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私の誕生日に、彼は決まって別の女へ手紙を書く第2話

この話は約1978字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

紗妃からの電話は、一度切れたかと思うと、すぐにまた鳴り始めた。

私は悠斗の目の前で電話に出ると、そのままスピーカーへ切り替えた。

「美月、さっきの電話だけど……あれ、罰ゲームだったの。信じて。私、悠斗のことなんて好きじゃない。彼とは何もない、妊娠なんてあり得ない話だよ。あんなこと、自分で言ってても気持ち悪くなるくらいなの……」

悠斗はその場で固まった。

私は、その表情を見逃さなかった。その瞳をよぎった、ほんのわずかな失望を。

「……美月?」

スピーカー越しに、紗妃がもう一度私の名前を呼んだ。震える声だった。

悠斗は我に返ると、慌ててスマホへ手を伸ばし、そのまま通話を切った。

部屋には重苦しい沈黙だけが残った。

悠斗は小さく息をのみ、しばらく黙ったあと、かすれた声で口を開いた。

「……ごめん、美月。全部、俺が悪かった。こんな形で知らせることになるなんて思ってなかった。本当に、ごめん」

私は黙ったまま彼を見つめた。爪が食い込むほど、拳を強く握り締めた。

「あなたたち、いつからまた、そういう関係だったの?」

悠斗は答えなかった。沈黙だけが流れた。

私は苦く笑うと、返事を待たずに続けた。

「2か月前。私の誕生日だったよね。あなた、サプライズだって言って、帰国してくれた。でも、その数日後には急に仕事が入ったと言って、先に戻っていった。

あのときのあなた、どこか様子がおかしかった。何か言いたそうだったのに、結局何も言わなくて……ただ『ごめん』って、そればかり繰り返してた」

私はまっすぐ悠斗を見つめた。

「私に謝っていたのは、一緒にいられなかったからじゃなかった。唇が切れていた理由も、今ならようやくわかった。

私が紗妃を見送って帰ってきた、その日に、あなたは私へプロポーズした。罪悪感があったからでしょう?罪悪感を打ち消すように、急に優しくなって……夜も、いつも以上に私を求めた!」

「もういい!」

悠斗はついに声を荒げた。額には青筋が浮かび、顔色は見る見るうちに悪くなっていた。

「もう、それ以上言わないでくれ」

「どうして?」

私は震える声で問い返した。

「自分でやったことなのに、言われるのは嫌なんだ?」

悠斗は目を閉じ、大きく息を吐いた。今にも崩れ落ちそうな顔で、私の前に膝をついた。

「……美月。本当に悪かった。でも、だからって終わりにしないでほしい」

私は思わず笑ってしまった。あまりにも滑稽だったから。

「悠斗……もう終わりにしよう。別れよう。明日の朝には、この家を出ていく」

悠斗の顔から血の気が引いた。何か言おうとして手を伸ばしかけたが、その手は宙で止まった。

「……プロポーズしたのは、本気で美月と結婚したかったからなんだ。今日はもう遅い。お互い冷静じゃない。また明日、ちゃんと話そう」

そう言い残すと、悠斗はスマホだけを持ち、近くに住む従弟の家へ向かった。

30分後、「ちゃんと従弟の家に着いた」とLINEが送られてきた。そのあと、従弟本人も電話を代わってくれた。

私はソファにうずくまった。冷や汗は止まらず、意識まで遠のいていった。

どれくらいそうしていただろう。

痛みが少しだけ和らぎ、薬を探そうと立ち上がった、そのときだった。コンコン、と玄関を叩く音が響いた。

「美月!私!起きてるんでしょう?お願い、開けて!」

紗妃の声だった。

私は思わず息をのんだ。幻聴かと思った。紗妃は今、ヨーロッパにいるはずだった。

帰国するには、どう考えても10時間以上はかかる。

次の瞬間、自分が情けなくなって笑ってしまった。本当に馬鹿だった。嘘が1つだけで終わるはずなんて、なかったのに。

開けようか迷っているうちに、玄関のドアが開いた。紗妃は暗証番号を知っていた。

教えたのは私だった。私の誕生日を、そのまま暗証番号にしていた。

そして、紗妃が悠斗の告白を受け入れた日でもあった。

私はずっと、そのことに気づかないふりをしてきた。

けれど悠斗は忘れていなかった。紗妃もきっと、忘れてはいなかった。

「……美月」

紗妃は駆け寄ると、数秒間私を見つめた。

次の瞬間、その場へ崩れるようにひざまずいた。

「ごめん……美月。何て謝ればいいのか、分からない。何を言っても、許してもらえないって分かってる。傷つけるつもりなんて、本当になかったの。ただ……ずっと海外で1人で……寂しくて、弱くなってたの……」

そう言うたび、大粒の涙が次々と床へ落ちた。

「私も、もう悠斗のことは忘れたつもりだった。でも、今回帰国して悠斗に会った瞬間、まだ好きなんだって気づいてしまった」

その一言一言が、鈍い刃物のように胸をえぐった。

紗妃は肩を震わせながら泣き、私へ手を伸ばしかけては、そのたびに引っ込めた。

「でも……美月まで失いたくないの。本当に、美月がいなくなったら生きていけない。子どもは堕ろす。全部、終わらせるから。だからお願い……今回だけでいいの。許して……」

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