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金目当てとされた妻、7年遅れで悔やむ夫第1話

この話は約2667字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

灰原朔也(はいばら さくや)が起業に失敗したとき、私・立花郁実(たちばな いくみ)は自分から別れを切り出した。

彼の母親に、「朔也の前から消えてくれたら、あの子を家に戻して、跡を継がせるわ」と言われたからだ。

私は朔也の前から姿を消した。その後、自分が妊娠していることに気づいた。誰にも頼らず、一人で子どもを産んだ。

5年後、朔也は灰原グループの社長として名を馳せていた。

そんなある日、彼は突然私の前に現れた。そして、私と息子・灰原海人(はいばら かいと)をそのまま灰原家へ連れ帰り、その日のうちに私と結婚した。

けれど新婚初夜、朔也は私のあごを乱暴につかみ、嫌悪に満ちた目で私を見つめる。

「金がなくなった途端に俺を捨てたくせに、今度はどこの馬の骨ともわからないガキまで連れてきたのか。俺を騙して、金をせびるつもりか?」

DNA鑑定を3回繰り返し、ようやく海人が自分の息子だと認めた。

それでも朔也は、私が海人を産んだのは、彼が再起する日を待つためだったと思い込んでいた。

グラスを揺らしながら、冷たい笑みを浮かべる。

「今日から、俺の金に手を出すな。1円たりとも使わせない」

そう言って、私に雑巾を投げつける。

「金が欲しいなら、働け」

それからの私は、灰原家の家事をすべて一人で引き受けた。その代わりに与えられるのは、月10万円の生活費だけだった。

一方、朔也の周りには次から次へと新しい女が現れ、彼はその女たちに惜しげもなく大金を使っていた。

それなのに、私だけは海人の薬を買うのすら、朔也に許可を取らなければならなかった。

海人が急に倒れた夜、病院から手術費の支払いを催促された。

朔也に何度も電話をかけたが、最後まで出ることはなかった。

その夜、朔也は今をときめく若手女優・結城明紗(ゆうき めいさ)とレッドカーペットを歩き、彼女のために2億円ほどのダイヤモンドのブレスレットを競り落としていた。

午前3時、海人は息を引き取った。

夜が明け、ようやく朔也が病院に駆けつけた。

私は結婚指輪を外し、離婚協議書と一緒に、朔也の前へ静かに置く。

朔也は誰もいなくなったベッドを一瞥しただけで、面倒くさそうに眉をひそめた。

「郁実、もういい加減にしろ。また金を騙し取って逃げるつもりか?

金目当てのお前が、灰原家の財産や地位を手放せるわけがないだろ」

朔也をまっすぐ見つめ、ふっと笑った。

「すぐに分かるわ。

私は海人と一緒に、あんたが二度と手の届かない場所へ行くの」

* * *

病院から支払いの請求書を渡されたとき、海人の体はすでに冷たくなっていた。

1000万円。

救命措置や手術、それまでの治療で滞納していた費用を合わせた金額だ。

「至急お支払いを済ませてください。遺体の搬送にもご家族の署名が必要になります」と、看護師が声を落として告げる。

私は請求書をじっと見つめていた。そこに印字された数字が次第にぼやけていき、そこでようやく、自分がまた泣いていることに気づく。

朔也に電話をかけたが、すでに着信拒否されていた。

代わりに秘書から電話がかかってくる。その口調は、いつもと変わらず丁寧だ。

「奥様、社長は今、取り込み中です」

「1000万円だけでいいから……」

声はかすれている。

「海人が……亡くなったって伝えて。これから葬儀の手配をしなきゃいけないの」

電話の向こうが、しばらく沈黙する。

「奥様、社長は、もう騙されないとおっしゃっています」

スマホを強く握りしめる。

2年前、確かに私は朔也を騙した。

あのとき、海人は初めての心臓手術を終えたばかりだった。

私は1か月、つきっきりで世話をしていた。それなのに、朔也は一度も病院に顔を出さなかった。

灰原家に閉じ込められた生活にも、海人が何度も「どうしてパパは僕のことが嫌いなの?」と尋ねてくることにも、もう耐えられなかった。

だから私は朔也に、海人を連れて病院へ検査に行くと嘘をついた。

本当は、その時点ですでに南の街へ向かう切符を2枚用意していた。私たちのことを誰も知らない遠くの街で、人生をやり直したかった。

しかし、発車の10分前、朔也が部下を連れて駅のホームに現れた。

彼は海人の目の前で切符を引き裂き、私を無理やり灰原家へ連れ戻した。

それから私は、1か月もの間、監禁された。

スマホも、パスポートも、キャッシュカードも、すべて取り上げられた。

朔也は部屋の外に立ち、冷たい声で言った。

「また海人を連れて逃げようとしたら、一生この家から出られると思うな」

あのとき、私は確かに嘘をついた。

だから今、私が何を言おうと、朔也は信じない。

「それに、坊ちゃんの死を口実にして騙そうとするなら、本気で怒るともおっしゃっています」

秘書の声に、現実へ引き戻される。

白い布がかけられた小さなベッドを見た。

海人は静かに横たわっている。

手首には、入院中につけていたリストバンドがまだつけられている。

海人は寒がりだった。

今は私の上着をかけてやっても、もう私の胸に潜り込んでくることはない。

「嘘じゃない。海人は本当に病院にいるの」

秘書がため息をつく。

「奥様、2年前も同じことをおっしゃいました。社長は、奥様が坊ちゃんを目の前に連れてこない限り、1円も出さないと……」

私はそれ以上、何も言わなかった。

看護師が遺体搬送に必要な書類を持ってきて、親族の情報を記入するよう促す。

父親の欄を前に、長いことペンを止めていた。それでも最後には、朔也の名前を書き込んだ。

海人は最期まで、父親が自分のもとへ来てくれることを願っていた。

勝手に、海人から父親の存在を奪うことはできない。

しかし、署名を終えて銀行口座の残高を確認すると、キャッシュカードがすでに利用停止になっていることに気づいた。

画面に表示された利用可能残高は、ゼロだ。

朔也は、毎月10万円の生活費すら止めたのだ。

病院の廊下は静まり返っている。

壁に手をついて立ち上がると、目の前が急に真っ暗になる。

看護師が慌てて私の体を支えた。

「まだ熱があるんです。先に点滴を受けましょう」

「いいえ……」

「このままでは体がもちません」

私は、ベッドに横たわる海人を見つめる。

「この子をここに置いていけない。先に連れて帰らないと」

再びスマホを手に取り、朔也の秘書に尋ねる。

「朔也は今どこにいるの?」

「撮影スタジオです」

秘書は少し言いよどんでから、付け加える。

「社長は今、結城さんの撮影に付き添っています。それから、奥様と坊ちゃんのことで、自分の邪魔をするなと指示されています」

静かに電話を切り、海人にかけた上着をそっと整える。

「待っててね。今度は、ママも一緒に行くから」

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