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金木犀の香る町で、さよならを第3話

この話は約1487字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

二人は大勢の人に囲まれていた。

美桜は心底楽しそうに目を細め、彰良の肩にもたれかかっていた。

彰良も笑いながら、美桜の話に耳を傾けていた。彰良が美桜を見る目はドラマのヒーローがヒロインを見る目と同じくらい、情熱に満ちていた。

私は急いで物陰に縮こまり、彼らに見つからないよう身を隠した。

だが、一歩遅かった。美桜が私に気づいた。

彼女が彰良の耳元で何かを囁くと、彰良は途端に眉をひそめ、こちらへ歩いてきた。

彰良の顔は険しく、口調も少し厳しかった。

「雨音、アシスタントに家まで送らせたはずだ。なぜ一人でうろついている?」

彰良が心配で怒っているのか、それとも、私がこんな所に現れて彼と美桜の邪魔をしたから怒っているのか、私には分からない。

私は俯き、踵が擦り剥けてしまったそのハイヒールに目をやった。

「彰良……探しに来たんじゃないの。ただ通りかかっただけ。すぐに行くから」

私が身を翻した瞬間、手首を掴まれた。彰良は仕方なさそうにため息をつき、私をバーの中へと連れて行った。

「俺がここにいるのに、他にどこへ行くつもりだ?俺が家に帰らないから、探しに来たんだろう?

雨音、君が一人で出歩くのは危ない。次からはダメだぞ」

違う、と反論したかったが、彰良は私が探しに来たと決めつけていた。私は唇を軽く噛み、何も言わなかった。

バーの中は騒がしく、タバコと酒の匂いが混じり合って、少しむせ返る。

ソファには多くの人が座っているが、ほとんどが見知らぬ顔だ。

彰良が私を引っ張っているのを見て、誰かが興味深そうに尋ねた。

「彰良、この可愛い子は誰だ?前に会ったことあったか?」

私の手首を掴む彰良の手に力がこもった。

「隣の家の妹だ。小さい頃から一緒に育った。

……少し頭に問題があってな。まぁ、馬鹿なんだ。皆、大目に見てやってくれ」

私は思わず顔を上げ、彰良を見つめた。

彰良は私を見ようとしなかった。まるで私を一秒でも長く見ることが、彼にとって耐え難いことであるかのように。

私はまたうなだれた。

前世でも、大事な場面ではいつも、彰良はこうやって他人に説明していた。

もうとっくに慣れているはずだった。

まさか、今世でもやはりこんなに悲しいなんて。胸がキュッとなった。

ある太った男が下卑た笑いを浮かべ、いやらしい視線で私を見た。

「勿体ねえな。こんなに綺麗なのにバカ娘とは」

美桜は得意げに唇の端を吊り上げ、私を一瞥すると、彰良の袖を引いた。

「彰良、私たちの番だよ。早く座って」

「雨音、そこで一人で遊んで、後で送って帰るから」彰良は私にそう言い聞かせると、私の手を放し、美桜の隣に座った。

二人の肩が触れ合っていて、とても親密に見えた。

その時、例の太った男が囃し立てた。「そこのバカ娘、立ってないで、俺のこっちに来て座りなよ」

私はその手を避け、彰良と美桜から遠く離れた隅の席に座った。

太った男は私をちらりと見たが、それ以上は何も言ってこなかった。

皆が「王様ゲーム」に興じ、楽しそうに笑っていた。

誰も私に気にも留めなかった。

テーブルの上の色とりどりのグラスを見て、猛烈な喉の渇きを覚え、グラスを手に取って一気に呷った。

ところが、その飲み物はひどく刺激が強く、喉から胸にかけて焼け付くようだ!

私は激しく咳き込んだ。しかし、そんな物音も、長年私を甲斐甲斐しく世話してきた彰良の耳には届かなかった。

落胆はしなかった。

美桜がいる場所では、彰良の目に私は映らない。もう、分かりきっていることだ。

今すぐこっそり抜け出した方がいいだろうかと考えた。

でも、疲れと空腹で、少しだけでも休みたかった。

その時、私はふいに美桜の甘ったるく媚びた声が聞こえてきた。

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