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愛したことがある第2話

この話は約2293字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

【騎士さま、食堂のランチがまずすぎるよ!明日は洋食が食べたいね。トマホークステーキに、かぼちゃスープ、シーザーサラダ】

【了解】

彼がわざわざ私に作ってほしいと言った料理は、最初から私たちの七周年のためじゃなかった。

すべて、別の女を喜ばせるためのものだった。

「プライバシーって言葉、知ってるか?」

背後から、浩行の怒気を含んだ声が聞こえた。

私は体を向け、声が震えながらも苦い感情がこみ上げてきた。「あなた、本当は今日が何の日かも忘れてるんでしょ?」

浩行は一瞬だけ目をそらし、すぐに平然と答えた。「もう長い夫婦なんだから、そんな形式にこだわる必要はないだろ」

その何でもないような表情を見た瞬間、私は思わず笑ってしまった。

当初、彼はどんな記念日も一緒に過ごすつもりだと言って、将来は私だけを愛すると誓った。

あの時、彼の瞳の中の愛は、本物だった。

だが今、この冷たさもまた、本物なのだ。

滑稽のことだ。彼の言う将来は、たった七年だった。

彼はこめかみを揉みながら言った。「彼女とは本当に何もないんだ。今日は疲れてる、もう騒ぐな」

昔なら、彼が疲れたと言えば、私はすぐに心配して、どんな悲しみも飲み込んで自分の中で処理してきた。

だが今、彼は他の女性とこんなに過度に親しくする関係になっておきながら、それを私が大げさに騒いでいるだけだと思っている。

涙で目が赤くなりながら、私は問い詰めた。

「あなたのパスワードは彼女の入社日、ピン留めしてるのも彼女、しかもお姫様なんて呼び方。

それで、何もないって?それで、私がわがままって言うの?」

息が詰まるような沈黙のあと、彼は堪えたように口を開いた。

「若い子のノリだよ。ふざけてつけただけ。お前が気にするなら、今すぐ変える」

彼はパスワードを変え、ピン留めも外し、彼女の名前も修正した。

「これで満足か?」

その瞬間、画面に遙香から新しいメッセージが届いた。

【騎士さま、今日はどうしてまだおやすみの歌を歌ってくれないの?】

私は無意識のままスクロールした。

そこには毎晩、彼が送っている長いボイスメッセージが並んでいた。

ふと、私は昔眠れなかった夜を思い出した。彼は私を抱きしめ、優しく背中をトントンと叩きながら、歌を歌って眠りに誘ってくれた。

あの時、私は顔を赤らめて小さな声で言った。「もう子供じゃないのに」

彼は笑って答えた。「いいんだよ。俺はお前を子どもみたいに甘やかしたいんだ。お前だけを」

しかし、いつからだろう。

私が眠れない夜、彼はただ冷たく言うようになった。「寝られない?昼間、暇すぎたんじゃないのか?」

そして、彼は背を向け、冷たく無関心な背中だけを私に見せた。

浩行は私の手からスマホを奪い返し、「ただの冗談だ」と弁解した。

だが指が触れ、再生ボタンが押されてしまう。

スピーカーから流れたのは、優しい歌声だ。

しかし、私のための歌ではなかった。

私は突然感情が崩れ、思い切って冷蔵庫の西洋料理を全部ゴミ箱に投げ込んだ。

「遊ぶのは勝手にして!でも私を巻き込まないで。

この料理、ゴミ箱に捨てたって、あなたたちにはやらないわ!」

彼は静かに私の失態を見ていた。その目には、かすかな嫌悪が滲んでいた。

「自分を鏡で見てみろよ。今のお前、もうババアそのものだぞ……いや、ヒステリック女にも見えるな。

もう信頼すらないなら、説明する意味もないな」

ドンという音とともに、彼はゲストルームに入り、ドアを力任せに閉めた。

冷戦だ。

それは彼がいつも選ぶ手段だ。

いつもなら、私が先に折れて謝ってきた。だが今回は、何もしなかった。

ただ、ゴミ箱の中のぐちゃぐちゃな料理を見つめながら、これまでのことを思い返していた。

私と浩行は幼なじみだ。

私の母と彼の父が駆け落ちした。そして、私の父と彼の母はそれぞれ新しい家庭を持った。

置き去りにされた二人の子どもは、互いに寄り添って生きるしかなかった。

二人で大学に合格した時、家に余裕がなく、学費を二人分払うことはできなかった。

彼が合格通知を破ろうとしたその手を、私は押さえた。

「あなたの方が点数高い。私が破るよ。私が働いて、あなたを養うから!」

学歴がない私は、肉体労働しかできなかった。

あの四年間は本当に苦しかった。

しかし、彼の目にあった愛と感謝を見て、全ての苦労が報われたと感じた。

実は彼が卒業したあと、私も勉強を再開して、彼のようにちゃんとした仕事に就こうと考えていた。

だが、彼は家とは、帰ればそこに明かりが灯り、温かいスープが待っている場所で、守らなければならない場所だと言った。

仕事で疲れて帰ってくる彼を見て、私は頷いた。

私は彼のために、あの灯りを守り続け、スープを作り続けた。

しかし、彼の目の中の愛はいつの間にか薄れていき、感謝や罪悪感になった。そして、今では倦怠に変わっていた。

私はぼんやりとベッドに横になり、たくさんの夢を見た。

彼は私のために街を駆け回り、あずきケーキを買ってきてくれた。

ボーナスをもらった日に、私が何度も見ていたワンピースを買ってきてくれた。

二人で山頂に登り、指を絡めながら、愛の南京錠をかけた……

それは全部、かつて本当に愛し合っていた頃の記憶だ。

子どもの頃から、私は他人を羨んだことがあまりなかった。

他の人には家族がいて、お金の心配もなく、安心して勉強ができた……みんなが持っているものを、私は持っていなかった。

だが、私には浩行がいた。それで十分だと思っていた。

なのに今、私は昔の自分を羨んでいる。

あの頃、心から愛されていた橋本美奈を羨んでいる。

しかし、あの美しい時間はもう二度と戻らない。

そろそろ、これからの道を考えなければいけないのだろう。

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