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金木犀の香る町で、さよならを第2話

この話は約1685字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

彰良が言う「大事な仕事仲間」が美桜のことだと知っていた。

彼女が海外留学を終え、帰国するのだ。

彰良はまるで幼稚園に行きたがらない子供をあやす先生のように、私をあやしていた。

でも、私はもう―

私は無意識のうちに傍らにあるガラスに視線を向けた。そこに私の影が映っていた。

私は彰良がわざわざオーダーメイドしてくれた白いドレスを身に纏い、髪も念入りに整えられた。ガラスに映る姿は細く絞られたウエスト、ふっくらとした胸元、すらりと伸びた足。

ドラマの中のプロポーズされるヒロインたちと同じように、もう「大人」だ。

しかも「女」なのだ。

前世、彰良のパソコンの待ち受け画面は美桜の写真だった。彰良はいつも美桜の写真を見るのが好きだった。その眼差しはとてもおかしくて、時には呼吸が荒くなり、喘ぎ声さえ漏れていた。

多くの人が噂していた。あれこそが男が女を見る目なのだと。

でも、彰良が私を見る目はいつもお菓子をねだって騒ぐ子供を見る目と何ら変わりがなかった。

私はスカートを握りしめ、「もう本当にあなたとは結婚したくない」と口にしようとした。

その時、彰良のポケットの携帯が突然鳴り響いた。美桜専用の着信音だ。

彰良はすぐに携帯を取り出すと、途端に目元を和らげ、電話に出た。声は低く潜めているのに、まるで蜜を煮詰めたかのように、ねっとりと甘く響いた。

「美桜か?着いたのか。こっちで少しトラブルがあったが、すぐ片付く。そこを動かずに待っていろ。すぐに迎えに行く」

私は彰良のその優しい声を静かに聞いていた。

まるで前世のようだ。

たとえ悠斗の誕生日を祝っている最中であっても、彰良はすぐにすべてを置いて、フライトの遅延や荷物の重さに不平を言う電話の向こうの美桜を優しく宥めていた。

そして、私が必死で産んだ悠斗は小さい頃から彰良そっくりの顔を上げ、彰良の口調を真似て私にこう言ったものだ。

「ママは本当に面倒くさいな。何もちゃんとできない。美桜おばさんがいてくれたらいいのに」

彰良は電話を切ると、もはや私の同意を求めることもなく、指輪のケースを私の手に押し付け、私の頭を撫でた。

「雨音、いい子だ。先にアシスタントのおじさんと家に帰っていろ。夜、キャンディを持って帰ってやるから。いいかな?」

そう言い終わると、彰良はアシスタントに素早く指示を出した。

「雨音を頼む。記者たちはしっかり押さえておけ。彼女の事情について、余計なことを書かせるな」

アシスタントが頷くと、彰良は足早に立ち去った。

招待客たちの視線が針のように私に突き刺さった。

抑えきれない嘲笑や遠慮のない議論が聞こえてきた。

「ごらん、言った通りだ。外交官が馬鹿娘にプロポーズなんて、ただの茶番だって。桐谷さんの義妹が帰国した途端、さっさとこの馬鹿を捨てて行ったぞ」

「あの外交官が心から想っているのは昔から義妹だけさ。可哀想に、馬鹿娘にはそれが分からない。プロポーズの場でこうして捨てられて、結婚したところで、この先苦労するのは目に見えてる」

ロマンチックで温かく飾り付けられた会場の真ん中に、私はぽつんと一人立ち尽くしていた。

手の中の指輪のケースが重い。人々に笑われ、まるでピエロのようだ。

アシスタントが私を見て、事務的な口調で言った。

「望月(もちづき)さん、お戻りになりましょう」

私は首を横に振った。「私一人で帰るわ」

アシスタントは一瞬驚いた顔をしたが、まさか私が拒否するとは夢にも思わなかったのだろう。

私は重いドレスの裾を持ち上げ、足を刺すようなそのハイヒールで、なんとか出口へと向かった。

家がどこにあるかは知っている。

彰良が私が迷子にならないようにと、道順を教えてくれたから。

だけど分かっている。美桜が帰ってきた。あの家には本物の女主人が戻ってきたのだ。

だから今度はもう帰らない。

私は家とは逆の方向へ、一歩、また一歩と遠ざかっていった。

お金は持っていない。でも、人は働いてさえいれば生きてはいけるものだと、他の人が言っていた。

私は六時間も仕事を探していたが、空腹と喉の渇きが限界に達した頃、信じられないことに、あるバーで彰良と美桜の姿を見つけてしまったのだ。

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