悦びは、旧い恋のためにあらず第2話
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私は呆然とし、我に返った時には涙がこぼれそうになった。
二ヶ月前、私が何気なく「コンサートに行きたい」と言ったことを、和光はこれほど長く覚えていてくれたのだ。
先の彼の上の空も、今日は特別に許してあげようと思った。
私はコンサートのために、たくさんの準備をした。
和光にサプライズをしようと、彼の好きな展示会の予約もこっそり済ませておいた。
しかし、コンサート当日、和光のもとに緊急の案件が舞い込んだ。
弁護士として、彼はすぐに現場へ向かわなければならない。
申し訳なさそうに、和光が言った。
「ごめん、悦子。家で少し待っててくれないか?片付いたらすぐ戻るから!」
そうして私は家で待ち続けた。予約していた新幹線の時間は過ぎ、コンサートも始まってしまった。
それでも、彼は帰ってこない。
電話をかけても、ずっと出てもらえない。
ついに待ちきれなくなった私は、タクシーで和光の事務所へ向かった。
彼のオフィスのドアを開けて真っ先に目に飛び込んできたのは、ソファに座っている一人の女の子だ。
その顔は、私は嫌というほど知っている。
葵だ。
数日前に同級生から和光の近況を聞き出し、ラインで友だち追加した、あの葵だ。
私に気づくと、彼女の顔に驚きの色が浮かんだ。
その後、礼儀正しく挨拶をした。
「あなたが夕部さんね?和光から話は聞いてるわ」
葵の顔に、あちこちに傷跡があることに気づいた。
私の視線に気づくと、彼女はきまり悪そうに一歩下がり、不安げに耳元の髪をいじった。
「私……離婚するつもりなの」
そう言い終えた後、何かを察したように付け加えた。
「誤解しないで。夫のDVに耐えられなくなって……和光に連絡したのは、訴訟の弁護をお願いしたかっただけなの。あなたに迷惑をかけてしまって、本当にごめんなさい……」
そこへ和光が入ってきた。
私を見て、彼ははっとした。
「悦子、どうしてここに?」
彼の手には、温められたミルクが入ったコップがあった。
和光は乳糖不耐症だ。
だから、そのミルクは間違いなく葵のために用意されたものだ。
五年前、和光が葵にアプローチしていたことは、全校生徒の誰もが知っていた。
彼がいつも言っていたせいで、葵がホットミルクしか飲まないという些細な好みさえ、部外者の私でも知っていたほどだった。
何年も経った今でも、彼は葵のそんな些細な好みを覚えている。
スマホに届いたコンサート開演の通知と、和光の手の中で湯気の立つミルク。
それらを見た私の胸に、突然やりきれない思いが込み上げてきた。
唇を噛みしめ、尋ねた。
「今日の予定、覚えてる?」
和光はミルクを置き、申し訳なさそうに私の髪を撫でた。
「すまない、悦子。どうしても手が離せなくてさ。
次からこういう時は、電話してくれれば……」
彼の言葉を遮って言った。
「電話、したよ。繋がらなかったけど」
和光が眉をひそめると、傍らの葵が弁明するように口を挟んだ。
「ごめんなさい、私が資料を調べるために和光のスマホを借りてて……うっかりバッテリーが切れてしまったの」
和光を見つめ、次に葵を見た。私はもう、何も言わなくなった。
やがて和光はため息をつき、私の手を引いた。
「もう……行こう、帰ろう」
帰り道、どうしても抑えきれず、隣に座る和光に問いかけた。
「この案件、どうしてもあなたじゃなきゃダメなの?
他の人に代わってもらうことはできないの?」
ハンドルを握る和光は、努めて冷静に、言い聞かせるように答えた。
「悦子、あの時は緊急事態だったんだ。葵が俺の連絡先しか知らなかったから、急いで駆けつけたんだ」
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