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私の理想の家を愛人に贈った夫第3話

この話は約1824字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

翌朝、私はスマホの通知音で目を覚ました。

昨日送った数枚の写真は、何人もの手を経て、いつの間にか事務所の社内グループにまで広まっていた。

画面の議論を確かめる間もなく、それらの投稿はすべて削除されていた。

おそらく靖が消したのだろう。

次の瞬間、スマホがけたたましく鳴った。

「智世、もう気は済んだだろ?

昨日、出かける前に少しきつく言ったくらいで、こんな仕返しまでしてくるなんてさ」

靖の声には疲れが滲んでいて、一晩中、煙草でも吸っていたような掠れた声だった。

私は気持ちを落ち着けて答えた。

「仕返しするような気力もないよ。

靖、私は事実を言っただけ。

それを見た人がどう思うかまで、私にはどうしようもないことだから」

電話の向こう側で、しばらく沈黙が続く。私の我慢が限界に近づいた頃、ようやく靖が淡々と口を開いた。

「智世、この3年、君がずっと不満だったのは分かってる。

でも、安心してくれ。数日中には俺たちの家の設計を始めるから。

ただその前に……」

声に有無を言わせない冷たさが混じる。

「まず社内のグループチャットで謝って、俺とふざけていただけだって説明するんだ。

俺たちの家は、俺と美月が担当することになってるのに、今回のことで、美月の評判にまで影響が出てるんだよ」

受話器越しにライターの音がした。靖はどこか笑いを含んだ声で続ける。

「心配しなくていい。智世が謝ったら、俺もすぐグループで今回のことは許すって返事するからさ。

みんなの前で恥をかかせたりはしないよ」

思わず笑いが漏れた。

この人が何度も私に温かい家庭を作ろう、と約束してくれたのに。

「靖、謝るのは私じゃないよ。

それに、もうあの家を設計してもらう必要もないから。ねえ、私たち離婚しよう」

それだけ言って電話を切り、私はすぐに事務所の担当者へ連絡した。

「お疲れ様です、浅倉です。事情が変わったので、家の工事をキャンセルしたいのですが……」

「浅倉さん、本当によろしいんですか?規定上、キャンセルとなっても着手金は返金できかねます」

担当者は明らかに驚いている。

「この3年間、浅倉さんとは何度もこの工事についてご相談させていただきましたよね。記録も確認したのですが、もう60回近くお話しさせていただいてます。

それに、この工事はすでに始まっていますし、担当するのだって、浅倉さんの旦那さんと西条さんっていう、うちのトップデザイナーですよ……」

「着手金はそのままで構いませんので、中止してください」私は静かに遮った。

「3年間、60回近く相談しても何も進まなかったんです。

これ以上、続ける意味はありません」

担当者は少し黙り、それ以上は引き止めなかった。

電話を切ったそのとき、玄関から大きな音が響いた

靖が乱暴にドアを閉め、寝室にいた私を強引に立たせる。

「智世、いい加減にしろよ。

謝れって言っても聞かないどころか、その次は離婚で脅すつもりか?」

骨まで軋みそうなほどの力で、両肩を強く掴まれた。

「今、事務所でどんな噂になってるか分かってるのか?美月はこのせいで一晩中泣いてたんだぞ。

よりによって、あいつの新居の工事が始まる日にこんなことして、君は一体何がしたいんだ?」

掴まれた肩は、痺れるほど痛かった。それでも、昨日受けた処置の痛みに比べれば大したことではない。

私は歯を食いしばって靖の指を一本ずつ外し、離婚協議書と自分の部分はすでに記入してある離婚届を取り出した。

「脅してないよ。

靖、本当に離婚するって決めたから」

靖の表情が固まる。

「……いつ、こんなもの用意したんだ?」

私は答えなかった。

でも、はっきり覚えている。

家の設計を進めてもらおうと、最後に事務所へ掛け合った日、結局何も変わらないまま建物を出て、震える手で弁護士に連絡し、この離婚協議書を作ってもらったのだ。

ずっと手元に置いていたのは、自分自身に考える時間を与えたかったから。

それでもどこかで、靖が何かしてくれるのを待っていたのかもしれない。

けれど靖は、その直後から美月の新居の工事にかかりきりになったし、私が子宮内容除去術をしても全く気が付かなかった。

私が何も言わないでいると、靖の声が少しだけ和らぐ。

「智世、離婚なんて言って意地張るなよ。

もう家の図面は書き始めているし、今度は待たせないから。

あとで美月も現地確認に来るから、社内グループでちゃんと謝って、美月にも少しは気持ちよく仕事させてやってくれよ」

その言葉が終わるか終わらないかのうちに、玄関の向こうから甘い声がした。

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