悦びは、旧い恋のためにあらず第1話
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二木和光(ふたき かずみつ)とおせち料理の食材を買いにスーパーへ向かう途中、久しぶりに同じ大学出身の竿代敦(さおしろ あつし)と出会った。
和光を見るなり、敦が口にした最初の言葉はこうだ。
「知ってる?小賀坂葵(おがさか あおい)が帰国したんだって」
私は思わず和光の顔を見た。すると、彼も微笑みながら私を見つめている。
「悦子、また変な想像してるか?葵とはもう、とっくの昔に終わったことだ」
彼は顔を上げ、改めて敦に私を紹介した。
「紹介しよう。俺の彼女、夕部悦子(ゆうべ えつこ)だ。彼女も俺たちと同じ大学の出身だけど、学部は別だ」
正直に言うと、私は変な想像はしていなかった。
というのも、和光と葵の別れ方はお世辞にも綺麗とは言えず、さらに葵は皆の目の前で和光をブロックし、縁を切ったのだ。
その後、長い間葵の話題が出るたびに、和光は苦々しい表情を浮かべていた。
二人が昔話に花を咲かせている間、私は隣の棚へ食材を選びに行った。
戻ってくると、ちょうど敦のこんな言葉が耳に入った。
「実はさ、昨日、小賀坂から君の連絡先を教えてほしいって頼まれ……」
* * *
二木和光(ふたき かずみつ)とおせち料理の食材を買いにスーパーへ向かう途中、久しぶりに同じ大学出身の竿代敦(さおしろ あつし)と出会った。
和光を見るなり、敦が口にした最初の言葉はこうだ。
「知ってる?小賀坂葵(おがさか あおい)が帰国したんだって」
私は思わず和光の顔を見た。すると、彼も微笑みながら私を見つめている。
「悦子、また変な想像してるか?葵とはもう、とっくの昔に終わったことだ」
彼は顔を上げ、改めて敦に私を紹介した。
「紹介しよう。俺の彼女、夕部悦子(ゆうべ えつこ)だ。彼女も俺たちと同じ大学の出身だけど、学部は別だ」
正直に言うと、私は変な想像はしていなかった。
というのも、和光と葵の別れ方はお世辞にも綺麗とは言えず、さらに葵は皆の目の前で和光をブロックし、縁を切ったのだ。
その後、長い間葵の話題が出るたびに、和光は苦々しい表情を浮かべていた。
二人が昔話に花を咲かせている間、私は隣の棚へ食材を選びに行った。
戻ってくると、ちょうど敦のこんな言葉が耳に入った。
「実はさ、昨日、小賀坂から君の連絡先を教えてほしいって頼まれて……」
帰り道、和光はスマホを握りしめたまま、ずっと心ここにあらずの様子だ。
三度続けて名前を呼んで、ようやく彼は我に返った。
スマホをしまい、優しく私の手を引いた。
「ごめん、悦子。今晩何を作ってあげようか考えてたら、ついぼーっとしちゃった」
私は答えず、身をかわして彼の手に触れられるのを避けた。そして、彼のスマホを指差した。
「小賀坂さんに友だち追加されたの、見えちゃった」
和光は一瞬たじろいだが、すぐに私の目の前で彼女をブロックした。
道すがら、彼はしつこく説明と謝罪を繰り返したが、私は一切取り合わなかった。
角を曲がった途端、耳元で続いていた喋り声がふっと消えた。
振り返ると、いつの間にか和光の姿が見えなくなっている。
込み上げてくる惨めさに、五年前に私が和光を好きになった時、周囲から言われた忠告が頭をよぎった。
「諦めて。二木が一生愛するのは、小賀坂ただ一人よ」
「あの二人は正真正銘の幼馴染なんだ。後から現れたあなたが、どうして取って代われるなんて思うわけ?」
「はっきり言うけど、たとえいつか二人が本当に別れたとしても、二木が小賀坂を忘れることはないよ」
考えれば考えるほど、悲しくなっていった。
今にも泣き出しそうになった時、近くのキッチンカーの店員に呼び止められた。
「今日は彼氏さんと一緒ではないのですか?」
見覚えのない店員に、私は戸惑いながら尋ねた。
「私のことをご存知ですか?」
店員は笑いながら言った。
「彼氏さんが写真を見せてくれたことがあります。
大学時代の彼は、毎日ここにコーヒーを買いに来ていました。彼女の大好物だと言っていました。冬の寒い日には、自分が火傷するのも構わず、ホットコーヒーを抱えて温めながら持ち帰っていたことを覚えています。
あんなに女の子に一途な男の子は、なかなかいないと思います」
私は立ち尽くし、どう返すべきか分からなくなった。
次の瞬間、嗅ぎ慣れた香りと共に上着が私を包み込んだ。
息を切らした和光の声が響いた。
「横断歩道で君を見失って……死ぬほど怖かった!」
顔を上げると、不安に満ちた彼の瞳と視線がぶつかった。
彼は私を家まで連れて帰り、お風呂を沸かしてくれた。
それから、私の好物であるさばの味噌煮を作ってくれた。
食事中、和光はやはり俯いてスマホを気にしていた。
口にするさばの味は砂を噛むようで、彼が葵に友だち追加されたことが頭の中でずっと離れない。
しかし次の瞬間、和光は興奮した様子でスマホを私の前に差し出した。
その瞳はキラキラと輝いている。
「悦子!君が見たいコンサートのチケットが当たった!先行抽選のためにシングルを何十枚も買った甲斐があった!
これで君が大好きなアイドルを間近で見られるんだ!」
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