雪乃の新しい道第3話
この話は約1352字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
帰宅してから、誠の連絡先を全部ブロックした。
それから、家に置いてある彼の荷物を箱に詰め始めた。
シャツ、お気に入りのゲーム機、何気なく買ってくれた安い小物……
これらを見ていると、ぼんやりとした気持ちになった。
大学二年の頃、彼と話題を合わせるために嫌いな金融の副専攻を無理やり取った。
大学三年の頃、彼が胃痛を起こして深夜に電話してきた。大雨の中、薬局まで走って薬を買い、一晩中ベッドの横に座ったり看病した。
翌朝目を覚ました彼は、ベッドの端でうずくまっている私を見て一言だけ言った。
「ありがとな」
その後、付き合うことになった。
例え秘密の関係でも、私には十分だった。
料理を覚えるために、手に怪我を沢山した。「家庭料理が食べたい」という彼のひと言のためだけに。
会社の報告書を手伝うために深夜三時まで残業して、翌日はくまを作って出社した。
彼は私のあらゆる献身を当たり前のように受け取りながら、外ではずっとこう言い続けていた。
「雪乃?ただの妹みたいなもんだよ、それ以上の感情はない」
十分に尽くせば、おとなしくしていれば、いつかは振り向いてもらえると思っていた。
でも、彼は何の躊躇もなく家の見合いを受け入れた。
ある種の人間には、そもそも心がないのだと、その時ようやく分かった。
最後の上着を箱に押し込んでガムテープを貼った。それから宅配を呼んで、その大きな箱を誠の会社の受付に直接送りつけた。
全部終えて、大きく息を吐いた。
七年分の重い枷を、ようやく外せた気がした。
深夜、スマホの画面が光った。知らない番号からのメッセージだった。
でも書いてある文章の口調で、一目で誰なのかが分かった。
【雪乃、今日なんで天野時也と一緒にいたんだ?あいつに近づくな、ろくな男じゃない】
笑えた。彼はいつもこうだった。
私の交友関係を厳しく管理して、他の男性と余計な言葉を交わすことも許さなかった。
でも自分の交友の輪の中に私を彼女として連れていったことは一度もなかった。
彼の友人たちは私のことを、都合のいい「妹分」なんだとしか捉えていなかった。
返信せず、その番号もブロックした。
翌朝の早朝、部長の坂本隆(さかもと たかし)のオフィスに入った。
「部長、異動の申請をしたいんです」
あらかじめ準備していた申請書をデスクに置いた。
隆は驚いた顔で私を見た。
「白河さん、今の部署は楽だし安定してるのに、なんでいきなり主力プロジェクトチームに?あっちは忙しいことで有名だし、出張も多いよ?」
以前は、誠のそばにすぐ駆けつけられるように、会社で一番暇な総務の仕事に留まっていた。
わずかな給与をもらいながら、自分の専門性を無駄にし続けていた。
私は建築デザインを学んでいた。かつては全額奨学金をもらったほどの優等生だった。
それなのに誠のために、彼の周辺をぐるぐると回るだけの付属品に成り下がっていた。
「若いうちに、もっと本気でやってみたくて」
微笑みながら答えた。私の心には今まで感じたことのない活力があった。
「明徳プライベートホスピタルの入札プロジェクト、チームを組んでいると聞きました。挑戦させてください」
それは会社の今年最大のプロジェクトで、成功すれば私のキャリアで最高の逆転劇になる。
隆はしばらく私を見てから、最後に頷いた。
「いいだろう、やってみろ。失望させるなよ」
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