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記憶喪失のふりで家族に養子だと騙された第2話

この話は約1900字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

また「自分の立場をわきまえろ」か。

その言葉は、まるで呪いのように俺につきまとってきた。

幼い頃は育ての父から、今は実の父から、何度も同じ言葉を浴びせられる。

全身から力が抜け、俺はうつむいた。

これ以上、無意味な言い争いを続ける気にはなれなかった。

手のひらに入り組んだ線を見つめていると、幼い頃に手相を見てもらったときのことを思い出した。

その人は、俺は生まれつき運がなく、身内との縁も薄いと言った。

当時はまだ幼く、言われた意味も分からなかったが、育ての父は笑っていた。

「慎は本当に運のない子だな」

確かに、これまでの人生はあの手相占いのとおりだった。

それでも、俺はずっと運命など信じていなかった。

葉月と結婚し、杏奈が生まれてからは、なおさら自分が不運だとは思わなくなった。

だが今日になって、どれほど望んでも手に入らないものがあるのだと、ようやく分かった気がした。

涙がこぼれそうになり、俺は必死にこらえた。

こんなところで泣くわけにはいかない。まして、こいつらの前で弱みを見せるなど、まっぴらだった。

深く息を吸い、俺は笑って言った。

「俺に財産を奪われるのがそれほど怖いなら、神崎家とは縁を切る」

葉月と父は言葉を失い、驚いた顔で俺を見た。

修平だけは、喜びを隠そうともしていなかった。

「何だと?」

最初に我に返ったのは父だった。

怒りをあらわにして声を荒らげた。

「神崎家と縁を切るだと?お前……もう一度言ってみろ!」

修平はすぐに父の腕を支え、慌てたように言った。

「父さん、怒らないで。慎はきっと、ずっと前からそうするつもりだったんだ。養子とはいえ、神崎家は何不自由なく暮らさせてきた。それなのに恩を仇で返すなんて、本当に恩知らずだよ」

一瞬迷いを見せていた父も、修平の言葉を聞いて完全に考えを固めたようだった。

俺を見る目が、たちまち失望に変わった。

「そうか。そこまで言うなら、好きにしろ!あとで後悔しても知らないぞ!」

こんな家族と縁を切って、何を後悔するというのだろう。

それまで黙っていた葉月が、突然口を開いた。

声を和らげ、なだめるように言った。

「慎、勢いで決めないで。お義父さんも頭に血が上がっているだけよ。家族なんだから、そこまで言う必要はないでしょう?」

俺は鼻で笑った。

「葉月、今さら善人ぶるな。さっきまで一緒になって俺を責めていただろ」

葉月の表情が一気に険しくなった。

「慎!せっかく止めてあげているのに、その態度は何なの!」

「ママ、慎おじさん、けんかしないで」

杏奈がおずおずと葉月の服を引き、顔を上げて尋ねた。

「これから慎おじさんは、もう一緒に暮らさないの?ずっとパパとママと3人でいられるの?」

杏奈がパパと呼んでいるのは、修平だった。

葉月は答えず、ただ俺をじっと見つめていた。

修平はしゃがんで杏奈の額に口づけると、優しい声で答えた。

「もちろんだよ。これからはパパとママと杏奈、家族3人だけだ。もう邪魔する人はいないよ」

そう言って、挑発するように俺を見た。

はしゃぐ杏奈の姿を見て、胸の奥が重くなった。

これが、俺が命懸けで守った娘なのか。

俺が引き止めようとしないことに気づくと、葉月の表情はさらに険しくなった。

「慎、やっぱりあなたには反省する時間が必要ね。しばらく家には帰ってこないで。娘にも会わせない。自分が何をしたのか、きちんと考えてから戻ってきて」

思わず笑いが漏れた。

「葉月、何を言ってるんだ?杏奈が俺の娘だとでも?さっき、俺はただの叔父だと言ったのはお前だろ」

葉月の顔がみるみる赤くなり、言葉に詰まった。

結局、俺をきつく睨みつけると、全員を連れて病室から出ていった。

静まり返った病室で、枕元にキャンディが一つ置かれているのに気づいた。

俺が意識を失っている間に、葉月が置いたのだろう。

幼い頃からつらいことばかりだったせいか、俺は甘いものが好きだった。

どれだけ甘くても、嫌になることはなかった。

指先で包み紙を弄ぶと、かすかな音が静かな病室に響いた。

それを聞きながら、昔のことを思い返した。

愛情とは無縁の環境で育った俺にとって、誰かに愛されることは、ひどく遠いものに思えた。

人をどう愛せばいいのかさえ、分からなかった。

だから葉月に思いを告げられたときも、最初は戸惑うばかりだった。

それでも彼女は諦めず、優しさと思いやりを向け続け、少しずつ俺の警戒心を解いていった。

俺たちの間にあった距離を、葉月のほうからほとんど埋めてくれた。

この世界には、本当に俺を愛してくれる人がいる。

そう信じられたからこそ、俺も最後の一歩を踏み出した。

その一歩の先に、幸せがあると信じていた。

それは、俺が神崎家に引き取られるまでのことだった。

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