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月明かりはあなたの瞳に沈んでいく第2話

この話は約1552字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

風馬はため息をついた。それが落胆なのか、それとも安堵なのか、自分でも分からないようだった。

「大丈夫、君がこの先ずっと見えなくても、俺はずっと君を愛してるよ。明日また病院の眼科に20億円投資するよ。研究、もっと早く進めてもらうから。

でも、今はご飯の時間だ。ちゃんと食べないとな。行こう」

そう言って、風馬は凛音を抱き上げた。

かつては甘く幸せだったその仕草も、今の凛音にはただただ気持ち悪いだけだった。体がこわばり、力が入る。

ダイニングに着いた。

「ママの隣がいい」

大地がはしゃいだ声を上げた。だがその手は、まだ椅子の上に立ったまま、あの女の口元をナプキンで拭っていた。

しかも、食卓では大地とその女が向かい合って座っている。彼らが凛音にあの女と同じ側に座れと言うはずもなかった。

すべては出来レースだ。彼らは決められた配役を、凛音の目の前で演じているだけ。

あの女はバスローブ姿で風馬の隣に座り、まるでこの家の女主人のような顔をしていた。

風馬は凛音のためにステーキを切り、エビの殻を剥き、大地は凛音のために水を注ぐ。

すべてがかつてと同じ日常のように見えた。ただ違っていたのは、今の凛音には、その女の目に宿る嫉妬がはっきり見えたこと。

凛音は口に運んだ食事が砂のように味気なく感じた。風馬が自分のためにエビの殻を剥くその手は、今朝、他の女の体を撫でていた。

吐き気がこみ上げる。

凛音が席を立とうとした瞬間、その女は堂々と風馬の手をバスローブの中に引き入れた。

風馬は一瞬抵抗しようとしたが、彼女の手に押さえつけられ、そのまま彼女の動きに合わせて手を動かされた。

ついには、その女の手が離れても、風馬の手は動こうとしなかった。

猛烈な嫌悪感が凛音を襲った。もう抑えきれないテーブルに手をつき、彼女は激しく嘔吐した。

大地が急いでティッシュを取りに走り、風馬が背中をさすろうと手を伸ばしてきた。

だが、その手が今まで何をしていたかを思い出すと、凛音はぱっと手を払いのけ、冷たい声で一言放った。「汚い」

風馬は意味が分からない様子で、傷ついたように眉をひそめた。「俺、エビ剥いてた手だぞ?本当に大丈夫か?病院に連れていく」

凛音は彼を押しのけるようにして立ち上がった。「平気」

彼女は寝室に戻り、シャワーを浴びた。湯気が立ち上り、鏡の中にぼんやりと自分の顔が浮かび上がる。

そのとき、今日オフィスの外で聞いたあの言葉が頭に蘇る。

「成瀬さん、奥さんの目を見るたびに、全然その気にならない?だから私に夢中になるよね」

「黙れ。お前は所詮、遊びだ。自分の立場をわきまえろ」

否定は、なかった。

凛音は鏡に手を伸ばし、曇りをぬぐった。ハッキリとした自分の顔が浮かぶ。

あの頃、目が見えなかった自分はどんな姿だったのか?

それほどまでに風馬にとって、見るに堪えない存在だったのか。幼馴染の絆も、命をかけて救った過去も、長年連れ添った夫婦の想い出も全部捨てて、他の女に走るほどに?

新婚の夜、彼は何度も何度も彼女の目にキスをして、涙が彼女の頬に落ちたのが、ちゃんと感じられた。

「凛音、やっと君は俺のものだ。愛してる。愛してくれてありがとう。ずっと大切にする。もしこの誓いを破ったら、天罰が下っても構わない」

風馬は、確かに彼女を大切にしていた。

家には30人の家政婦が雇われ、それぞれに感知センサーがあり、彼女がリモコンを押せば、誰かがすぐに駆けつけてきた。

目が見えなくても、他の奥様方が持つスキンケアから高級ジュエリーまで、風馬は常により高級なものを買い与えた。

家にいて退屈しないようにと、点字編集部まで作り、書籍や雑誌はすべて点字で届けられた。

風馬は、本当に彼女を愛していなかったのだろうか?

凛音の中に、ひとつの答えが生まれた。違う、彼は心をふたつに分けてしまったのだ。

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