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私を見捨てた男は、仮面をつけてもう一度愛を取り戻す第2話

この話は約2112字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

迅の顔から、笑みが消えた。

「真白。たかが部外者一人のことで、俺とここまで争うつもりか?」

真白は答えなかった。

指からゆっくりと婚約指輪を外すと、そのまま背を向けて立ち去った。

車に乗り込むと、見覚えのない番号から着信があった。

「葉山さんでいらっしゃいますか。帝都黒崎家の者です。長年行方が分からなくなっている当家のご子息について、何かご存じではないでしょうか」

ハンドルを握る真白の手に、力がこもった。

迅は決して口にはしなかったが、本当の両親を見つけたいと願っていることを、真白は知っていた。

だから彼女は、ずっと人知れず迅の家族を捜していたのだ。

そして数日前、ようやく事実を突き止めた。

迅は、20年前に仇敵の手で拉致された、帝都黒崎家の御曹司だった。

本当なら半月後、迅の誕生日パーティーで打ち明け、驚かせるつもりだった。

古い価値観を重んじる黒崎家に、迅が裏社会で生きてきた過去をどう受け入れさせるか。その方法まですでに考えてあった。

迅に、自分か家族かの二者択一を迫らずに済むように。

だが、もう必要ない。

「お教えしても構いません。ただし、条件があります」

真白は静かに告げた。

「半月後、彼を帝都へ連れ戻してください。

そして二度と、湊都へ戻さないで」

電話を切ると、真白はアクセルを強く踏み込み、自分のシマへ戻った。

仕事に没頭すれば、心の痛みを感じずに済むと思った。

最後の書類を閉じたときには、もう深夜だった。

広いオフィスには、自分の呼吸音しか聞こえない。無理に押し込めていた感情が、その静寂を突いて一気に溢れ出した。

真白は車のキーを掴み、黒砂海岸へ向かった。

そこは、地下レースの聖地だった。

限界を超える速度の中にいれば、自分が人間であることを忘れられる。血が通い、痛みを感じる生き物だということを、ほんのひととき忘れられる。

「これはこれは、葉山の女王様じゃねえか」

ねっとりとした声が割り込んだ。

「どうした?振られた憂さ晴らしにでも来たのか?」

剛の弟分、三野隆(みの たかし)だった。

迅が佳純のために剛のシマを潰したことで、両者の間には消しようのない遺恨が生まれている。

真白は、まぶたを上げることすら面倒そうに言った。

「よほど死に急ぐのね」

三野は遠くの断崖を指し、陰気な笑みを浮かべた。

「少し遊ぼうぜ。たった一周だ。負けたほうが、自分で車を崖から落とす。どうだ?」

命を賭けた勝負だった。

辺りは一瞬で静まり返り、すべての視線が真白へ集まった。

「いいわ」

その声は穏やかで、わずかな倦怠さえ帯びていた。

次の瞬間、2台の車が弦を離れた矢のように飛び出した。

最初のカーブへ入ったところで、真白はブレーキに細工されていることに気づいた。

風に乗って三野の嘲笑が聞こえた気がした。それでも彼女は意に介さず、アクセルを限界まで踏み込んだ。

賭けてみたかった。死神に、この命を奪う度胸があるのかどうかを。

真白の車は先にゴールラインを駆け抜け、そのまま制御を失って断崖へ突進した。

その瞬間、横から鋭い光が割り込んだ。

轟音が炸裂した。

銀灰色のスポーツカーが真白の車へ体当たりし、崖まで10メートルもない場所で、無理やりその進路を止めた。

エアバッグが開き、衝撃に頭を揺さぶられ、視界がぐらりと歪んだ。

どうにか顔を横へ向ける。

ほとんど原形を失ったスポーツカーから、迅がこちらへ歩いてくるのが見えた。

迅はドアを開け、手を差し出した。

「真白、降りろ」

声はひどく掠れていた。

額から流れた血が、パジャマの襟元を赤く染め上げている。

傷だらけになったはずの真白の心は、思わず締め付けられた。

彼女は迅の手に、自分の手を重ねた。

真白が無事だと確かめるなり、迅は振り返り、三野の顔面を拳で殴りつけた。

「てめえ、死にたいのか!」

「獅堂、頭がおかしいんじゃねえのか!」

三野は血の混じった唾を吐き捨てた。

「昨日は水瀬の女のために俺の兄貴分を殺しかけて、今日は葉山相手に一途な男のふりかよ!」

その言葉で、真白は一気に現実へ引き戻された。

これ以上、こんな茶番は見ていたくない。彼女は背を向け、歩き出した。

胸が痛むことと、許すことは別だ。

「真白!」

迅は慌てて追いつき、真白の手首を掴んだ。

「もう怒るな。気が済まないなら、俺を何発か殴ってもいい」

怒っているわけではない――そう言いかけたとき、怯えを含んだ女の声がした。

「迅……」

二人が振り向く。

白いパジャマ姿の佳純が、少し離れた場所に立っていた。髪は乱れ、片方の靴はどこかで脱げたらしく、足元は裸足だった。

「ごめんなさい。お二人の邪魔をするつもりはなかったんです……」

佳純は唇を噛み、目を赤くした。

「あなたが電話を受けて、慌てて出ていったから。何かあったんじゃないかと心配で、あとを追ってきました」

そう言うなり、佳純はその場から駆け出そうとした。

迅は眉を寄せ、数歩で追いついて彼女を止める。

「走るな。足元は割れたガラスだらけだ」

真白は、二人を静かに見つめた。

黒と白。まるでカップルのようなペアのパジャマが、夜闇の中で、痛々しいほど目に刺さった。

自分は、ずいぶん大切にされているらしい。こんな美人をそばに置きながらも、忘れずに助けに来てくれたのだから。

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