捧げた愛は、灰となって消えた第1話
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私、真鍋沙耶(まなべ さや)が難産になったとき、看護師は夫の桐生直哉(きりゅう なおや)を分娩室に呼び入れた。
彼は私の手を握り、何の前触れもなく耳元でこう言った。
「君のお姉さん、さっき妊娠が分かったんだ。子どもは俺のだ」
顔が真っ青になり、信じられないという目で彼を見つめる私を前にしても、彼は平然とした表情で、落ち着いた手つきで私の額の汗を拭った。
「実は昨夜、君が破水したとき、俺たちは隣のゲストルームにいたんだ。君の悲鳴は聞こえてた。でも彼女が俺にしがみついて離れなくてさ、抜け出せなかった。
そのあと彼女が病院に来ただろ。顔が真っ赤だったから、体調が悪いのかと思って早く帰って休めって言ったけど、あれはただ興奮してただけだよ」
そう言って、彼は意味ありげに笑った。まるで余韻に浸っているかのように。
「それに、君の両親も俺たちのことは知ってる。ずっと隠すのに協力してくれてた」
全身が凍りついた。
分娩室に入る前、あんなに心配そうに扉の前で私の汗を拭き、泣きながら無事を祈ってくれていたのに。
激痛が全身を襲い、私は残った力を振り絞って彼の手を掴み、問い詰めた。
「どうして?」
彼は気のない様子で口を開いた。
「妊娠してから触らせてくれなかっただろ。俺にも欲求はある。でも子どもができた以上、彼女には責任を取らないといけない」
* * *
私、真鍋沙耶(まなべ さや)が難産になったとき、看護師は夫の桐生直哉(きりゅう なおや)を分娩室に呼び入れた。
彼は私の手を握り、何の前触れもなく耳元でこう言った。
「君のお姉さん、さっき妊娠が分かったんだ。子どもは俺のだ」
顔が真っ青になり、信じられないという目で彼を見つめる私を前にしても、彼は平然とした表情で、落ち着いた手つきで私の額の汗を拭った。
「実は昨夜、君が破水したとき、俺たちは隣のゲストルームにいたんだ。君の悲鳴は聞こえてた。でも彼女が俺にしがみついて離れなくてさ、抜け出せなかった。
そのあと彼女が病院に来ただろ。顔が真っ赤だったから、体調が悪いのかと思って早く帰って休めって言ったけど、あれはただ興奮してただけだよ」
そう言って、彼は意味ありげに笑った。まるで余韻に浸っているかのように。
「それに、君の両親も俺たちのことは知ってる。ずっと隠すのに協力してくれてた」
全身が凍りついた。
分娩室に入る前、あんなに心配そうに扉の前で私の汗を拭き、泣きながら無事を祈ってくれていたのに。
激痛が全身を襲い、私は残った力を振り絞って彼の手を掴み、問い詰めた。
「どうして?」
彼は気のない様子で口を開いた。
「妊娠してから触らせてくれなかっただろ。俺にも欲求はある。でも子どもができた以上、彼女には責任を取らないといけない」
……
口を開いたのに、声が出なかった。
涙が抑えきれずに溢れ、汗と混ざって流れ落ちていく。
取り乱して惨めな姿の私を見ても、直哉の目は少しも揺れていなかった。
彼は冷静に私の涙を拭い取り、残酷に言い放った。
「麗子と最初に関係を持ったのは、君が妊娠二か月の頃だ。三回目に誘っても断られてさ、君の邪魔はしたくなかったから、ゲストルームのバスルームで一人で済ませようと思ってドアを開けたら、ソファにお姉さんがいた。君に買ったのに、一度も着てくれなかったあのセクシーな下着を身につけていてさ。
あの夜、彼女を君だと思って、そのままソファで寝た。君は眠りが浅いから、彼女は声を抑えていたけど、緊張して俺の首を引っかき傷だらけにしたんだ。会社の猫に引っかかれたって言ったら、君はあっさり信じたよね。沙耶、君って単純だよな」
直哉は愛おしそうに私の頭を撫でた。
けれど、もうそこに少しの温もりも感じられなかった。ただ骨の髄まで凍るような冷たさしかなかった。
呼吸することも、自分が出産していることも、すべて忘れていた。
ただ力の限り、彼を締めつけた。
直哉は痛みに低く呻いたが、手を振りほどくどころか、逆にそれを口元に持っていって軽くキスした。
「沙耶、本当は君が出産したら、麗子とはきっぱり終わらせるつもりだった。昨夜で最後にするはずだったんだ。でも今朝、彼女の妊娠が分かった。あの子は中絶する気はないし、もう君に隠し続けるのも嫌だって言ってる。
正直、自分でも麗子を愛してるなんて思ってなかった。でも、あんなふうに落ち込んでる顔を見たら、胸が締めつけられたんだ。沙耶、君はもうすぐ母親になるんだろ。優しい君なら、初めて母親になる麗子の気持ち、分かってやれるよな?」
隣では看護師が必死に「もっと力んで!」と叫んでいるのに、私の体は、すべての力を奪われたようだった。
どうして、今この瞬間にこんなことを言うのか、問いただしたかった。
昨日の朝までは、あんなに優しく妊娠線予防のオイルを塗ってくれて、細かいところまで気を配りながら入院バッグを準備してくれていたのに。
お腹に顔を寄せて、子どもに話しかけてさえいた。
「赤ちゃん、パパだよ。今夜には会えるな。もしママを苦しめたら、真っ先にお仕置きだからな」
それなのに、夜になって、私が泣きながら彼の名前を呼び、ぎこちない体で動き回り、床一面に羊水をこぼしたとき。
彼は隣の部屋で女と戯れ、私の助けを求める声を無視していた。
その後、救急車の中で医療スタッフが彼に電話をかけた。
彼は息を荒げながら、「会社で急用ができて、今向かっている」と言った。
私は馬鹿みたいに「焦らなくていいよ、こっちは大丈夫」と彼を安心させていた。
でも、あんなに時間を無駄にしなければ、今こんな難産にはなっていなかった。
そう思った瞬間、憎しみが胸に込み上げた。
私は手を振り上げ、思いきり彼の頬を叩いた。
次の瞬間、体の力が抜け、看護師が興奮した声で叫んだ。
「出ました!赤ちゃんが出ました!」
ほっと息をついたが、赤ん坊を見る暇もなく、引き裂かれるような激痛が下半身を襲った。
医師が慌てて叫ぶ。
「急いで!産婦さんが大量出血しています」
意識を失う直前、最後に見たのは、直哉が取り乱して周囲に怒鳴り散らす姿だった。
「俺の妻を助けてくれ!」
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