和紙文金目当てとされた妻、7年遅れで悔やむ夫 · 第2話設定≡

金目当てとされた妻、7年遅れで悔やむ夫第2話

この話は約2234字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

撮影スタジオに着いたとき、雨は激しく降っている。

警備員は私の顔を知っているはずなのに、入り口の前に立ちはだかり、中へ入れようとしない。

「社長から、奥様は中へ入れるなと指示されています」

「急用があるの」

「社長は、どんな用件であっても会わないとおっしゃっています」

雨の中に立ち尽くし、フェンス越しに明かりのついた撮影現場を見つめる。

一番大きな差し入れのケータリングカーには、明紗の名前が大きく掲げられている。

朔也は彼女のためならスタジオを丸ごと貸し切るというのに、私には1000万円すら出そうとしない。

私は騒ぎ立てることなく、ただ入り口で待ち続けた。

3時間後、明紗のマネージャーが傘をさして出てきた。

「明紗さんがお呼びです。中へどうぞ」

マネージャーの後について控え室へと向かう。

ドアが閉まった途端、二人のボディガードが出口を塞いだ。

明紗はドレッサーの前に座っている。身にまとっているのはオートクチュールのドレスだ。

鏡越しに私を値踏みするように見つめ、その視線が長いこと私の顔に留まる。

「あんたが、立花郁実なのね」

明紗は立ち上がり、ゆっくりと私の前まで歩いてくる。

「朔也からは、欲深くて卑しい女だと聞いていたわ。どんな女かと思えば、なかなかきれいじゃない」

明紗の敵意を無視して、口を開く。

「朔也はどこ?」

「探してどうするの?」

「1000万円、必要なの。お金さえもらえれば、すぐに灰原家から出ていく」

私が出ていくと聞いて、明紗の目がわずかに輝く。けれど次の瞬間、彼女は冷ややかな笑みを浮かべた。

「本当に出ていくつもり?

朔也の子を産んだのは、いつか子どもを頼りに灰原家から甘い汁を吸うためじゃないの」

そう言いながら、明紗は腕を上げる。手首には、見覚えのあるダイヤモンドのブレスレットが輝いている。

ニュースで見たことがある。落札価格は1億6000万円だ。

朔也が彼女のクランクアップを祝って贈ったプレゼントだ。

「朔也はあんたのことなんか、愛してない。

あんたを連れ戻したのだって、朔也の子を産んだからにすぎないわ」

私は明紗を見つめる。

「言いたいことはそれだけ?」

明紗の顔から笑みが消える。

「どういう意味よ」

「男を取り合いに来たわけじゃない。欲しいのはお金だけよ」

明紗は私をじっと見つめ、その言葉が嘘か本当かを見極めようとしているようだ。

しばらくして、彼女は突然腕を振り上げ、私の頬を力いっぱい平手打ちした。

「何、澄ました顔してるのよ」

耳の奥でキーンと音がして、よろめいてドレッサーにぶつかる。

明紗は私の髪をつかみ、無理やり顔を上げさせる。

「本当に朔也に未練がないなら、どうしてまだ離婚しないのよ!

朔也が一番愛してるのは私だって、みんな知ってるわ。なのに、あんたが離婚しないせいで、私はいつまでも愛人呼ばわりされるのよ!」

髪を引っ張られ、頭皮がずきずき痛むが、抵抗はしなかった。

「だったら、私を追い出せばいい」

明紗が一瞬、虚を突かれたように動きを止める。

私は手を差し出す。

「1000万円をくれたら、すぐに息子を連れて灰原家から出ていく。

これからはもう二度と、あんたたちの前には現れない」

明紗は私の手を見つめ、その目に宿っていた嫉妬が、次第に冷ややかな軽蔑へと変わっていく。

「やっぱり、お金目当てなのね」

明紗は私の髪から手を放し、スマホを取り出す。

ほどなくして、振込入金のお知らせメールが届いた。画面に表示された金額を見つめる。200万円だ。

「あと800万円、足りない」

「もうないわ」

明紗はスマホを乱暴にテーブルに放り投げる。

「1000万円なんて出さない。200万円あげるから、それを持って灰原家から出ていきなさい」

彼女は送金画面を見ながら、蔑むように笑った。

「だって、朔也にとってあんたたちの価値なんて、その程度のものよ。

さっさとそのクソガキを連れて消えて」

「クソガキ」という言葉を聞いて、私はようやく顔を上げる。

「クソガキなんかじゃない。ちゃんと名前がある」

明紗は再び手を振り上げ、私の頬を打った。

「男をつなぎ止めるために産んだ道具のくせに、私の前で名前なんて口にするんじゃないわ」

唇の端が切れ、血が顎を伝って落ちる。それでも、私は手を出さない。

200万円はすでに振り込まれている。まだ800万円足りない。

海人を連れて逃げられるのなら、この程度の痛みはどうってことはない。

「朔也はいつ戻ってくるの?」

私はもう一度尋ねる。

「残りの分は彼からもらう」

明紗の顔から、得意げな笑みが一瞬で消える。

「200万もあげたのに、まだ朔也につきまとうつもり?」

明紗はマネージャーが持っていたコーヒーを奪い取ると、私めがけてぶちまける。

淹れたてのコーヒーが服に染み込み、熱さに全身がビクッと震える。

「この女を押さえつけなさい」

そばで控えていたボディガードが即座に私の肩をつかみ、床に押さえつける。

明紗はヒールで容赦なく私の手を踏みにじる。

「金さえもらえば出ていくと言ったんだから、大人しく引き下がりなさいよ。

これ以上朔也の前に現れたら、あんたとそのクソガキ、まとめてこの世から消してあげるわ」

痛みに耐えながら、明紗を見上げる。

「今日、どうしても彼に会わなきゃいけない」

明紗が手を振り上げ、私の顔めがけて勢いよく振り下ろす。

一度。

二度。

三度目の平手打ちが落ちる寸前、控え室のドアが突然開いた。

そこには、朔也が立っている。

彼の視線は明紗を通り越し、赤く腫れ上がった私の頬と、ヒールで踏みつけられた手に落ちる。

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