雪乃の新しい道第2話
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宴会場を出ると、廊下の冷気が顔に当たった。
さっき中で受け取ったブーケの花粉に当てられてぼんやりしていた頭は、それでもあまりしゃっきりとはしなかった。
むしろ激しい感情の波に引っ張られて、体が生理的な拒絶反応を起こしていた。
壁に手をついて、胸が引き裂かれるのではと思う程に咳き込んだ。涙が勝手にあふれた。
私はアレルギー性の喘息持ちで、刺激に弱い。
誠は知っていた。でも一度も気にしなかった。
私が咳き込むと、嫌そうに眉をひそめて、咳が終わったらこっちに来いと言うだけだった。場の空気を壊すなと。
足元がふらついて、ヒールがぐらついて、バランスを崩して体が倒れた。
だが、覚悟していた痛みは来なかった。
節張った大きな手が、私の手首をしっかりと掴んでいた。
その手は細く暖かく、かすかにシダーウッドの香りがした。
「深呼吸して、焦らなくていい」
頭上から、静かだが温かみのある声がした。
続いて、白湯と白い錠剤が差し出された。
「ロラタジン、抗アレルギー薬です」
涙でにじんだ目を上げると、目の前の顔が見えた。
結婚式の席の中で、ずっと一言も喋っていなかった天野時也(あまの ときや)だった。
彩の新郎の従兄弟で、海外から戻ってきたばかりだと聞いていた。トップクラスの心臓外科医だという。
式の間ずっと会場の隅に静かに座っていた。冷静で品があって、周りの騒がしさからは浮いた存在だった。
「ありがとう……」
水と薬を受け取ったが、手がまだ少し震えていた。
時也は手を離さず、私の背中に手を添えて気を落ち着かせてくれた。
その動作は紳士的で控えめで、一切の無礼がなかったが、それでいて大きな精神的な支えになった。
「車を呼びましょうか、白河さん?」
えっ、私の名前を知っているの?
聞き返す前に、後ろから急ぎ足の音がした。
「雪乃!」
誠が追いかけてきた。
私が時也の近くに立っているのを見て、たちまち不機嫌な顔になっていた。
私の様子に気づいた素振りもなく、大股で近づいてきて、私を時也から引き離した。
「天野先生、お気遣いなく。こいつは俺が世話するから」
敵意をあらわにした目で時也を一瞥してから、私を見て眉をひそめた。
「また咳が出たのか?それより、なんであいつと一緒にいるんだ?」
私は誠の手を振り払い、彼を冷たく見つめた。
誠は少し間を置いてから、ポケットからベルベットのケースを取り出し、私の手に無理やり押しつけた。
「もうそういう態度はやめろ。これをやるから。
千夏がこのネックレスは少しダサいって言ってたんだ。お前前にこのブランドが好きだって言ってたろ、持ってけ」
そしてさも当然のように続けた。
「見合いには顔を出すだけだ、後のことはまた考える。
おとなしくしてろ、心配をかけるな」
私は手の中のケースを見下ろした。
千夏が少し前にいじっていて、興味なさそうに放り出したものだった。
七年間の片思いしていた気持ちと、一年間の付き合っていた時間を捧げ、最後に私に残ったのは、千夏の要らない残り物を拾う資格だけだった。
急に胸がむかついた。
手を上げて、ケースを隣のゴミ箱に投げ込んだ。
「誠」
低く抑えた声で、一言一言区切って言った。
「ゴミはゴミ箱に捨てるべきね。
ネックレスも、人も」
誠が固まった。
私はもうそれ以上は誠を見なかった。振り返って時也を見た。
「天野先生、車を呼んでいただけますか?」
時也の視線が、激昂した誠の表情を通り過ぎて、私に落ち、微かに頷いた。
「喜んで」
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