流れ星よ、この願いを君に届けて第1話
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卒業旅行の夜、クラス委員長の高橋健(たかはし たけし)がくじ引きで部屋割りを決めようと提案した。
「誰と相部屋になるかは運命次第だぞ!男女関係なく、同じ番号を引いたやつ同士でペアな。ドキドキして最高じゃん!」
大学の四年間、そのうちの三年を私は瀬崎涼真(せざき りょうま)と付き合ってきた。そのことを、周りの誰も知らない。
私は段ボール箱に手を突っ込み、ボールをひとつ掴み取ってペアの発表を待った。
涼真の番が来て、彼が引いたのは「7番」だった。
健が、ひときわ大きな声を上げた。
「7号室のもうひとりは――白石莉桜(しらいしりお)!」
涼真がかつて猛アタックしていた女の子が、みるみるうちに頬を赤く染めた。
その場が一斉に沸き立った。運命の赤い糸だと、みんなが口々にはやし立てる。
声を上げなかったのは、私だけだった。
ゲームが始まる前、健が涼真にこっそり耳打ちしていたのを聞いていたのも、私だけだ。
「目印のついてるボールを探せ。お前と莉桜用に、わざと仕込んでおいたからな」
涼真は柔らかく笑い、莉桜のそばへ歩み寄って彼女のスーツケースを持ち上げた。
それを見て、私もふっと笑った。
三年付き合ってきても、彼の口から「俺たち付き合ってる」というひと言すら出てこなかった。
だから今度は、私のほうから身を引くことにした。
* * *
卒業旅行の夜、クラス委員長の高橋健(たかはし たけし)がくじ引きで部屋割りを決めようと提案した。
「誰と相部屋になるかは運命次第だぞ!男女関係なく、同じ番号を引いたやつ同士でペアな。ドキドキして最高じゃん!」
大学の四年間、そのうちの三年を私は瀬崎涼真(せざき りょうま)と付き合ってきた。そのことを、周りの誰も知らない。
私は段ボール箱に手を突っ込み、ボールをひとつ掴み取ってペアの発表を待った。
涼真の番が来て、彼が引いたのは「7番」だった。
健が、ひときわ大きな声を上げた。
「7号室のもうひとりは――白石莉桜(しらいしりお)!」
涼真がかつて猛アタックしていた女の子が、みるみるうちに頬を赤く染めた。
その場が一斉に沸き立った。運命の赤い糸だと、みんなが口々にはやし立てる。
声を上げなかったのは、私だけだった。
ゲームが始まる前、健が涼真にこっそり耳打ちしていたのを聞いていたのも、私だけだ。
「目印のついてるボールを探せ。お前と莉桜用に、わざと仕込んでおいたからな」
涼真は柔らかく笑い、莉桜のそばへ歩み寄って彼女のスーツケースを持ち上げた。
それを見て、私もふっと笑った。
三年付き合ってきても、彼の口から「俺たち付き合ってる」というひと言すら出てこなかった。
だから今度は、私のほうから身を引くことにした。
……
部屋番号の発表はまだ途中なのに、その場の熱気はもう最高潮に達している。
健はふたりに赤いリストバンドを配りながら、声を張った。
「もう一回ルール言っとくぞ!同じ番号同士がペア、この二泊三日は完全ペア制だ。リストバンドの色が目印、単独行動は禁止!」
あちこちから口笛が飛び、わざわざ涼真の肩を叩きにいく男子もいる。
莉桜は耳まで真っ赤にしながらリストバンドをつけ、涼真の背中に隠れるように身を寄せた。
涼真は口元をゆるめ、片腕で彼女を庇うように前に出た。
「やめろって。照れてんだから」
「おいおい、もう庇ってんのかよ。おまえら気をつけろよ、莉桜の機嫌損ねたら後で涼真に恨まれるぞ!」
はやし立てる声が、一気に大きな渦になった。
私は輪の外に立っていた。左手にボール、右手に重いスーツケースの取っ手を握ったまま。
出発前、涼真は自分の荷物を私のスーツケースに詰め込んできた。
「向こうに着いたら俺が荷物持つから。スーツケースふたつは引けないだろ」
そして、私が新しく買ったショルダーバッグを指さして言った。
「それ、ストラップ長めだし、俺が掛けても肩に食い込まなそうでいいな」
三年の付き合いで、彼が同級生の前で私に親しげに触れたこともなければ、バッグを持ってくれたことも一度もなかった。
だから、心の底から嬉しかったのだ。この旅行で、彼が私たちの関係を公にしてくれるのだと信じていた。
けれど旅行の初日、彼が手に取ったのは莉桜のスーツケースだった。
からかいから彼女を庇うその腕には、彼女の短いストラップのバッグまで提げられている。
スーツケースが重すぎて、その重みで体が片方に傾き、指先から肩にかけて痺れるような痛みが走っていた。
私は少し身をかがめて取っ手から手を離すと、軽く咳払いをして、震えそうになる声をぐっと喉の奥に押し込んだ。
そして、静かに手を挙げた。
「あの……」
全員の視線が一斉に私に集まった。健はまだ興奮が冷めやらない様子で言った。
「どした紬(つむぎ)。お前、莉桜のルームメイトだろ?莉桜の身内としてひと言あるか?」
莉桜がぎくりと固まり、ぎこちなく口元を動かした。
涼真ははっと顔を上げ、緊張と牽制の入り混じった目を私に向けてきた。
でも、彼が身構える必要はなかった。
私はただ手の中のボールを掲げ、淡々と訊いただけだ。
「3番、誰?」
健が周囲を見回すと、人だかりの反対側で一人、すっと手が上がった。
「俺」
クラスであまり目立たない男子だった。
健が笑った。
「五十嵐空(いがらし そら)か。おまえがフリーなのは知ってるけど、紬は?フリーならそのまま相部屋でいいし、彼氏いるなら女子と交換してやるけど……」
私は静かに言葉を遮った。
「フリーだよ」
視界の端で、涼真の眉がふっと緩み――そしてまた、かすかにひそめられた。
彼が空のほうへ顔を向けかけたが、健はすでにオレンジ色のリストバンドを取り出していた。
「ちょうどいいじゃん!ふたりともフリーなら、ここでもう一組カップル誕生かもな!」
私はリストバンドを受け取り、軽く頷いた。
「ありがとう」
ふたたびスーツケースの取っ手を握ったとき、視線がひとつ、背中に張りついているのを感じた。
今、彼がどんな顔をしているかはわからない。
でもきっと――ほっとしているのだろう。
部屋割りが決まり、チェックインの列ができた。
莉桜が実家に電話をかけにその場を離れると、涼真はわざとのろのろと時間を潰していた。
そして、列に残ったのが私だけになったところで、ようやくチェックインの手続きを始めた。
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