港町に雪が再び降った第2話
この話は約1466字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。
先輩の自信に満ちた返事を聞き、電話を切った。心に、ぽっかりと穴が空いたような感覚が広がった。
港町中の誰もが知っている。私が哲夫と結婚するために、弁護士の仕事を辞めて天気予報アナに転身したことを。
姑は最初から私を快く思っていなかった。「弁護士なんて口先だけでの仕事で、人前に出せるものじゃない」と。
けれど哲夫は一言も反論せず、私をテレビ局の「看板アナ」へと押し上げ、次々と賞を獲得させてくれた。
しかし、私が最も輝いていたまさにその時、哲夫はナイトクラブのホステスのために人工降雨を起こした。私は一瞬で雲の上から突き落とされたようで、彼は私の耳元で意地悪く笑った。
「やきもちか?お前を口説いた頃のほうが、よっぽど本気だったよ。外でちょっと遊んだくらいで、いいじゃないか?」
その時、私はようやく悟った。
手に入れたとたん、私は彼にとって、好きなように踏みつけても構わないゴミ同然の存在になったのだと。
その夜、局の上層部から緊急の電話があり、テレビ局へ来るようにと言われた。
慌てて原稿を整え、スタジオに入ろうとしたところ、正面から村上玲奈(むらかみ れいな)が歩いてきた。
「圭子さん、哲夫さんが私にスタジオで実践させたいだって。気にしないよね?」
女は野心を隠そうともしない目つきで私の原稿を見つめ、すでに自分のものにしたかのように確信に満ちていた。
哲夫が玲奈を可愛がることは想像していた。
だが、現実は私の想像よりもはるかに残酷だ。
私は自嘲気味に笑い、原稿を彼女に手渡した。
哲夫は副調整室に座り、玲奈のたどたどしいアナウンスを面白そうに聞いていて、時折声を立てて笑っていた。
その瞳には隠しようのない寵愛の色があった。
そして私は、テレビ局で初めて冷遇される立場となった。
玲奈にお茶を運ばされ、裏方として彼女の原稿を修正し、みじめなほどにへりくだった。
かつて私を見下していた同僚たちは、嘲笑い続けた。
「玲奈さんって、入ってたった三日で特例の初デビューだって。圭子さんが局の看板だったって、今さら何なの?結局は隅に追いやられるんじゃない?」
「圭子さんって雪景色が一番好きだったよね?でも玲奈さんがいる限り、今年は一度も雪、降らないと思うよ」
「ねえ、一万円かけようか。明日の『看板アナ』、誰のものになるか……私、玲奈さんに賭けるね」
……
放送が終わると、哲夫は玲奈を連れて私の前に現れ、満面の笑みを浮かべた。
「どうだ?玲奈の放送、悪くなかっただろう?彼女には才能があるって言っただろう?」
彼の声には、隠しようもない誇らしさがにじんでいた。
無表情のまま小さくうなずくと、私はくるりと踵を返し、給湯室へと足を向けた。
哲夫は眉をひそめ、私の背中をじっと見つめながら、言いたげに口を開きかけたが、結局言葉を飲み込んだ。
周りの人々の絶え間ない祝福の声が、彼の意識を再び玲奈の方へ引き戻していく。
ドアを閉めても、外の喧騒はなお遮りきれない。
気を静めようとコーヒーを一口含んだ。ふと、スマホに匿名の音声メールが届いているのに気づいた。
思わず再生ボタンを押すと、玲奈のあわてた声が流れてきた。
「哲夫さん、私、今どうすればいいの?圭子さんのお母さんが突然道に飛び出してきたし、それに大雨で……
助けて、哲夫さん。少しの間、姿を消してもいい。刑務所にだけは行きたくないの、お願い……」
私の胸は一気に締めつけられ、息を殺して続きを聞く。
音声には少なくとも三分間の沈黙が続き、やがて哲夫の、冷たくもどこか甘い声が流れてきた。
「これは海外行きの航空券だ。あとはすべて俺に任せておけ」
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)