和紙文愛したことがある · 第3話設定≡

愛したことがある第3話

この話は約1734字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

いろいろ考えた末、私はまず遙香に会うことにした。

浩行と一緒に会社の忘年会に何度か出席したことがあるので、受付の子はすぐに私を認識した。

「奥さま、樋口部長は今いらっしゃいません。秘書の方を連れて客先へ行かれました」

私はうなずいて、そのまま出た。

ビルの下にあるエステサロンの前を通りかかったとき、足が自然と止まった。

浩行が私のことをババアと言ったとき、あの目に浮かんだ嫌悪の色を思い出した。

思えば可笑しいことだ。

この何年も、私たちはもう少し広い家に引っ越したら子どもを作ろうと話していた。

だが、家の値段があまりに高い。そのため、彼の収入が良くて、私名義のカードを持たされていても、私はいつも節約してきた。

彼の衣食住のことだけは、惜しまずにお金を使ってきた。

今になって思えば、そんな必要などどこにもなかった。

高額な料金表を見つめながら、私はおすすめと書かれたフェイシャルスパのコースを指さした。それは四十万円もする。

「これでお願いします」

ところがカードを通した瞬間、スタッフの笑顔が固まった。

「お客様、ほかのカードをお持ちですか?このカード、残高は二万円しかありません」

それを聞いた瞬間、私は呆然と立ち尽くした。

そのとたん、彼女は私を気にも留めず、明るい笑顔を取り戻して、入口へ駆け寄っていった。

「唐沢さん、今日はまたフェイシャルと全身コースですか?あんな素敵な旦那さまがいらして、本当に羨ましいです。いつも気前よくお支払いしてくれて、ご一緒に来てくださるなんて、本当に仲がいいですよね」

スタッフはそう言いながら、ちらりと私を見た。

その目には、人と人との間にある埋めようのない差を嘆くような色が浮かんでいた。

顔を上げた瞬間、遙香が浩行の腕に手を絡ませて入ってくるのが目に入り、私は全身が一瞬で凍りついた。

フェイシャルと全身コースは合計百万円がする。

彼は迷わず、それを彼女に買い与えた。

一方で、私に渡されたカードの上限は二万円しかなかった。

「これが、顧客に会うっていうこと?」

二人の口元にあった笑みが、私の怒りを見た瞬間に消えた。

浩行の顔が険しくなった。「今度は尾行まで覚えたのか?そんな真似、みっともないと思わないのか?」

「美奈さんですよね?」

遙香が無邪気な笑顔を浮かべた。

「樋口部長から聞きました。美奈さん、しばらくお仕事をされていないとか、社会との接点があまりないそうですね。だから、職場のことはあまり分からないかもしれません。

でも誤解しないでくださいね。本当にこのあとお客様に会う予定なんです。樋口部長が見た目の印象が大事っておっしゃって。お仕事のためなんですよ」

彼女は私を上から下まで見て、わざとらしく感心したように言った。

「なるほど、樋口部長が私にちゃんとお手入れしろって言うの、分かる気がします。美奈さんみたいにならないようにってことですよね?」

言い終えると、ハッとしたように口を押さえた。

「すみません、つい正直すぎました。悪気はないんです。樋口部長、奥さまにも同じコース買ってあげたらどうですか?」

浩行は冷たく答えた。「彼女はただの専業主婦だ。必要ない」

遙香は肩をすくめた。「樋口部長が嫌なら、仕方ないですね。やっぱり財布を握ってる人が一番強いですもんね。そうでしょ、美奈さん?」

私は怒りのあまり笑い声を上げた。「唐沢さん、彼は私の夫よ。彼があなたに使ったお金は、私が望めば全部、法的に取り戻せるの」

その瞬間、探るような、そして軽蔑を帯びた数々の視線が、彼女の上に一斉に注がれた。

遙香は気まずそうに、目に涙をにじませた。

その時、浩行の目には、すぐに彼女を思う痛みが溢れ、彼女をかばいながら、我慢の限界で私を叱りつけた。

「お前にそんな資格があるのか?この家で稼いでるのは俺だけだ。

お前は何か価値を生み出したか?確かに養うとは言った。だが、これ以上くだらないことを言うなら、その約束を取り消すぞ」

彼の目は、まるで汚れた雑巾を見るようだ。

かつてどれほど彼のために埃を払ってきたとしても、結局もう何の意味もなく、残ったのはただの嫌悪だけだった。

胸の奥が鋭く刺し貫かれるように痛み、そして私はついに決心を固めた。

「もう、あなたに養ってもらう必要はないわ。離婚しましょう」

縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)

第4話は公式アプリで

当サイトでの試し読みはここまでです。アプリをインストールし、下のアプリ用コードを入力すると、この作品の第4話からそのまま読み進められます。

R27307
  1. 下のボタンから公式アプリをインストールします(無料)。
  2. アプリを開き、「コードを入力」にこのコードを入れると、この作品が本棚に入ります。
iPhone・iPad
で入手
Android
で入手

アプリで第4話を読む

作品ページへ戻る 当サイトに掲載しているのは試し読みの章だけです。