消された十年の愛第2話
この話は約1908字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。
翌朝、私が部屋のドアを開けて出ると、悠真はすでに朝食を作っていた。
彼はまるで昨夜のことなどなかったかのように振る舞っていた。
「起きたか?朝食にしよう」
私はテーブルの上に並べられたものを見て、少し疲れた声で言った。
「私、卵アレルギーなんだけど」
彼がマヨネーズを絞る手が止まった。
そして、私の前にあったトーストをゴミ箱に放り投げた。
「忘れてた。じゃあ外で食べてこい」
私は短く返事をした。
背を向けようとした時、背後から悠真が言った。
「俺たち、こうしているのはおかしいと思わないか?なあ、明音、俺たちはまるで他人のようだ」
私は彼のうつろな目を見つめ返し、自嘲気味に笑った。
「いいえ、他人なら少なくとも、いちいちぶつかり合ったりはしないわ。私たちは他人以下よ。でも、誰のせいなの?私かしら?」
その場の空気が凍りついた。
私たちは互いに睨み合い、どちらも引こうとせず、決して折れようとはしなかった。
しばらくして。
彼のスマートフォンの着信音が、その沈黙を破った。
「分かった、お祖父さん」
彼は無表情で応じた。
「俺と明音は時間通りに向かうよ」
通話を終えた後。
彼は疲れ切ったように眉間をつまみ、複雑な表情で私を見た。
「過ぎたことはもう終わりにしよう。
明日はお祖父さんの傘寿の祝いだ。一緒に行って、俺たちのことを勘づかれないようにしてくれ」
私は声を出さずにため息をついた。
「分かったわ」
そして背を向け、家の近くにあるカフェへ向かった。ビデオ通話は繋がったままだ。
彼女はずっと何も言わなかったので、私から先に沈黙を破った。
「何を考えているの?」
彼女はどこか呆然としていた。
「ただ、まさか未来の私と悠真が、ろくに話すこともない関係になるなんて思いもしなかったから。何かを分かち合うことも、愛情を伝えることもなく、あるのは責め合いとわだかまりだけなんて」
私は少し戸惑い、言葉に詰まった。
高級住宅街に植えられたプラタナスの葉は、昨夜の嵐で地面一面に打ち落とされていた。
踏みしめるとカサカサと音がした。
以前、怪我をした私を彼が背負って歩いた時と同じ音だった。だが、今はもう何もかもが変わってしまった。
店主が私に気づいた。
「星野さん、いらっしゃい。いつものセットだね。卵アレルギーだから卵抜きでしょ?」
私は微笑んだ。
「ええ、お願いします」
店の店主でさえ私の卵アレルギーを覚えているのに、悠真は忘れてしまっていた。
翌日、彼は私を実家へと連れて行くために車を出した。
私は助手席に座り、無言で窓の外の街並みをぼんやりと見つめていた。
不意に、悠真が口を開いた。
「梨乃が以前、お祖父さんの命を救ったことは知っているよな?」
私は彼の方を向いた。
「何が言いたいの?」
彼は唇を噛みしめた。
「だから今回のお祖父さんの祝いの席に、梨乃も来ているんだ。俺が呼んだんじゃない、お祖父さんが呼んだんだ」
私はどう反応すればいいのか分からなかった。
驚きはしなかった。
心臓が握り潰されるような息苦しさを抑え込み、掠れた声で言った。
「そう、構わないわ」
結局のところ、もう残り三日しかないのだ。三日後には、かつての明音が歴史を書き換えるだろう。
私たちに未来はないのだ。
その言葉を聞いて。
彼は逆に一瞬呆然とした。
そして感情の読めない顔でハンドルを強く握りしめ、しばらくしてようやく絞り出した。
「構わないなら、それでいい」
イヤホンの向こうで、明音が泣いていた。
私はこんな冷たい接し方に慣れきっており、私たちの関係が壊れていることも、とうに思い知っていた。
だが、これが過去の彼女にとってどれほど残酷なことか分かっていた。
まるで天国から地獄へと突き落とされるようなものだろう。
「どうして彼は、あなたにそんなひどいことができるの……」
私は彼女を慰める言葉が見つからず、ただ黙っているしかなかった。
しばらくして。
私たちは実家に到着した。
車を降りるや否や、可憐な人影が遠くから駆け寄ってきた。
「悠真……もう一生会えないかと思っていたわ」
梨乃が涙をこぼすと、悠真は優しくなだめた。
彼は他人の目を全く気にすることなく、そっと梨乃の涙を拭った。
「泣かないで。戻ってきたからには、もう二度と誰にも君を追い出させはしないから」
私は皮肉っぽく言った。
「ご勝手にどうぞ。私も反対はしないから、私を二人の仲を引き裂く悪者みたいに言わないでちょうだい」
梨乃は口を尖らせ、一瞬軽蔑の色を浮かべた。
一方で悠真は眉をひそめ、全く訳が分からないという様子だった。
彼が何を理解できないのかは分かっていた。どうして私がこんなに「寛容」になれるのか、理解できないのだ。
私は目を逸らした。
なんてことはない。ただ、吹っ切れただけのことだ。
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)