愛したことがある第1話
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七周年の日、樋口浩行(ひぐち ひろゆき)は急に接待が入ったから帰れないと言った。
私はぼんやりと食卓いっぱいの料理を見つめながら、何気なく彼の女性部下のインスタを見てしまった。
【うちの騎士さまに感謝。毎回の接待で私の代わりにお酒を飲んでくれて、まるでお姫様みたいに大事にしてくれるの。
自分が寒くて仕方ないのに、無理してコートを私に着せてくれるなんて、なんて紳士なの。ご褒美に愛のキャンディを一本!】
添えられた写真には、若い女性がキャンディを渡すときに二人の手が触れ合っている瞬間が写っている。
私はその骨ばった手を呆然と見つめた。親指と人差し指の間のほくろが、浩行のものによく似ている。
彼女が言う騎士さまは、まさか彼のことなの?
* * *
七周年の日、樋口浩行(ひぐち ひろゆき)は急に接待が入ったから帰れないと言った。
私はぼんやりと食卓いっぱいの料理を見つめながら、何気なく彼の女性部下のインスタを見てしまった。
【うちの騎士さまに感謝。毎回の接待で私の代わりにお酒を飲んでくれて、まるでお姫様みたいに大事にしてくれるの。
自分が寒くて仕方ないのに、無理してコートを私に着せてくれるなんて、なんて紳士なの。ご褒美に愛のキャンディを一本!】
添えられた写真には、若い女性がキャンディを渡すときに二人の手が触れ合っている瞬間が写っている。
私はその骨ばった手を呆然と見つめた。親指と人差し指の間のほくろが、浩行のものによく似ている。
彼女が言う騎士さまは、まさか彼のことなの?
しかし、私はすぐに、その馬鹿げた考えを否定した。
十八歳のとき、私は大学の合格通知書を破り、浩行を大学に通わせるため、一日三つの仕事を掛け持ちしていた。
二十二歳で彼が卒業すると、ひと月分の給料を全部使ってダイヤの指輪を買い、私にプロポーズしてくれた。
彼は言った。「美奈、四年間お前が俺を養ってくれた。これからは一生、俺がお前を養う。これからは、お前だけを愛する」
この何年もの間、彼は出世しても、自分を律してきた。秘書を雇うときも、必ず男性を指名していた。
私は彼が女性部下と曖昧な関係になるはずがないと信じていた。
だがその夜、浩行が帰ってきたとき、彼のコートからは知らない香水の匂いがした。
彼の手の中には、写真と同じキャンディが握られている。
……
私は呆然と浩行を見つめた。
彼はネクタイを緩め、ほんのり酔った様子で、魅力的な顔立ちが一層引き立っている。
私が知っている姿なのに、突然、それがどこか見知らぬもののように感じられた。
「何ぼーっとしてる?」浩行は無関心そうに私をちらりと見た。「酔い覚ましのスープは?」
「……忘れた」
これまで私は彼の世話を完璧にこなしてきた。接待がある日はいつも、特製の酔い覚ましスープを用意していた。
しかし、唐沢遙香(からざわ はるか)のインスタを見て心が乱れ、準備を忘れていたのだ。
「それを忘れるって?」浩行は眉をひそめた。「毎日家にいるのに、何してるんだ?」
私は少しの間黙り、遙香のインスタを見せた。
「忙しかったのよ。私の夫が、誰かの騎士さまになっていないか確認するのにね」
浩行の目に一瞬驚きが走ったが、すぐに平静を取り戻した。
「新しく入った女性秘書だよ。冗談好きな子なんだ。俺たちはただの上司と部下、誤解しないでくれ」
彼の女性秘書なのだ。もう男性の秘書だけを雇うわけではないんだ。
彼はもっともらしいことを言ったが、その手にはずっとマンゴー味のキャンディが握られている。
だが、彼は甘い物が嫌いで、しかもマンゴーアレルギーだ。
その無言の特別扱いが、私の胸を刺した。私は衝動的にそのキャンディを奪い、ゴミ箱に放り投げた。
「関係ないなら、捨てればいいじゃない」
浩行の顔に浮かんでいた冷静さがとうとう崩れ去り、怒りがにじみ出た。
「ちょっとした気持ちだ。そこまでしなくてもいいだろう?お前、少し人を馬鹿にしてるんじゃないか?」
胸の中が苦く感じられた私は、手を伸ばして食卓を指差した。
「じゃあ、私の気持ちは?あなたが食べたいって言ったトマホークステーキに、かぼちゃスープ、シーザーサラダ。
七周年のお祝いに、私は午後ずっと準備してたのに。あなたは接待の一言で帰らない。
そんな宴会、日程が前もって決まってるでしょう?それを当日になって言うなんて、一体誰が人を馬鹿にしてるの?」
浩行の目に、一瞬だけ動揺の色が浮かんだ。
彼は黙って袖をまくり、料理をひとつひとつ冷蔵庫に詰め始めた。
「悪かった。明日、会社に持っていって昼食にするよ」
そして私を抱きしめ、「美奈、七周年おめでとう」と言った。
そうしてすべてを片づけると、浴室へ向かった。
私はただ、彼がテーブルに置いたスマホを見つめている。
長年の愛情と、彼のさっきの好意が、私に彼を信じたいと思わせた。
しかし、それ以上に、私は真実を知りたかった。
迷いながらも、指先が動いて、六桁のパスワードを入力する。
今まで一度も彼のスマホを覗いたことはない。だが、彼のパスワードはずっと結婚記念日だった。
【パスワードが違います】
冷たい文字が画面に浮かんだ。私は諦めずに、何度も試した。
それでも、全部違った。
そして私は、遙香のインスタから彼女の入社日を見つけた。
入力してみたら、ロックが解除された。
苦い感情が胸の中に広がっていった。
かつて浩行のすべてのパスワードは、私たちの結婚記念日だった。
彼は、その日が幸せの始まりだからこそ、忘れられないと言っていた。
しかし今、彼は新しい幸せができたらしい。
チャットアプリの中で、私はすぐに自分を見つけた。「橋本美奈(はしもと みな)」とフルネームで登録され、通知オフのマークがついている。
一方、遙香は「お姫様」として名前が登録されている。
唯一のピン留めだ。
私は震える手で彼らのチャットを開いた。
予感はあったものの、昼間の彼らの会話を目にした瞬間、私は全身が凍りついた。
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