消された十年の愛第1話
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白石梨乃(しらいし りの)の存在を知った後、私は黒崎悠真(くろさき ゆうま)を責め立てることもなく、ただ離婚協議書を突きつけた。
彼はうつむいたまま座り、しばらく葛藤した末にそれを破り捨てた。
「十日だ。十日後には梨乃を遠くへやる。二度と俺たちの生活に関わらせないから」
そう言い残すと、私の返事を待つこともなく背を向け、家を出て行った。
そして、この十日間。
悠真は彼女を連れてラフティングや雪山登山、バンジージャンプ、スカイダイビングなど、刺激的な遊びを片っ端から楽しんだ。
海辺で朝日を眺め、縁結びを祈願するなど、思いつく限りのロマンチックな時間を過ごした。
そして九日目の夜。
すべての荷物をまとめ終えた時、思いがけず十年前の自分からビデオ通話がかかってきた。
「本当に十年後の私なのね!」
画面越しの「私」は明るい笑顔を浮かべ、興奮しきっていた。
「じゃあ、私と悠真はもう結婚して、子供もいるの?」
私は目に苦痛の色をにじませ、そのままベランダへ向かった。
眼下で強く抱き合い、名残惜しそうにしている悠真と梨乃にカメラを向けた。
「これが結末よ」
彼女は目を見開き、呆然と呟いた。
「そんな、嘘でしょ……」
私はすべての気力を吸い取られたような、疲れ切った声で言った。
「星野明音(ほしの あきね)、お願いだから、彼とは結婚しないで」
* * *
白石梨乃(しらいし りの)の存在を知った後、私は黒崎悠真(くろさき ゆうま)を責め立てることもなく、ただ離婚協議書を突きつけた。
彼はうつむいたまま座り、しばらく葛藤した末にそれを破り捨てた。
「十日だ。十日後には梨乃を遠くへやる。二度と俺たちには関わらせないから」
そう言い残すと、私の返事を待つこともなく背を向け、家を出て行った。
そして、この十日間。
悠真は彼女を連れてラフティングや雪山登山、バンジージャンプ、スカイダイビングなど、刺激的な遊びを片っ端から楽しんだ。
海辺で朝日を眺め、縁結びを祈願するなど、思いつく限りのロマンチックな時間を過ごした。
そして九日目の夜。
すべての荷物をまとめ終えた時、思いがけず十年前の自分からビデオ通話がかかってきた。
「本当に十年後の私なのね!」
画面越しの「私」は明るい笑顔を浮かべ、興奮しきっていた。
「じゃあ、私と悠真はもう結婚して、子供もいるの?」
私は目に苦痛の色をにじませ、そのままベランダへ向かった。
眼下で強く抱き合い、名残惜しそうにしている悠真と梨乃にカメラを向けた。
「これが結末よ」
彼女は目を見開き、呆然と呟いた。
「そんな、嘘でしょ……」
私はすべての気力を吸い取られたような、疲れ切った声で言った。
「星野明音(ほしの あきね)、お願いだから、彼とは結婚しないで」
……
画面の向こうで、彼女はとめどなく涙を流していた。
悲しみと衝撃で目を真っ赤に腫らし、何事かをぶつぶつと呟き続けていた。
「どうして、こんなことに……」
私は答えることができなかった。私自身にも分からないのだから。
ただ、こう言うしかなかった。
「彼と結婚しても幸せにはなれないわ、明音。約束してくれる?」
彼女は涙を拭い、真っ赤な目で私を見た。
「でも、彼は今、私のそばにはいないの。私の脚を治してもらうため、南雲県(なぐもけん)で世を離れて暮らす名医を訪ねて行ったわ」
私は呆然とした。
そうだった。すっかり忘れるところだった。
あの頃の私は舞台の事故で両脚に重傷を負い、立ち上がることすら困難だった。
私以上に心を痛めていた悠真は、毎晩のように徹夜で看病してくれた。
薬を替え、夜通しマッサージを続けてくれた。
そんな時、南雲県で人里離れて暮らす名医なら私の脚を治せるかもしれないと、偶然耳にした。
彼は迷うことなく旅立った。
名医の家の前で三日三晩ひざまずき、足がパンパンに腫れ上がるまで懇願して、ようやく治療の承諾を得たのだ。
なのに、今は……
思わず自分の脚に触れた。脚はすっかり良くなったが、私たちはすれ違ってしまった。
さらに皮肉なことに。
「さっき下にいた、梨乃っていう女の子が誰だか分かる?」
彼女は首を振った。ウサギのように目が赤く腫れている。
私は自嘲気味に苦笑した。
「あの名医の孫娘よ」
彼女は息を呑んだ。
口を押さえて嗚咽を漏らした。
「じゃあ、ゆ……悠真は、私を助けに行った先で、他の人を好きになってしまったの?」
私は首を振った。
「分からない。もしかしたら、その時はまだ愛じゃなかったのかもしれない。二人が再会したのは二年前。あなたのいる時間から八年後のことよ」
私たちは互いに押し黙った。
ちょうどその時、玄関の電子錠が開く音が聞こえた。
私は無意識にスマートフォンを背中に隠した。
悠真がこちらを見た。
その不自然な仕草に目を留めたが、何も聞いてはこなかった。ただ、目尻は赤く、ひどく憔悴していた。
「これで満足か?」
彼は皮肉めいた笑みを浮かべた。
「あいつを送り出してきた」
私は無表情に彼を見つめ返した。
だが背中では、爪が掌に食い込んで痛むほど、拳を固く握りしめていた。
「満足ですって……?悠真、結婚は私一人だけの問題だったの?私だけが頑張らなきゃいけなかったの?」
彼はネクタイを引き剥がし、乱暴にソファへ投げ捨てた。
「面倒なことを言うな」とだけ吐き捨てると、私を押しのけてバスルームへ向かい、バンッと音を立ててドアを閉めた。
私は全身がこわばった。
私はしばらく俯いた後、背中に隠していたスマートフォンをようやく目の前に戻した。
画面の中の明音はすでに涙で顔を濡らしていた。
「あれは私の知っている悠真じゃない、絶対に違うわ……」
私は泣けなかった。
彼女のように感情を吐き出したいのに、何度瞬きしても一滴の涙もこぼれず、ただ目が乾いて痛むだけだった。
「人って、変わっちゃうものなんだよね、きっと」
荷物を持って家を出ようとした矢先、外から雷鳴が轟き、土砂降りの雨が降り出した。
スマートフォンにもフライトキャンセルの通知が届いた。
私はため息をついた。
どうやら今夜は出発できそうにない。仕方なく、再び荷物を手に取ってゲストルームのドアを開けた。
「あなたたち、もう部屋は別なの?」
彼女がおずおずと尋ねた。
私は手の動きを少し止め、目の奥に浮かんだ苦渋を隠した。
「ええ、別々に寝るようになって、もう一年近くになるわ」
彼女はすすり泣きを止めなかった。
「でも、あの頃の悠真は、私を抱きしめないと眠れない人だったのに……」
私は目をわずかに伏せた。あまりにも昔のことで、私でさえ忘れかけていた。
昔の悠真は重度の睡眠障害を抱えており、私のそばにいる時だけ安らかに眠ることができた。
だから、あの頃の私たちは、一度も離れて眠ったことがなかったのだ。
私は小声で言った。
「彼はもう、眠れるようにしてくれる別の人を見つけたのよ。梨乃の治療は、とてもよく効くみたいだから」
しばらくして、画面の向こうの彼女が真っ赤な目で私を見た。
「三日よ。三日後に悠真が戻ってくる。その間に、私もきっぱり彼を諦めるわ」
私は頷いた。
「……ええ」
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