
振り返ることなく
| 言語 | 日本語 |
|---|---|
| 試し読み | 第1〜3話(当サイト) |
| 掲載日 | |
| 読み方 | 横書き・縦書きを切り替え可 |
『振り返ることなく』は日本語の小説です。当サイトで第1〜3話を試し読みできます。
冒頭試し読み第1話より・約570字
藤原和也と共に過ごした五年。
私は彼の信仰を尊重し、海外留学の機会を諦めた。
誰にも知られることのない白椿のように、ただ従順に彼の傍らに寄り添い続けた。
だが五年目、彼は別の女を愛した。
その女は太陽みたいに明るくて、まるで本物の白椿のようだったという。物分かりのいい女のふりをしている私とは、まるで違うと。
彼は彼女のために戒律を破って還俗し、仏堂を去った。
あまつさえ、女の妊娠が分かると、結婚まで約束した。
どうしようもない無念を胸に、私は噂の「白椿」を一目見に行った。
その夜、母の頭を銃弾が貫く写真が、私の元へ送りつけられた。
「これ以上恵の邪魔をするなら、次に写真に写るのはお前だ」
胃の腑がひっくり返るような衝撃に、私は気を失うまで吐き続けた。
次に目覚めた時、私は「恵」という存在を知った日に戻っていた。
すぐさま母を呼び戻し、海外のトップ校へ電話をかける。
「三日後、そちらへ向かいます」
「厳格な戒律を守り、生涯を仏に捧げると誓ったはずの孤高の僧侶が、愛のために還俗した……」そんなニュースの音声が、私の意識を叩き起こした。
まるで海の底から突き上げられた溺者のように、私は激しく息を吸い込んだ。
直後、腹部に猛烈な痛みが走る。
途切れ途切れの記憶が脳裏に流れ込んでくる中、私は病院の廊下に掲げられた日付に目をやった。
全身から、すっと血の気が引いていく。
※作品紹介ではなく、第1話の書き出しをそのまま掲載しています。第1話の続きを読む
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