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遅すぎた鍵を置いて第2話

この話は約2058字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

私はその4枚のバスタオルをじっと見つめた。

踵を返し、どれを使えばいいのか母に尋ねようとドアノブに手をかける。

その時、リビングから押し殺したような話し声が漏れ聞こえてきた。

「莉子、少しは聞き分けなさい。

紬がここにいるのは数日だけよ。旅行から帰ってきたら、またおじいちゃんたちの所に送り返すんだから」

ドアノブに伸ばした手は、何かに縫い留められたようにピタリと止まった。

リビングでの会話はまだ続いている。

莉子の不満げな声が聞こえた。

「とにかく私は、お姉ちゃんと一緒に住みたくないもん。

彼女、なんか変な匂いがするし、持ってるものも全部ダサいんだもん」

母が声を潜めてなだめる。

「1晩だけの我慢よ。明日の朝にはもう家を出るんだから」

「じゃあ、なんでリビングで寝かせないの?」

そこへ慎の声も混ざる。

「先に言っておくけど、俺の部屋で寝かせるのも絶対ダメだからな。机の上に大学の資料出しっぱなしなんだから。

勝手にいじられて、ぐちゃぐちゃにされたらどうすんだよ」

母がたしなめるように言う。

「紬はそんなことしないわよ」

慎が鼻で笑った。

「そんなの、分かんねえだろ!

ずっと田舎で育ったんだぞ、どんな図々しい真似するか知れたもんじゃない」

莉子がすかさず同調する。

「そうよ。彼女がいると、なんか気が休まらないの。

今まで通り、4人だけの時が一番よかったのに」

父が重々しいため息をついた。

「紬が急に来たのが悪い。ちょうど旅行のタイミングと重なってしまったからな。

だが来てしまった以上、数日だけ泊まらせてから送り返すしかないだろう」

数日泊まらせて、また送り返す。

その言葉は、これまで嫌というほど聞かされてきた。

幼い頃、私は母に尋ねたことがある。なぜお兄ちゃんと妹はお父さんたちと一緒に住めるのに、私だけ仲間外れなのかと。

母はこう答えた。

「うちも経済的に余裕がないのよ。紬はおじいちゃんとおばあちゃんがちゃんと面倒を見てくれるからね」

父にも尋ねたことがある。なぜお兄ちゃんだけが都会の学校に通えて、私はダメなのかと。

父はこう答えた。

「くじ引きで、お兄ちゃんが当たったからだ」

私が3歳の年、妹の莉子はまだ生まれていなかった。

両親は都会へ働きに出ることになったが、2人の子供を手元で育てる余裕はなく、くじ引きで決めることにしたらしい。

当たった方を都会へ連れて行く。

父が引き当てたのは、4歳の慎だった。

こうして慎は両親と一緒に都会へ行き、私は祖父母と一緒に田舎へ残されたのだ。

それからずっと、私は考え続けてきた。もしあの時、引き当てられたのが私だったら、と。

連れて行かれたのが私だったら、私にも自分の部屋が与えられていたのだろうか。

毎日宿題を見てくれる母親がいて、学校の送り迎えをしてくれる父親がいたのだろうか。

両親と私を引き裂いたあのくじを、密かに恨んだことすらあった。

でも今ならはっきりと分かる。誰がくじに当たるかなんて関係なかったのだ。

重要なのは、彼らが最初から「誰を連れて行きたかったか」ということだ。

リビングでは、母がまだ莉子をなだめている。

「お姉ちゃんのことは、旅行から帰ってきてからまた考えましょう。

あの子は小さい頃からおじいちゃんたちの所にいたから、常識とか教わってないのよ。大目に見てあげなさい」

教わっていない。

だから私は不潔で、ダサくて、礼儀を知らない。

でも、彼らは一度でも考えたことがあるのだろうか。なぜ私には「教えてくれる親」がいなかったのかを。

私はこれ以上聞いていたくなくて、ドアノブを回し、勢いよく扉を押し開けた。

「あのさ、私はどのバスタオルを使えばいいの?」

その瞬間、リビングにいた全員の表情が凍りついた。まるで見てはいけない秘密を暴かれたかのような顔だった。

母がいの一番に反応し、慌てて取り繕うように背筋を伸ばす。

「つ、紬……」

私はその言葉を遮り、淡々と尋ねた。

「どのバスタオルを使えばいいの?」

母の顔から血の気が引く。

父が気まずそうに眉をひそめた。

「紬、変に誤解しないでくれよ」

「うん。で、どれを使えばいいの?」

慎が苛立たしげに舌打ちをし、莉子はばつが悪そうにうつむいてワンピースの裾をいじり始めた。

母は私をじっと見つめ、やがてふっとため息をつくと、脱衣所に向かって歩き出した。

「新しいのを探してあげるわ」

使い捨ての歯ブラシ。

使い捨てのスリッパ。

未開封のバスタオル。

この家で私に与えられるのは、いつも決まって真っ新なものばかりだ。

なぜなら、私自身がこの家にとって「臨時のお客様」でしかないからだ。

母は収納棚から真っ白なバスタオルを取り出した。

それを私に差し出す時、まるで物分かりの悪い子供を相手にするかのように、少しウンザリした顔を見せた。

「紬、お母さんたちは本当にそういうつもりで言ったんじゃないのよ。ただ、あなたがこの家に慣れないんじゃないかって心配だっただけで……」

私はうつむいて見えないふりをし、「分かってる」とだけ答えた。

バスタオルを抱えて浴室に戻る。

温かいシャワーを浴びながら、私は自分の手のひらをじっと見つめた。

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