捧げた愛は、灰となって消えた第2話
この話は約1790字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。
再び目を開けたとき、直哉はやつれた様子でベッドの傍らにうつ伏せになっていた。
私が目を覚ましたのを見ると、彼はぎゅっと私の手を握り、震える声で言った。
「沙耶、目が覚めたのか?まだつらいか?」
私は力を込めて自分の手を引き抜き、かすれた声で言った。
「子どもは?」
直哉はそっと私のひび割れた唇を撫で、水を一口飲ませると、優しい声であやすように言った。
「まだ保育器の中だ。女の子だよ。沙耶、俺たちに娘ができたんだ。嬉しいか?」
目の奥が熱くなった。
嬉しい?
本当なら、嬉しいはずだった。
愛する人がそばにいて、腕の中には小さな命がある。
本来なら今日は、私にとって一番幸せな日だったはずなのに。
でも今は、すべてが泡のように消えてしまった。
私は口元をわずかに引きつらせ、言葉を発しようとした、そのとき。
一人の女が入ってきた。
私の姉、真鍋麗子(まなべ れいこ)だった。
「沙耶、目が覚めたのね。フルーツ持ってきたの。あとで直哉にむいてもらって食べてね」
彼女は今日は胸元の大きく開いた丈の短いワンピースを着ていて、首筋にははっきりと赤い痕が残っていた。
わざとだと、すぐに分かった。
怒りに、理性が焼き切れた。
私は頭に血が上り、そばにあった物を手当たり次第に掴んでは、二人に叩きつけるように投げた。
「出てって!二人とも今すぐ出てって!麗子、恥ずかしくないの?妹の夫に手を出すなんて、最低よ!」
「沙耶、気でも狂ったのか!」
直哉は顔を曇らせ、私の手を強く掴んで後ろへ突き飛ばし、麗子を庇うように抱き寄せた。
ただでさえ産後で体はぼろぼろだった。気力だけで何とか持ちこたえていた。
その勢いで、私はベッドから転げ落ち、背中を床に強く打ちつけた。止血のために当てられていたガーゼがずれ、血が一気ににじみ出した。
視界がぐらぐらと揺れる中、麗子を庇う直哉を見上げ、心は完全に冷え切った。
直哉は複雑な表情で私を見下ろした。
「沙耶、麗子は君のお姉さんだろ。妊娠中、どれだけ世話になったと思ってるんだ?
夜中にコロッケが食べたいって言ったときだって、眠いのを我慢して起きて作ってくれた。妊娠後期に足がむくんだときも、わざわざ習いに行ってマッサージしてくれただろ。
文句があるなら俺に言え。麗子に当たるな」
彼が警戒するように麗子を守る姿を見て、私はふっと笑った。
麗子は昔から私を憎んでいた。
私が生まれたことで、周囲の関心を奪われたと思っていたから。
彼女は、私が金を盗んだだの、嘘をついただの、同級生をいじめただのと、ありもしないことをでっち上げた。
そのせいで両親は、私を生まれつき性根の悪い子だと思い込み、ことあるごとに嫌っては、殴ったり罵ったりした。
そんな私が直哉と出会った。私の話を聞いた彼は心から同情し、低い声で怒りを滲ませた。
「こんなひどい家族がいるなんて」
そして私を強く抱きしめて約束した。
「沙耶、俺が一生守る。もう二度と、君にこんな思いはさせない」
私のために怒り、私を愛してくれる人が現れたのは、初めてだった。
私はそれを信じ、すべてを彼に捧げた。
彼と一緒に地下室に住み、アルバイトをしながら彼を支えた。
貧しい青年だった彼が、今や誰もが敬う桐生社長になるまで、ずっとそばにいた。
資金調達のために取引先と酒を飲み、子どもを一人失ったことさえあった。
直哉と結婚してから。
両親と麗子は頻繁に連絡してくるようになり、過去の過ちと後悔を口にして、償いたいと言った。
心の奥では揺らいだが、私は一度も受け入れなかった。
直哉も彼らには冷たく、会うたびにきつい言葉を浴びせていた。
それが、私の妊娠が分かってから変わった。
両親と麗子は、直哉が私の世話をしきれないのではと心配して、自ら家に来るようになった。
気遣いと優しさに満ちたその様子を見て、私は心が緩んでしまった。
許そうとした。過去のことは水に流そうとした。
ようやく、私を愛してくれる家族と、愛してくれる人を手に入れたのだと思った。
けれど、私がお腹の子を十か月守っている間、彼らはそのうち八か月ものあいだ、私のすぐそばで関係を続けていた。
つわりやむくみ、ホルモンの乱れに苦しめられて眠れない夜、彼らは隣の部屋で密かに逢瀬を重ねていた。
誰一人として、私に真実を告げなかった。
それどころか。
終わったあとには、私の前でまるで互いに反目しているかのように振る舞っていた。
本当に、吐き気がするほどだった。
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)