みを、彼は私以上にちゃんと覚えていてくれた!】

画面の中で茜を見つめる風雅の熱い視線と、今にもスクリーンからあふれ出しそうな溺愛ぶりを見つめながら──

夢乃は、ふっと笑った。

けれど、まつげの先から落ちる涙は止まらず、ぽろぽろと頬を伝っていく。

風雅が卒業して帰国してから、彼女だけのためだと思っていた特別な贈り物や思い出は、どれも結局、彼の本命のための「下見」に過ぎなかったのだ。

夢乃は、充血した目のまま、スマホの画面をぱたりと暗く消した。

それでも、激しく波打つ心臓は、見えない手でぎゅっと握りつぶされているようで、息ができないほど痛い。

彼女は胸の痛みを無理やり押さえ込み、部屋の中へと歩みを進めた。

スイッチを入れた瞬間、壁一面に飾られた「幸せの記念写真」が、再び彼女の目を焼きつくように刺す。

十数年寄り添ってきた誕生日のツーショット。

長く続いた恋人時代の、記念旅行の写真の数々。

パリのエッフェル塔の下でのロマンチックなプロポーズ。

そして、二人の幸せそうなウェディングドレス姿を集めた写真たち。

かつて熱くて甘かった一場面一場面が、夢乃の大粒の涙と一緒に、巨大な鉄のドラム缶の中へ、次々と投げ込まれていく。

火がついた瞬間、あの記憶も、あの美しい瞬間も、すべてが嘘と共に焼き尽くされていった。

まるで、滑稽な夢を一つ、燃やしてしまうみたいに。

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