音もなく雪が降る第2話
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それを聞いた瞬間、彼女の細い眉毛がビクッとした。瑞雪はただ黙りこくって、返事しなかった。
長身の乃安はその異常に気づかなかったかのように、すっと寄ってきて、いきなりその肩に手を回した。
「家で休まないで、こんなところに来て、そんなに会いたかったの?一緒にご飯、食べたくなってきたの?」
二年前、瑞雪が低血糖で倒れてから、また倒れてしまうのが心配で、乃安は仕事を辞めさせた。
大切に世話をしているだけでなく、屋敷の至るところまで監視カメラを設置した。彼女に何かあったら、すぐにわかるために。
監視カメラを設置したものの、彼の心は、すでに他の女に移った。
そうでなければ、彼女が朝っぱらから出かけたことも知っているはずなのに。
どうでもいい。もう帰ると決めたのだから、彼の心がどこに移ろうが、もうどうでもいい。
男の体から薄々と香る匂いが鼻をついた。自分とは真逆な激しいバラの香りだった。瑞雪は顔を横に向け、息を詰めるようにして言った。
「この近くのフランス料理が食べたくなってきて」
「じゃ食べに行こう。食べ終わったらまた戻って、一緒に昼寝しよう」
乃安は笑いながら、更に力強く彼女を抱きしめた。
「瑞雪、知ってるはずだ。君がいなきゃよく眠れないんだ。こんな毎日俺に付き合わせたら、君も疲れちゃうからさ。でないと朝昼晩、君を縛りたいぐらいずっと一緒にいてほしかったよ」
一緒にいて、会社を経営しながら妻を可愛がると同時に、他のところで良い夫、いいパパを演じる時間管理術抜群の二股男の実演でも見せられるの?
皮肉な笑みを浮かべ、瑞雪は乃安と一緒に駐車場に行き、車で近くのレストランに向かった。食事の後、また本社に戻った。
昨夜メッセージが来てから、彼女は長らく便座に座っていて、ほぼ一睡もできなかったから、昼寝と言って、かなり長時間爆睡していた。
起きたら、もう午後4時過ぎだった。乃安は真面目で一心不乱な目をしていて、パソコンの前で仕事に没頭していた。
足音を聞いて、彼はすぐに仕事を後ろ倒しにし、何かを貢ぐかのように簡易冷蔵庫から用意しておいた果物とデザートを取り出した。
「随分寝てたな。お腹空いただろ?君、昨夜あんまり眠れなかったみたいだから、早めに切り上げて、美味しいものを食べに連れて行こうと思って。食事が済んでからまた帰って休んで、ね?」
自分から言い出したことは、半時間も経たずに反故にされた。
突如着信音が鳴って、その目鼻立ちの整った顔から躊躇ったような表情が見えた。
「ごめんな、瑞雪。プロジェクトからちょっと急用があって、会長の俺が自ら処理しに行かなきゃいけないから、今晩は一緒にいてあげられないんだ。好きなレストランに食べに行って。それからどっかでショッピングしてもいいよ。俺からの補償として、買いたいものがあったら何でも買っていいから」
瑞雪は知っているはずだった。
自分は一人ぼっちだが、心晴には子供もいることを。
乃安は自分のためにこんなに時間を裂いてくれたのだから、飽きてしまって心晴とその子供のところに行きたくなるのも、無理もない。
しかし、彼女はやはり不愉快に感じた。だから、わざとらしく嫌がらせを言った。
「何の急用?アシスタントの前田さんに伝言させずに、そのままあなたのスマホに電話するなんて。まだ帰ってないことを知らなかったの?」
乃安の瞳は一瞬で曇った。
それに気づいた瑞雪は淡々と続いた。
「でも会社のことなんだから、私が怒ってもしょうがないし、あなたのせいでもないからね。こんなでかい会社を一人で経営するのもう結構大変なのに、妻として何も手伝ってあげられなくて、だからこそ仕事のことでもっと寄り添ってあげなきゃよね」
乃安は明らかにほっとした。
「やっぱり瑞雪が一番わかってくれるな」
「こういう私だから好きになったんでしょ?」
手を引っ込めようとした瞬間、瑞雪はふと乃安のスマホの画面に目を走らせた。画面に映っているのはラインでの短いやり取りと、送られた一枚の写真だった。
少し距離があったため、写真の内容ははっきり見えなかったが、間もなく、自分のスマホにも届いた。
透け感のある黒いパジャマの自撮りだった。
角度が絶妙で、表情も色気があった。そのような妖艶な姿は、いつもまともで地味な自分よりはずっと誘惑的だった。
乃安が約束を破ってまで心晴に会いに行くものだ。
ただ、両方を駆け回っている中、彼は忘れてしまったようだ。結婚したばかりの頃、彼女とも毎日やる気満々だったことを。毎晩4、5回やっても満足できず、翌日の朝にはまたやりたくなるくらいだった。しかしある時期、彼女は生理が一週も遅れてしまい、彼も怯え始めた。つけていてもそのような頻度ではできなかった。
彼は「控えめにしないと。妊娠させたら邪魔者が現れてしまう」と言っていたが、結局控えめにするのは妊娠させてしまうのが心配だからとかではなく、心晴のところで最大限に発散するためか。
長い睫毛が垂れていて、冷笑するような瞳を覆った。瑞雪はカバンを持って、篠崎グループの本社を後にした。
車でぐるっと回って、彼女は乃安の言う通りにレストランに行ったのではなく、そこでタクシーを捕まえてまた戻ろうとした。
まだ近づいていないのに、遠くから急いでいるような乃安が見えた。焦っているような顔色をした彼は本社の向かいの二棟の多目的ビルに駆けていった。
ふとその向かいに、乃安の買ったレジデンスを思い出して、瑞雪は顔色が急に変わった。
まだ付き合っているだけの時期に、彼は「会社でゆっくり休めないかもしれない」と、わざわざ二人の昼寝用にレジデンスを買った。
この日の昼頃、自分は本社と多目的ビルの間で乃安に会った。
となると、彼は社員の話を聞いて自分を迎えに来たのではなく、向かいに心晴に会いに行く途中だったのか。
ただちょうど自分とバッタリ会ったから、行けなかった。
ようやく自分が離れたら、また我慢できずに心晴のところに。
あんなにも待ち遠しく。
すでに帰る決意をしたのに、この瞬間、瑞雪の心はやはりチクチクと疼いた。
右手で胸元を押さえ、彼女の小顔は真っ青になった。冷や汗も滲み出しそうになった。
「どうしたのですか?具合が悪いんですか?病院に行きます?」
運転手は焦りながら問いかけた。
病院?そうだ。具合が悪いなら病院にいかないと。それに誰かについてもらわないと。
深呼吸をしてなんとか気持ちを落ち着けてから、瑞雪はスマホを取り出し、乃安に電話をかけた。
「乃安、急に胸が痛くて、苦しいの。家に帰って、病院に連れてってくれない?」
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