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愛情値は満点でも、心はもう戻らない第2話

この話は約1925字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

玄関先でかすかな物音がして、英理は物思いから引き戻された。

片手に唯人を抱き、もう片方の手に紙袋を提げた京平が、郁子を後ろに連れて戻ってきたのだ。

唯人は英理の姿を見つけるなり、京平の腕から飛び降り、紙袋を受け取って、とことこと駆け寄ってきた。

「ママ、これ僕とパパと郁子ちゃんで用意した誕生日プレゼントだよ。今日は帰ってくるの遅くなっちゃったけど、怒らないでね」

京平は息子の頭を優しく撫でると、とろけるような甘い眼差しを英理へと向けた。

「悪い、E国の仕事でちょっとトラブルがあって遅れたんだ。飛行機を3回乗り継いで、やっと今日帰ってこられたよ」

英理は思わず視線を上げ、京平の首筋に、はっきりとしたキスマークを見つけてしまった。

まだ色も鮮やかで、ここ数時間のうちに付けられたものだとひと目でわかる。

きっと仕事のトラブルなんかじゃなくて、女のせいだ。

英理は静かに目を伏せ、何も答えずに、胸に走る刺すような痛みをやり過ごそうとした。

唯人は母親の不自然な沈黙に気づくこともなく、紙袋から箱を取り出して蓋を開けた。

中からは、大粒のアコヤ真珠を連ねたネックレスが現れる。

「英理、誕生日おめでとう」

傍らに立っていた郁子が、大げさな歓声を上げた。

「わあ、こんなに大きなアコヤ真珠のネックレス、見たことない!英理さん、京平さんって本当に優しいんですね」

郁子が裏で深い関係にあることをすでに知らなければ、英理は彼女の瞳の奥に潜む嫉妬の色に気づくこともなかっただろう。

京平が自分の会社を立ち上げてから、英理は会社名義でたびたび慈善活動を行っていた。

郁子はその活動を通じて、英理が支援していた大学生のひとりだった。

郁子が卒業を控えインターンシップ先を探していると知ると、英理は迷わず彼女を会社に呼び、京平のもとで働かせることにしたのだ。

学校と会社の距離が遠いことを気にかけ、自宅に住まわせてやりさえした。

まさかそれが、自ら災いの種を家に招き入れることになるとは思いもしなかった。

郁子が欲しかったのは英理の援助などではなく、北条夫人の座だったのだ。

あと15日で、その浅ましい野望は叶うことになる。

京平も唯人も、そっくりそのまま郁子に譲ってやるつもりだった。

唯人がろうそくに火を灯し、無邪気にはしゃいで手を叩いた。

「ママ、早くお願い事して!」

英理はそっと目を閉じ、心の中で静かに願った。

元の世界に戻って、自分だけの人生をやり直したい、と。

目を開けてろうそくを吹き消すと、京平が愛おしそうに英理を抱き寄せた。

「今年は何をお願いしたんだ?教えてくれたら、俺が叶えてやる」

唯人が横から興奮気味に口を挟んだ。

「僕知ってるよ!きっといつもみたいに、家族みんなで幸せにずっと一緒にいられますようにって、お願いしたんでしょ!」

英理は小さく笑みをこぼした。

違う。

もう、私の誕生日の願いに、あなたたちが関わることはない。

京平がイチゴが乗っている部分を切り分けて、英理に差し出した。

「ほら、お前の好きなイチゴだ」

それを見た唯人が、急いでフォークでイチゴを刺し、彼女の口元へ運んだ。

郁子がひどく羨ましそうに口を開いた。

「まあ英理さん、京平さんみたいな素敵な旦那さんがいて羨ましいです。唯人くんもこんなに優しいし」

英理の表情は、どこまでも凪いでいた。

「だったら、その素敵な旦那と息子、あなたに譲ってあげようか?」

郁子の瞳に一瞬だけ喜びの色がよぎったが、彼女が口を開く前に京平が遮った。

「おい、そんな冗談はよせ。仕事で郁子を近くに置いてるのは、お前が目をかけてる子だからってだけだ。俺と息子が一番愛してるのはお前だけだ。お前がいなきゃ困る」

京平の表情は真剣そのものだった。

唯人も慌てて、英理の腰に抱きついた。

「僕のママはひとりだけでいい。他の人はいらないよ!」

そう?

だったら、どうしてひとりは郁子の腰を抱いて甘い言葉を囁き、もうひとりは彼女の腕の中で「ママ」と甘えているの?

英理は胸の内にせり上がる重い感情を押し殺し、これ以上この白々しい父子と向き合いたくなくて、2階へ上がり休むことにした。

京平はすぐに温かいミルクを1杯持って、ベッドまで運んできた。

「これを飲んでから寝ろ。よく眠れるから。俺と唯人も後で上がってくるからな」

よほど心が疲れ切っていたのだろうか。ミルクを飲み干すと、英理はすぐに深い眠りに落ちた。

夜中になって、彼女はぼんやりと目を開けた。体中にまったく力が入らない。

隣にいるはずの誰かに水を頼もうとしたが、目に入ったのは熟睡している唯人の姿だけで、ベッドのもう片側はすでに冷え切っていた。

仕方なく英理はどうにか体を起こし、階段まで辿り着いたところで、目を疑うような光景を目にすることになった。

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