和紙文雪乃の新しい道 · 第2話設定≡

雪乃の新しい道第2話

この話は約1398字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

宴会場を出ると、廊下の冷気が顔に当たった。

さっき中で受け取ったブーケの花粉に当てられてぼんやりしていた頭は、それでもあまりしゃっきりとはしなかった。

むしろ激しい感情の波に引っ張られて、体が生理的な拒絶反応を起こしていた。

壁に手をついて、胸が引き裂かれるのではと思う程に咳き込んだ。涙が勝手にあふれた。

私はアレルギー性の喘息持ちで、刺激に弱い。

誠は知っていた。でも一度も気にしなかった。

私が咳き込むと、嫌そうに眉をひそめて、咳が終わったらこっちに来いと言うだけだった。場の空気を壊すなと。

足元がふらついて、ヒールがぐらついて、バランスを崩して体が倒れた。

だが、覚悟していた痛みは来なかった。

節張った大きな手が、私の手首をしっかりと掴んでいた。

その手は細く暖かく、かすかにシダーウッドの香りがした。

「深呼吸して、焦らなくていい」

頭上から、静かだが温かみのある声がした。

続いて、白湯と白い錠剤が差し出された。

「ロラタジン、抗アレルギー薬です」

涙でにじんだ目を上げると、目の前の顔が見えた。

結婚式の席の中で、ずっと一言も喋っていなかった天野時也(あまの ときや)だった。

彩の新郎の従兄弟で、海外から戻ってきたばかりだと聞いていた。トップクラスの心臓外科医だという。

式の間ずっと会場の隅に静かに座っていた。冷静で品があって、周りの騒がしさからは浮いた存在だった。

「ありがとう……」

水と薬を受け取ったが、手がまだ少し震えていた。

時也は手を離さず、私の背中に手を添えて気を落ち着かせてくれた。

その動作は紳士的で控えめで、一切の無礼がなかったが、それでいて大きな精神的な支えになった。

「車を呼びましょうか、白河さん?」

えっ、私の名前を知っているの?

聞き返す前に、後ろから急ぎ足の音がした。

「雪乃!」

誠が追いかけてきた。

私が時也の近くに立っているのを見て、たちまち不機嫌な顔になっていた。

私の様子に気づいた素振りもなく、大股で近づいてきて、私を時也から引き離した。

「天野先生、お気遣いなく。こいつは俺が世話するから」

敵意をあらわにした目で時也を一瞥してから、私を見て眉をひそめた。

「また咳が出たのか?それより、なんであいつと一緒にいるんだ?」

私は誠の手を振り払い、彼を冷たく見つめた。

誠は少し間を置いてから、ポケットからベルベットのケースを取り出し、私の手に無理やり押しつけた。

「もうそういう態度はやめろ。これをやるから。

千夏がこのネックレスは少しダサいって言ってたんだ。お前前にこのブランドが好きだって言ってたろ、持ってけ」

そしてさも当然のように続けた。

「見合いには顔を出すだけだ、後のことはまた考える。

おとなしくしてろ、心配をかけるな」

私は手の中のケースを見下ろした。

千夏が少し前にいじっていて、興味なさそうに放り出したものだった。

七年間の片思いしていた気持ちと、一年間の付き合っていた時間を捧げ、最後に私に残ったのは、千夏の要らない残り物を拾う資格だけだった。

急に胸がむかついた。

手を上げて、ケースを隣のゴミ箱に投げ込んだ。

「誠」

低く抑えた声で、一言一言区切って言った。

「ゴミはゴミ箱に捨てるべきね。

ネックレスも、人も」

誠が固まった。

私はもうそれ以上は誠を見なかった。振り返って時也を見た。

「天野先生、車を呼んでいただけますか?」

時也の視線が、激昂した誠の表情を通り過ぎて、私に落ち、微かに頷いた。

「喜んで」

縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)