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思い入れはすべて水の泡第2話

この話は約1994字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

それを聞いて、私は皮肉な笑みを浮かべた。

一方、朔は私の話を最後まで聞く気もないようで、そのまま職場へと飛び出していった。

しかも、途中でスマホを取り出して、急いで真奈美に電話をかけていた。

あの満面の笑みを見て、私はどこかで見覚えがあるような気がした。

確かかつてはるばる遠くから、私に会いに来てくれたとき。

そして、プロポーズしてくれた時も、私の妊娠がわかった時も、彼はそんな笑顔を見せていた。

そう思いながら、私は偽造された精神疾患の診断書を、燃やしてやった。

そして、もう一度申請書を書き直して、職場に提出した。

今度こそ、誰にも私の邪魔はさせない。

……

翌日、職場に着くと、私の荷物が段ボール箱に詰め込まれていた。

朔のオフィスから、狭い共同デスクの片隅に放り出されるように置いてあった。

そして彼のオフィスには、真奈美が引っ越してきていた。

そこで、真奈美は朔のジャケットを肩に羽織って、彼が手作りした朝食を食べていた。

まるですべてが、自分のものだというかのように。

これが、昨日彼の言った、「しっかりお前のことを守ってやる」ということなのか?そう思うと私はますます皮肉に感じた。

そして、それを見た同僚の久保拓海(くぼ たくみ)が黙っていられず、朔に文句を言いに行こうとした。

「勝手にパートナーを変えただけでもひどいのに、今度はオフィスまで追い出すなんて!一体なんなんだよ!」

だけど、私は拓海を引き止めて、淡々と笑って言った。

「いいの、行かなくて。パートナーの解消は、私から言い出したことだから。

あのオフィスはもう、私のいる場所じゃないの」

そしてオフィスの中にいる、あの人も含めてもう私のものではないのだ。

その日の午後は、搭乗訓練だった。

私は高度訓練チームから、真奈美がいた基礎訓練チームに異動させられていた。

誰がやったかなんて、考えるまでもない。

そこで、私はまっすぐ朔のチームがいる場所へ向かった。

ちょうど真奈美が訓練を終えたところだったけど、もう体力が限界みたいで、

朔にシミュレーターから抱きあげられて出てきた。

そして彼はそんな真奈美を心配してやまない様子で彼女の背中をさすって、ペットボトルのキャップを開けて、水を飲ませてあげているのだった。

「ごめん、俺が悪かった。いきなりこんなに難しい訓練に挑戦させたからだ」

一方、真奈美は朔の額の汗を拭いてあげながら、優しく微笑んだ。

「ううん、大丈夫。あなたと一緒に宇宙に行けるなら、どんなことだって乗り越えられるわ」

こうして二人はしばらく慰め合ったあと、朔がやっと私の存在に気が付いてくれた。

すると彼は真奈美の腰に添えていた手をさっと引っ込めて、慌てて言い訳をしてきた。

「梨花、違うんだ。真奈美さんの体調が悪そうだったから、チームリーダーとして心配で……

変に勘ぐらないでくれ」

勘ぐるもなにも、ないでしょ。

だって朔の手が離れた途端、真奈美は隠そうともせずに、嫉妬に満ちた目で私を睨んできた。

「ごめんね。朔さんはいつも優しくしてくれているだけなの。

だから、私のことで朔さんを怒らないであげて。彼だって大変なの」

真奈美は優しくそう言ったけど、その口調にはどこか棘があるようだった。

真奈美は、昔からいつもこう。

そして朔だけが、彼女の言葉の裏にある悪意に気づかないのだ。

そう思ったものの私は真奈美を無視して、朔にまっすぐ向き直った。

「どうして私を、別の訓練チームに異動させたの?

もうすぐ最終選考なのは知ってるでしょ。まさか、私を落とすつもり?」

そう聞かれて朔は、息をのんだ。

「誤解だよ。

お前は最近、ちょっと張りつめすぎてる。だから基礎訓練で少し肩の力を抜いたほうがいいと思っただけだ」

そして、それを聞いた真奈美も、話に割って入ってきた。

「そうよ。朔さんは、あなたのためを思って……

私が彼のチームに来たのは、あなたのポジションを奪うためじゃないの。朔さんが、私が前のチームでつらい思いをしてるのを見かねて、声をかけてくれただけ」

その言葉に私は、思わず笑ってしまった。

しかし、目に滲む涙はどうにも止まらなかった。

高度訓練チームに入るには、最低でも5年は基礎訓練を積まないといけない。

朔は、私より2年先輩だ。

私が周りから馬鹿にされて、教官に鼻先で怒鳴られているのだって、見てきたはずだ。

そんな時だって、彼はチームを変えてくれるなんてことはなかった。

ただ冷たく、正論を口にしただけ。

「本気で訓練してれば、誰も文句なんて言わないだろ?」

なのに、真奈美が教官に少し注意されただけで、朔はすぐに、彼女を自分のチームに引き入れた。

私が6年間、必死に積み重ねてきた努力を蔑ろにしてまで。

「じゃあ聞くけど、真奈美さんがこのチームにふさわしいって言うの?彼女の体力じゃ、ここの訓練には絶対についていけない。

朔!あなたが彼女をここに呼んだせいで、私の積み上げてきたものが全部奪われたのよ!」

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