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悦びは、旧い恋のためにあらず第2話

この話は約1438字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

私は呆然とし、我に返った時には涙がこぼれそうになった。

二ヶ月前、私が何気なく「コンサートに行きたい」と言ったことを、和光はこれほど長く覚えていてくれたのだ。

先の彼の上の空も、今日は特別に許してあげようと思った。

私はコンサートのために、たくさんの準備をした。

和光にサプライズをしようと、彼の好きな展示会の予約もこっそり済ませておいた。

しかし、コンサート当日、和光のもとに緊急の案件が舞い込んだ。

弁護士として、彼はすぐに現場へ向かわなければならない。

申し訳なさそうに、和光が言った。

「ごめん、悦子。家で少し待っててくれないか?片付いたらすぐ戻るから!」

そうして私は家で待ち続けた。予約していた新幹線の時間は過ぎ、コンサートも始まってしまった。

それでも、彼は帰ってこない。

電話をかけても、ずっと出てもらえない。

ついに待ちきれなくなった私は、タクシーで和光の事務所へ向かった。

彼のオフィスのドアを開けて真っ先に目に飛び込んできたのは、ソファに座っている一人の女の子だ。

その顔は、私は嫌というほど知っている。

葵だ。

数日前に同級生から和光の近況を聞き出し、ラインで友だち追加した、あの葵だ。

私に気づくと、彼女の顔に驚きの色が浮かんだ。

その後、礼儀正しく挨拶をした。

「あなたが夕部さんね?和光から話は聞いてるわ」

葵の顔に、あちこちに傷跡があることに気づいた。

私の視線に気づくと、彼女はきまり悪そうに一歩下がり、不安げに耳元の髪をいじった。

「私……離婚するつもりなの」

そう言い終えた後、何かを察したように付け加えた。

「誤解しないで。夫のDVに耐えられなくなって……和光に連絡したのは、訴訟の弁護をお願いしたかっただけなの。あなたに迷惑をかけてしまって、本当にごめんなさい……」

そこへ和光が入ってきた。

私を見て、彼ははっとした。

「悦子、どうしてここに?」

彼の手には、温められたミルクが入ったコップがあった。

和光は乳糖不耐症だ。

だから、そのミルクは間違いなく葵のために用意されたものだ。

五年前、和光が葵にアプローチしていたことは、全校生徒の誰もが知っていた。

彼がいつも言っていたせいで、葵がホットミルクしか飲まないという些細な好みさえ、部外者の私でも知っていたほどだった。

何年も経った今でも、彼は葵のそんな些細な好みを覚えている。

スマホに届いたコンサート開演の通知と、和光の手の中で湯気の立つミルク。

それらを見た私の胸に、突然やりきれない思いが込み上げてきた。

唇を噛みしめ、尋ねた。

「今日の予定、覚えてる?」

和光はミルクを置き、申し訳なさそうに私の髪を撫でた。

「すまない、悦子。どうしても手が離せなくてさ。

次からこういう時は、電話してくれれば……」

彼の言葉を遮って言った。

「電話、したよ。繋がらなかったけど」

和光が眉をひそめると、傍らの葵が弁明するように口を挟んだ。

「ごめんなさい、私が資料を調べるために和光のスマホを借りてて……うっかりバッテリーが切れてしまったの」

和光を見つめ、次に葵を見た。私はもう、何も言わなくなった。

やがて和光はため息をつき、私の手を引いた。

「もう……行こう、帰ろう」

帰り道、どうしても抑えきれず、隣に座る和光に問いかけた。

「この案件、どうしてもあなたじゃなきゃダメなの?

他の人に代わってもらうことはできないの?」

ハンドルを握る和光は、努めて冷静に、言い聞かせるように答えた。

「悦子、あの時は緊急事態だったんだ。葵が俺の連絡先しか知らなかったから、急いで駆けつけたんだ」

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