捧げた愛は、灰となって消えた第3話
この話は約2230字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
ドアが再び押し開けられた。
母は床一面の惨状を見て、まず驚いた顔をした。
それから、床に崩れ落ちている私と、直哉に庇われている麗子を一瞥し、瞬時に何が起きたのかを悟った。
不満げに白い目を向け、私を指さして怒鳴った。
「沙耶、また馬鹿なことしてるの?家族なんだから、どうして手なんか出すのよ?小さい頃からそう、あんたはいつもお姉ちゃんをいじめるんだから」
父は鼻で笑った。
「恩知らずだな」
反論しようとした。
けれど口を開いた瞬間、涙と吐瀉物が一緒にこみ上げ、無様に溢れ出た。
直哉の目に一瞬、哀れみが浮かんだ。
彼は私を助け起こそうとしたが、麗子に腕を掴まれた。
彼女はウェットティッシュを手に取り、私の前にしゃがみ込み、少しずつ口元の汚れを拭き取った。
誰が見ても、優しくて思いやりのある姉にしか見えなかった。
けれど、声を落として囁かれた言葉は、毒を含んだ刃のように、一言ずつ私の胸に突き刺さった。
「沙耶、私はあんたの家庭を壊しに来たんじゃないの。むしろ、誰よりもあんたに幸せでいてほしいと思ってる。
でも、あんたは女の子を産んだうえに、子宮まで取っちゃったでしょ。もう子どもは産めない。分かるよね?直哉には跡取りが必要なの。産めるのは私しかいない。だから私、あんたたちの家族に入れてもらいに来たの」
その後の言葉は耳に入らなかった。ただ、耳の奥で息が詰まるような轟音が響き続けた。
そして残ったのは、「子宮まで取っちゃった、もう子どもは産めない」という言葉だけだった。
憎しみが心臓を貫いた。
私は我を失って麗子に飛びかかり、その髪を掴んで床に叩きつけた。
彼女の悲鳴を聞きながら、歪んだ快感が胸に湧き上がった。
両親と直哉がすぐに駆け寄って私を引き離そうとした。
だが私は指で彼女の顔を強く掴み、決して離さなかった。
直哉の目が、すっと冷え切った。
彼は私の手を掴み、一本一本指をこじ開けた。
関節が恐ろしい音を立てて歪んだ。
私の悲鳴の中で、彼は私を突き放し、泣き崩れる麗子を抱きしめて優しく慰めた。
父は私を蹴り飛ばした。
母は泣き叫んだ。
「お姉ちゃんは妊娠してるのよ!どうしてそんなにひどいことをするの!」
口元から血が流れ、腹部は痺れるように痛んだ。
意識が遠のく中、私は幼い頃に戻った気がした。
あのとき、家族三人で旅行に出かけ、私だけ家に置き去りにされ、飢え死にしかけた。
結局、何一つ変わっていなかったのだ。
私の持っているものは、すべて麗子に奪われる。
騒ぎを聞きつけて看護師が駆けつけてきた。
直哉は麗子を抱き上げ、冷たく言い放った。
「こいつ、錯乱してる。まともじゃない。どこかに隔離してくれ」
私は精神的に不安定だという理由で、精神科病院に入れられた。
強制的な電気治療、投薬、注射。
心は日に日に壊れていき、何も考えられないまま、ただ日々だけが過ぎていった。
一か月後、ようやく解放された。迎えに来たのは直哉の秘書だった。
彼は同情のこもった目で私を見ていた。
ドアを開けた瞬間、その意味が分かった。
主寝室には服が乱雑に散らばり、ゴミ箱には汚れたティッシュが山のように積まれていた。
気配に気づくと、麗子は頬を赤らめて直哉の上からさっと離れ、私が気に入っていたシルクのナイトウェアをさっと羽織った。
甘えた声で直哉を軽く押した。
「直哉、もうやめて。早く起きてよ、沙耶に笑われちゃう」
私は拳を強く握りしめ、爪が掌に食い込むのも構わず、嘲るように言った。
「麗子、どこまで堕ちれば気が済むの?妊娠中なのにまだヤるわけ?お腹の子がどうなってもいいの?
直哉も直哉よ。そんなに我慢できないの?麗子がどれだけ男をとっかえひっかえしてきたか知らないの?よく平気で抱けるね」
直哉は眉をひそめ、厳しく叱りつけた。
「沙耶、汚い言い方をするな!」
押し殺していた感情が、また一気に噴き出した。
私は笑い出した。涙が止まらないほどに。
「汚い?私の言い方のどこが汚いの?麗子がどれだけの男と寝てきたか――」
「沙耶!」
直哉が怒鳴った。
真っ赤に染まった私の目を見て、彼はため息をつき、声を少し和らげた。
「沙耶、受け入れられないのは分かってる。でも俺には、君に対する責任がある。だから、俺から離婚したいなんて言うつもりはない。
でも麗子だって、俺の子を妊娠してるんだ。何の立場もないままここにいて、つらい思いをしてる。だから、彼女だけを責めるのはやめてくれ」
少し言葉を切り、苦しげに続けた。
「それでも離婚したいって言うなら、受け入れる。その代わり、金はちゃんと渡す」
麗子の目が輝き、期待に満ちた表情で私を見た。
私は腫れた目をして彼女を睨みつけ、冷笑した。
「ふざけないで。離婚なんてしてあげない。あんたは一生、表に出られない愛人のまま。その子も私生児として生きればいい。二人そろって、一生人に後ろ指さされて生きていきなさい」
そう言い終えると、また衝動的に物を掴んで二人に投げつけた。
やがて、赤ん坊の泣き声が響いた瞬間、はっと我に返った。
二人はすでにいなかった。
物が散乱した部屋の真ん中で、私は一人、泣きながら笑っていた。
ベビーシッターが娘を抱いて、怯えた様子でドアのところに立っていた。
私は手についた血を拭い、そっと娘を抱き取った。
不思議なことに、さっきまで激しく泣いていた娘は、私の腕に入った途端、静かになった。
小さな拳を口に含みながら、くすくすと笑った。
私は顔を伏せ、熱い涙を彼女の頬に落としながら、呟いた。
「ねえ、ママにはもうあなたしかいないの」
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