流れ星よ、この願いを君に届けて第2話
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「健のところへ行って、男と同室は嫌だって言え。他の女子と代わるか、一人部屋にしてもらえ。差額くらい、自分で出せば済む話だろ」
涼真は声をぐっと落とし、正面だけを見たまま、こちらに目線ひとつ寄越さなかった。
私はスマホで両親に無事を知らせるメッセージを打ちながら、顔も上げずに訊き返した。
「どうして?」
「どうしてって、お前はフリーじゃないだろ。男と同じ部屋に泊まるなんてあり得ない」
「じゃあ、あなたは?あなたはフリーなの?」
フロントで手続きをしていた涼真の手が止まり、その声に得体の知れない苛立ちが混じった。
「これは最初から決まっていたゲームのルールだ。俺は、くじの結果を尊重してるだけだ」
私の声は、自分でも驚くほど軽かった。
「うん、私も。くじの結果に従うだけだよ」
涼真が眉間に皺を寄せ、何か言い返すより先に、私はフロントからルームキーをひったくるように受け取って背を向けた。
数歩歩いたところで、健の弾んだ声がロビーに響いた。
「全員、三十分後にシアタールーム集合な!貸し切ってあるから、みんなで一年生のときのスポーツ大会の映像を見るぞ。ちょっと昔話に浸ろうぜ!」
私は足を止めず、ショルダーバッグのストラップを握り直しただけだった。
一年生のときのスポーツ大会の記録映像。それは、涼真が莉桜に派手に猛アプローチしていた頃の記録でもある。
……
シアタールームのテーブルには、スナック菓子やフルーツが所狭しと並んでいた。
涼真は腰を下ろすなり、イチゴの皿をすっと莉桜の前へ滑らせた。
隣の女子が、くすくす笑いながら冷やかす。
「涼真ってば、ほんと莉桜に甘いよね。イチゴ好きって知ってるから、独り占めさせてるじゃん」
他のみんなもすぐに便乗して冷やかし、莉桜は頬を染めながら皿を押し戻した。
「みんなで食べよ。涼真がいっぱい買ってきてくれたんだし。足りなかったら、また涼真に部屋まで取りに行かせるから」
けれど涼真はまた皿を莉桜の方へ引き寄せ、柔らかく笑った。
「うん、俺が取りに行くよ。先に食べてて」
涼真が立ち上がって部屋を出ていくと、シアタールームはどっと沸いた。
「莉桜の一言で即パシリとか、完全な尻に敷かれっぷりじゃん!」
莉桜はイチゴをつまみながら小さく笑い、ふと私の名前を呼んだ。
「紬、あとで涼真が持ってきたら、紬もいっぱい食べてね。イチゴ好きだったよね?」
ちょうどそのときドアが開き、涼真がイチゴの皿を二つ抱えて戻ってくると、その両方を莉桜の前に並べた。
涼真だって、知っているはずなのに。
この三年間、私が数えきれないほどイチゴを買ってきたことを。そのたびに、彼が眉をひそめてこう小言を言うのを何度も聞いてきた。
「ちょっと控えろって。こんな甘いのばっか食べてたら、またニキビができても知らないぞ」
私は何気ないふりでみかんに手を伸ばした。ちょうどそのとき、健が私を呼んだ。
「紬、空は?」
みんなの視線が一斉に集まる中、私はみかんの皮をむき続け、顔を上げずに答えた。
「ちょっと急ぎの用事ができたみたい。そっちを先に片付けに行ったよ」
健は「そっか」と肩を落とした。
「じゃあお前らのペアは見込み薄か。でもまあいい、もう片方のペアは確実にくっつくだろうしな!」
涼真の視線が一瞬だけ私で止まり、それからすぐに逸れた。
「ほら、映像が始まるぞ」
彼がため息まじりにそう声をかけると、慣れた手つきで莉桜にイチゴを差し出した。
記録映像はたっぷり二時間あった。
みんな食い入るように画面を見つめ、二人が映るたびに笑い混じりに冷やかした。
「ほらまた涼真が莉桜の汗拭いてる。たかが五十メートル走なのに、カメラマンより張りついてんじゃん」
「見ろよ、水に携帯扇風機に日焼け止めまでフル装備!」
「莉桜、あのとき涼真、学校中の話題になるくらい猛アプローチしてたのに、よく我慢して断り続けたよね?おかげでこいつ、四年間ずっとフリーで、卒業間近の今までずっと未練タラタラじゃん」
莉桜は涼真を見つめ、目にうっすら涙をにじませた。
「学生のうちの恋愛って、なんだか不安定な気がしてて。卒業するまでは様子を見たかったの。こんなに長く待ってくれるなんて、私も思ってなかった」
男子のひとりが茶化すように声を上げた。
「涼真、この四年間、待たされてしんどかったろ?」
涼真は莉桜と目を合わせ、小さく頷いた。
「まあな」
そのたった一言に、四年間積み重ねた想いと我慢が詰まっているように、みんなには聞こえたらしい。
感嘆の声があちこちから上がる中、心の中で冷たく笑っていたのは、私だけだった。
何が「しんどい」だ。
涼真は半年間、莉桜に派手にアタックしても実を結ばず、すぐにテニスに夢中になっていた。
私は大学のテニスサークルのレギュラーで、彼に頼まれて半年間コーチをした。そして二年生の春、彼は私に告白してきたのだ。
涼真にとっての「まあな」なんて、その程度のものだ。
私たちの交際は周りには秘密だったけれど、それなりに楽しくて、ちゃんと幸せだったのに。
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