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記憶を捨てた私は元婚約者の親友に溺愛される第2話

この話は約2423字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

帰りの車に乗り込むと、ほどなく梨花のスマホが鳴った。画面には、頻繁に凌真と瑠奈の親密な写真を送りつけてくるアカウントが表示されていた。梨花は深く息を吸い込み、数秒ためらった後、通話ボタンを押した。

電話の向こうからは騒々しい音が聞こえ、続いて凌真の友人たちのふざけた声が響いた。

「一途さじゃ、やっぱり氷室の右に出るやつはいないよな!あのトップ女優の桜井を放っておいて、自分の姪っ子を10年間、変わらず愛し続けてるんだから」

「桜井は北央一の美人だし、言い寄る男なんて掃いて捨てるほどいるだろうに。何年もお前の後を追いかけてきたのに、少しも心が動かなかったのか?」

「全くだよな。でも、二人の女を同時に手に入れて楽しめるのは氷室くらいだ。好きにすりゃいいが、隠し事はいつかばれるぞ。火遊びが過ぎて、自分が火傷しないようにな」

凌真の口調には、明らかな自信と傲慢さがにじんでいた。

「安心しろ。そんな日は永遠に来ない!」

「いやあ、氷室って冷たそうに見えて、実はすげえ一途な男だよな。一生、瑠奈ちゃんだけを愛するんだってさ。ほら、さっきだって瑠奈ちゃんが腹が痛いって言っただけで、抱きかかえてスイートルームに連れて行ったし……」

梨花はスマホを強く握りしめ、目を閉じた。胸の奥に広がる無数の刺すような痛みを、必死に押さえ込んだ。

これだけの裏切りを目の当たりにしてきたのだから、痛みにはもうすっかり慣れてしまったはずだった。

しかし彼の言葉は一本の棘のように、梨花の心の最も柔らかな場所へ深く突き刺さり、息もできないほど痛んだ。

梨花は車を降りて一人で外を歩き回り、一晩中、冷たい風にさらされた。夜が明けると、弁護士に連絡し、財産寄付契約書の作成を依頼した。

凌真が起業した時の初期資金は、梨花が提供したものだった。北央一の資産家である桜井家が資金面で後ろ盾になったからこそ、彼は北央で急速に地盤を固め、飛ぶ鳥を落とす勢いで成長できたのだ。

凌真は何度も、「お前が望むなら、俺のものはすべて持っていっていい」と言っていた。

今、梨花が望んでいるのは、本来自分のものだった分を取り戻すことだけだった。

その使い道についても、すでに児童基金の担当者と話をつけてあった。金は直接、基金の口座へ振り込まれるよう手配していた。

署名を終えた直後、邸宅の玄関から物音がし、凌真が帰宅した。

梨花が財産寄付契約書を差し出して署名を求めようとした矢先、凌真が一歩先に彼女の手首を強くつかんだ。普段は冷静沈着な彼の顔には、これまで見たこともないような動揺と焦りが浮かんでいた。

「梨花、瑠奈が昨夜から体調を崩して、病院で診てもらったら白血病だと分かった。すぐに骨髄移植が必要なんだ。骨髄バンクで適合したのはお前だけだった。瑠奈を助けるために、骨髄を提供してくれないか」

一睡もしていなかった梨花は、思考が少し鈍っていた。

凌真は、彼女が承諾しないのだと思ったのだろう。凍てつく星空のような瞳に、懇願の色を浮かべた。

「俺の型が合わなかったからだ。もし俺が適合していれば、お前にこんな苦しい思いはさせない。

瑠奈は幼い頃に両親を亡くして、身内は俺しかいない。見捨てるわけにはいかないんだ。お前たちはずっと仲がよかっただろう?見殺しにはできないはずだ。瑠奈を助けてくれるなら、お前が望むものは何だってやる」

梨花は急に光を失った目を伏せ、胸の奥から込み上げる苦しさを押し殺し、掠れた声で尋ねた。

「本当に何でもしてくれるの?あなたのすべてでも?」

凌真は迷いなく答えた。

「ああ!」

すべてを手放し、ここを去り、彼を過去の記憶として消し去る決心はついていた。

それでも、凌真が瑠奈のためにここまでするのだと自分の耳で聞いた瞬間、梨花の胸には鋭い痛みが走った。

どうやら彼は、本当に瑠奈を骨の髄まで愛しているらしい。

彼女のためなら、すべてを投げ出す覚悟があるのだ。

梨花が何かを言おうとしたその時、病院から再び電話が入り、瑠奈が激しい痛みに苦しんでいると告げられた。

その瞬間、凌真の顔色が一気に青ざめ、目を赤くして懇願するような視線を梨花に向けた。緊張のあまり、声まで震えていた。

「梨花、瑠奈に骨髄を提供してくれるなら、俺の命だって差し出す」

そう言うが早いか、凌真は拒む暇も与えず、梨花を無理やり車に乗せて手術台へ送り込んだ。

意識がはっきりしたまま、冷たいメスが皮膚を切り裂くのを感じた。痛みは皮膚から骨髄へと染み渡り、胸は鋭い刃でえぐられたように息が詰まるほど痛んだ。それでも梨花は唇を噛みしめ、痛みに耐えるしかなかった。やがて意識が少しずつ遠のいていった……

再び目を覚ますと、そこは冷え切った病室で、周囲には誰一人いなかった。

梨花はベッドに横たわっていたが、胸の傷口が焼けつくように痛んだ。

ドアの外から、看護師たちのひそひそ話が聞こえてきた。

「あの男の人、すごくかっこいいし、彼女にもすごく優しいよね……」

「そうそう、もう容体は落ち着いてるのに、あんなに心配してさ。三日三晩、ベッドのそばで一睡もしていないらしいよ。それに比べて304号室の人なんて、骨髄を提供したばかりで麻酔も切れていないのに、誰も来ないなんて……」

梨花は点滴の針を引き抜き、壁づたいに一歩ずつ廊下へ進んだ。

案の定、VIP病室の入り口には凌真の姿があった。

凌真は薬を少し冷まし、一口ずつ瑠奈に飲ませていた。

瑠奈が薬の苦さを嫌がると、凌真は甘い声でなだめ、ドライフルーツを口に含ませてから、彼女の口元にキスをした。

その姿からは、隠そうともしない彼女への溺愛が浮かんでいた。

梨花はゆっくりと壁に寄りかかり、目元を濡らした。

自分でも理解できなかった。彼にはもう完全に見切りをつけたはずなのに、どうしてこんなにも胸が痛むのか。まるで誰かが鈍い刃物で、少しずつ自分の肉をえぐっているかのようだった。

梨花はそれ以上見ていられず、逃げるようによろめきながら、その場を離れた。

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