私の理想の家を愛人に贈った夫第2話
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帰り道、SNSを開くとずいぶん賑わっていた。
美月が、新居の工事がようやく始まったと何件も写真を投稿している。
その中でも一番目立つ位置に置かれていたのは、靖とのツーショットで、わざわざハートの加工まで施されている。
【靖の全面協力に大感謝!靖がいなかったら、こんな素敵なおうちはできなかった】
コメント欄はすぐに盛り上がった。
【靖さん、美月さんの新居を設計するために、決まってた仕事を何件も断ったらしいよ!】
【最近ずっと事務所に泊まり込んでるって聞いたから、起きてる時間はほとんど美月さんの図面描いてるんじゃない?】
【さすがインテリア業界のトップコンビ。仕事へのこだわりまで息ぴったりじゃん!】
私は無表情のまま画面をスクロールした。
どの完成予想図にも見覚えがある。
寝室の間接照明も、テレビ背面の壁に使われている素材も、どれも私が靖に何度も話していたものだった。
靖は、私が思い描いていた理想の家を、そっくりそのまま別の女に与えた。
しばらく画面を見つめてから、私は美月の投稿すべてに「いいね」を押した。
SNSを閉じようとしたところで、同僚からメッセージが届く。
【智世さん、もし良かったら、ご自宅の設計図って見せてもらえませんか?参考にしたくて。
靖さんってすごく腕のいいデザイナーだし、ご自宅もきっと素敵なんでしょうね!】
私は冷めた気持ちで笑った。
結婚したばかりの頃、友人たちはみんな、有名なインテリアデザイナーと結婚した私を羨ましがった。
「あの有名デザイナーの浅倉靖だよ?どんな人の理想の家でも形にできるって有名じゃん。そんな人が旦那さんなんて、絶対幸せだよね」
「智世、靖さんと結婚したなら家のことは何も心配いらないじゃん!」
あの頃の私も、本気でそう思っていた。
けれど家に入った日、目の前にあったのは剥き出しの壁とコンクリートの床や、そこら中を走る配管や配線。
一瞬、あまりの見窄らしさに、私は部屋を間違えたのかと思ったが、それでも靖は平然としていた。
結婚1年目、通勤に便利だからという理由で、私たちはその未完成の部屋にそのまま住み始めた。
私は何度も内装工事の話をしたけれど、そのたびに靖は適当な理由をつけて先延ばしにした。
「智世、子どもが生まれてから子ども部屋も一緒にやったほうが楽だろ。
内装したあとで気に入らなくなって、全部やり直したいって人を何人も見てきたんだ」
靖は私を抱き寄せ、ひどく真剣な顔で言う。
「家っていうのは一生住むものだろ?一度気に入らない家にしてしまったら、ずっと後悔することになる。
だから、そのときになってから考えよう」
その「そのとき」を信じて、私は1年目をやり過ごした。
けれど2年目。梅雨の時期になると、防湿もまともにされていない壁のせいで、家の中はひどく蒸し暑くなった。
もう耐えられず、私はもう一度、靖に内装の相談をしたのだが、その頃には靖も言い訳をすることすら面倒になっていたらしく、「仕事が忙しい」それだけを理由に、私の話を避けるようになった。
そして、靖が家へ帰ってくることがどんどん減っていったのは、その頃からだった。
同じ建築設計事務所で、私は広報、靖は設計部門。
本来なら同じ職場から一緒に帰れるはずなのに、靖は事務所に泊まり込むようになった。
担当案件が多くて忙しいんだと、同僚たちも靖を庇う。
でも、私は何も見えていなかったわけじゃない。
靖と美月が二人で事務所の社員寮を出入りする姿も見たし、一緒にショールームへ家具を見に行く姿も見た。
そして、夜遅くまで机に向かい、美月のために何度も設計図を修正していることも知っていた。
私は何度か深く息を吸ってから、スマホのカメラを起動した。何もない部屋を何枚か撮り、同僚へ送る。
【ごめんなさい。うちはたぶん、参考にならないと思います。
私たちの家に設計図なんてないし、そもそも一度も、内装工事をしてもらったことがないので】
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