私が早産した日、夫は元カノと海外にいた第2話
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悠が言っていたのは、先月の雨の日のことだった。
あの日、私は悠に車で家まで送ってほしいと頼んだが、断られてしまった。そのあと雨がひどくなり、タクシーもつかまらず、結局ずぶ濡れになってしまった。
その後も何日も熱が下がらず、中耳炎にまでなってしまった。
家政婦から事情を聞いた悠の祖父は、悠をひどく叱った。
悠の祖父は首を振った。
「お前、夏帆をそんな子だと思ってるのか。あの子はこんなこと、私に言いつけたりしないよ」
悠は気のない様子で目を伏せ、信じているようには見えなかった。
悠の祖父はため息をついて続けた。
「夏帆は結婚してからずっと、お前のことを大事にしてきただろう。もう結婚して4年になるんだ。そろそろ子どものことも考えたらどうだ?
このままずっと、子どもを作らないつもりなのか?」
悠はふっと笑い、すぐに答えた。
「あのとき美里と結婚させてくれていたら、今ごろは子どもも走り回る年頃になっていたでしょうね」
悠の祖父は杖を振り上げ、悠の太ももを思い切り叩いた。
「馬鹿なことを言うんじゃない!もう結婚してるんだぞ。いい加減、昔のことは忘れて、夏帆を大事にしなさい!」
それでも悠は、冷ややかに返した。
「そもそも、あのとき結婚しろと言われなければ、夏帆とは結婚してませんよ。子どもなんて、なおさらです。
夏帆のこと、好きじゃないんですから」
……そういうことだったんだ。
避妊だけはいつも徹底していて、万が一コンドームが破れたときも、悠はすぐにアフターピルを飲むように言った。
私は仕事が大事な時期だから、子どもはまだ先でいいと自分に言い聞かせていた。
でも、まさか悠が今も美里を忘れられず、私のことも好きではなくて、私との子どもを望んでいなかったなんて。
それなら、どうして自分からプロポーズしてきたのだろう。いくら考えてもわからなかった。
部屋を出ようとした悠は、目を真っ赤にした私と鉢合わせになった。
一瞬驚いたようだったが、何も言わず、そのまま私の横を通り過ぎていった。
悠の祖父はそんな私を慰めてくれた。
「気にしなくていい。あいつは私に叱られて、腹を立ててるだけだよ。ただな、やっぱり二人に子どもができれば、夫婦仲ももっとよくなると思うんだ」
私は胸の痛みをこらえ、嘘をついた。
「はい、わかっています。でも、私もあまり体が丈夫じゃないので……子どものことは、もう少し先にしようかと思っていて」
あのとき初めて、離婚しようと思った。でも、そんな矢先に妊娠がわかり、離婚どころではなくなってしまった。
当時、私はあるプロジェクトを担当していて、毎日仕事に追われていた。そんなある日、書類を届けに行く途中で突然倒れ、病院に運ばれた。
そこで初めて、妊娠4か月だと知らされた。
妊娠を知っても、悠は特に嬉しそうな様子もなく、しばらく黙ってから、ようやく口を開いた。
「……じゃあ、産めばいいんじゃないか」
私の妊娠はすぐに社内に広まり、それを快く思わない人も出てきた。
私が中心となって進めてきたプロジェクトは、期間が1年近くに及ぶ大きな仕事だった。しかも、ちょうど出産予定日とプロジェクトの終盤が重なっていた。
私が産休に入れば、残りの大量の仕事をほかのメンバーが引き受けることになる。
同僚たちは私の前では何も言わないのに、陰ではよく文句を言っていた。私も何度か、たまたま聞いてしまった。
「夏帆さんって、なんでこんな時期に妊娠するかな……」
「最後の大変なところは産休で休めるもんね。残りの仕事は全部こっちに回ってくるのに、成果は夏帆さんのものになるんでしょ」
そんなふうに言われているのが、悲しくてたまらなかった。
このプロジェクトを取るために、私がどれだけ夜遅くまで働き、何度も企画書を書き直してきたか、みんな知っているはずなのに。
私はただ、チームのみんなと頑張ってプロジェクトを成功させ、みんなで少しでも多くボーナスをもらえたらと思っていただけだった。
ところが、妊娠がわかった途端、上司に呼び出され、「残念だけど、今はお子さんのことを優先したほうがいい」と言われ、部長への昇進も見送られてしまった。
悔しかった。でも、そんな気持ちを表に出すわけにはいかなかった。少しでも弱音を吐けば、妊娠を盾にして被害者ぶっていると言われるに決まっていた。
一時は、この子を産まないことまで考えてしまった。子どもは大切だけど、私の将来だって同じくらい大切だった。
それでも、気づけばお腹に手を当てていた。お腹の中にいるこの子には、何の罪もない。
そんなふうに迷っていた頃、美里が突然、私たちの部署にやってきた。
上司は私の仕事を手伝わせると言って、美里を私の下につけた。
美里と顔を合わせるのは、これが初めてだった。
想像していたよりもずっと落ち着いた人だった。物おじせず、必要以上に目立とうとすることもなく、何か問題が起きても手際よく対処していた。
美里が来たことで、同僚たちはみんなほっとしたようだった。
でも、私にはわかっていた。美里は私の代わりになるために来たのだ。
これで、今回の昇進はもう無理だろうと思った。
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