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私が早産した日、夫は元カノと海外にいた第3話

この話は約1927字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

私は悠に直接話を聞きに行った。

「どうして篠原さんがうちの会社に来たの?」

悠は社長室の椅子に背を預けたまま、あっさり答えた。

「美里が適任だからだ」

「でも、篠原さんが来たら、産休から戻ったときに気まずいじゃない。あのプロジェクトだって、ずっと私が担当してきたのに……」

悠は平然と言った。

「でも、今の時期に妊娠したのはお前だろ。ほかの人にチャンスが回ってきたなら、昇進したっていいじゃないか」

喉が詰まり、声が震えた。

「妊娠したのは、私だけの責任だって言うの?悠は私の夫でしょ。それなのに、こんなときに元カノを会社に呼んで、私と同じ役職につけるなんて……不公平だよ」

それでも悠は、冷たい目で私を見つめたままだった。

「世の中、不公平なことなんていくらでもあるだろ。

お前だって、学歴が高いわけでも、経験が豊富だったわけでもないだろ。それでもうちの会社に入れたのは、入社前に父親と一緒にうちのじいさんに頼みに行ったからじゃないか」

私は言葉に詰まったが、悠はさらに声を強めた。

「お前より優秀で、もっと頑張ってる人たちからしたら、それこそ不公平なんじゃないのか?」

体がすっと冷えた。

今までの努力を否定されたのもショックだった。けれど、悠がそこまで言う理由に、ようやく気づいてしまった。

悠は美里を昇進させるために、わざわざ手を回していたのだ。

私が入社した頃の話まで持ち出したのも、これ以上何も言わず、おとなしく引き下がれということなのだろう。

私の顔色が悪くなっていくのを見て、悠は少し口調を和らげた。

「大丈夫か……?無理しないで、しばらく休めるようにしようか?」

私はお腹を押さえたまま、ぐっと顔を上げた。

「……ううん、大丈夫。そこまでしなくていい」

ここまで頑張ってきた仕事を、どうしても諦めたくなかった。

離婚したい気持ちは強くなるばかりだった。それでも、まだ踏み切れずにいた。

そんな私をよそに、担当していた仕事はあっという間にほとんど美里へ引き継がれてしまった。

みんな口では妊娠中の私を気遣ってのことだと言っていた。でも、本当は私を面倒に思っているのが、顔を見ればわかった。

そのうち、社内では悠と美里の噂も広まり始めた。

「篠原さんって、社長の元カノだったんだって。今は二人とも独身なんでしょ?もしかして、ヨリを戻すんじゃない?」

「いいよねえ。社長が元カノのために、わざわざあのポストを用意したんでしょ?そのうち部長にもなりそうだよね」

「ねえ、そういうこと言うのやめようよ。夏帆さんがかわいそうじゃない?5年も頑張ってきたのに、まだ部長になれてないんだから」

私は拳を握りしめ、唇を噛んで、噂話を必死に聞き流した。

その日の午後、下腹部に何度も痛みが走った。

真っ先に悠のことが頭に浮かび、病院まで送ってもらおうと電話をかけようとした。けれど、スマホを開くと、同僚たちのグループチャットに次々とメッセージが届いていた。

【ねえ見て!社長と篠原さんが一緒に歩いてるところ、撮れちゃった!】

【地下駐車場のほうに向かってない?もしかして、これからデートだったりして!】

メッセージを見て、思わず足が止まった。結局、悠には連絡せず、一人でタクシーに乗って病院へ向かった。

病院では切迫流産の兆候があると言われ、医師からはできるだけ横になって安静にするよう勧められた。

家に帰ってから、悠がテーブルに置いてあった検査結果を見つけた。

「……そんなに悪かったのか。しばらく仕事を休めるようにしておこうか?」

私はちらっと悠を見た。

「私だけ特別扱いしなくていいから」

悠は少し眉を寄せたが、それ以上は何も言わなかった。

その後も私は、いつもどおり会社に通い続けた。

妊娠してから、些細なことにも敏感になっていたのかもしれない。

そんなある日、また同僚たちのグループチャットに、悠と美里が親しげに食事をしている写真が投稿された。

その写真を見て、もう我慢できなくなった。私は悠に、今すぐ私たちの結婚を公表してほしいと迫った。けれど、悠はすぐに断った。

「私たち、ちゃんと結婚してるんだよ?どうして会社のみんなに言っちゃいけないの?

篠原さんが不倫相手だって思われるのが嫌なの?」

「美里は関係ないだろ」

悠はちらりと私のお腹を見た。

「もういいだろ。わがまま言うなよ。そんなに怒ってたら、お腹の子にもよくないだろ」

悠は最後まで冷たかった。私がどんなに頼んでも、ただのわがままだと片づけられてしまった。

落ち込んだままエレベーターを待っていると、書類を届けに来た美里と顔を合わせた。

美里は私を見るなり、馬鹿にしたように笑った。

「妊娠したからって、何でも思いどおりになるわけじゃないみたいね」

ずっとこらえていた涙が、とうとう頬を伝った。

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