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思い入れはすべて水の泡第1話

この話は約2690字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

宇宙船の打ち上げの前日、私は匿名の通報で精神的な病気を隠しているとされ、搭乗資格を失った。

精神病院に閉じ込められて3年。宇宙開発のエースになっていた夫の三浦朔(みうら さく)が、じきじきに私を迎えに来た。

「当初お前を入院させたのは、どうしようもなかったんだ。もう降格を願い出て、お前を連れ戻した。これからは、ふたりで穏やかに暮らそう」

そう言われ、「自分のせいで朔の出世の道が閉ざされた」と思いこんだ私は、それからの人生を彼のために、かいがいしく尽くしつづけた。

しかし死の直前になって、娘が私を密告した一通の手紙を見つけた。それは、なんと朔の直筆だったのだ。

そこには、彼が親友・佐藤勇太(さとう ゆうた)の妻・佐藤真奈美(さとう まなみ)と30年間も交わしつづけていた手紙もあった。

手紙には、未亡人の真奈美を守るため、私を精神病に仕立てあげたと書かれていた。嘘の診断書で私を病院送りにし、宇宙飛行士の席を真奈美にゆずった、と書かれていた。

それを見て手から滑り落ちたコップが、床で粉々に砕け散る。その破片に、私はまるで心を突き刺されたかのようだった。

本来、宇宙へ行くはずだったのは、私だったんだ。

それなのに朔は、他の女のために私の夢を奪ったんだ。

そう思いながら私は、絶望のなかで息を引き取った。

次に目を覚ましたとき、私は宇宙飛行士の選抜発表の日に戻っていた。

そして、朔が、「申請書類は俺が出しておくよ」と申し出てきた、その瞬間、私はその申し出をはっきりと断った。

* * *

宇宙船の打ち上げの前日、私は匿名の通報で精神的な病気を隠しているとされ、搭乗資格を失った。

精神病院に閉じ込められて3年。宇宙開発のエースになっていた夫の三浦朔(みうら さく)が、じきじきに私を迎えに来た。

「当初お前を入院させたのは、どうしようもなかったんだ。もう降格を願い出て、お前を連れ戻した。これからは、ふたりで穏やかに暮らそう」

そう言われ、「自分のせいで朔の出世の道が閉ざされた」と思いこんだ私は、それからの人生を彼のために、かいがいしく尽くしつづけた。

しかし死の直前になって、娘が私を密告した一通の手紙を見つけた。それは、なんと朔の直筆だったのだ。

そこには、彼が親友・佐藤勇太(さとう ゆうた)の妻・佐藤真奈美(さとう まなみ)と30年間も交わしつづけていた手紙もあった。

手紙には、未亡人の真奈美を守るため、私を精神病に仕立てあげたと書かれていた。嘘の診断書で私を病院送りにし、宇宙飛行士の席を真奈美にゆずった、と書かれていた。

それを見て手から滑り落ちたコップが、床で粉々に砕け散る。その破片に、私はまるで心を突き刺されたかのようだった。

本来、宇宙へ行くはずだったのは、私だったんだ。

それなのに朔は、他の女のために私の夢を奪ったんだ。

そう思いながら私は、絶望のなかで息を引き取った。

次に目を覚ましたとき、私は宇宙飛行士の選抜発表の日に戻っていた。

そして、朔が、「申請書類は俺が出しておくよ」と申し出てきた、その瞬間、私はその申し出をはっきりと断った。

すると、朔は一瞬固まり、書類を握る手にもっと力を込めた。

「梨花(りか)、さっき言っただろ。この数日はゆっくり休めって。

こういう雑用は、俺が代わりにやっておくよ」

それを聞いて、私は指先が白くなるほど拳を握ると、胸がぎゅっと苦しくなった。

私は、朔のことを心の底から信じていたのに。

前世では、その信頼を利用された。だからあの時、この申請書類に人生をめちゃくちゃにされる偽の証明書を入れられていたなんて、全く知らなかった。

その結果、私は精神病院に3年間も閉じ込められて、光のない日々を送ることになった。

こうして、人生を狂わされてしまったのだった。

もう二度と、あんな思いは繰り返したくない。

そう思って、必死で冷静を装ったけど、書類を奪おうとする私の手は、抑えきれずに震えていた。

「ごめん、まだ書き忘れてたところがあったの。書き終わったら自分で出しに行くから大丈夫だよ」

そう言って私が書類を奪うと、朔は少し慌てた表情になった。

「どこを書き忘れたんだ?俺が手伝うよ」

私は書類をキャビネットに突っ込んで鍵をかけると、無理やり笑顔を作った。

「大丈夫、自分でなんとかするから。

キッチンでコーヒー用のお湯を沸かしているんでしょ?ちょっと様子を見てきてくれない?」

そう言って私は不満げな朔を部屋からなんとか押し出した。

そして、すぐに申請書類をもう一度取り出すと、案の定、書類の間には、【精神疾患歴あり】と書かれた偽の診断書が挟まっていた。

それを見て、私は全身の血の気が引く思いだった。

まさか……全部、本当だったなんて。

そうこうしているうちに、コーヒーを持った朔が部屋に入って来たのだ。私は慌てて書類をキャビネットに戻したが、彼と顔を合わせたときには、目が赤くなっていた。

すると朔は慌ててカップを置くと、私をぎゅっと抱きしめた。

「どうして泣いてるんだ?」

私は涙をぐっとこらえ、大きく息を吸った。

「朔、前に言ってたよね。私とのパートナー関係を解消したいって。

いいよ。同意する」

そう言えば、前世で、朔はその話を何度も私に持ちかけてきた。

だけど10年もパートナーを組んできたんだから、私たちが一番お互いを理解しているものだとそう思っていた。

それに職場では、パートナーは男女で組むのが決まりだった。

あの時私は、あまりにも頑固だった。

自分の夫を、他の女と組ませるはずがなかった。

でも、今の私にははっきりとわかっている。もしここでパートナーの変更に同意しなかったら……

2週間後には、朔に精神病院へ送られてしまうだろう。

だから、今度こそ、私は自分で将来を選びたいと思った。

一方それを聞いて朔は一瞬固まったが、すぐに大きな喜びに顔を輝かせた。

「梨花、やっとわかってくれたんだな!

パートナーを解消するのも、全てはもっといい訓練のためだから」

そう言って、彼はとっくに申請書を準備していたみたいだった。

片や私は申請書を渡されたとき、朔の顔をじっと見つめた。

その顔に、ほんのわずかな名残惜しさや、申し訳なさそうな色がないかを探った。

だって私たちは、丸10年もパートナーだったのだから。

でも、そんなものはなかった。

彼の顔は、興奮でいっぱいだった。

ここまで来てはもう、何も期待することはないだろう。

サインを終えると、朔は埋め合わせをするみたいに、私の頬にキスをした。

「俺はなんて幸せ者なんだろう。こんなにいい妻をもらえて。

心配しなくても大丈夫。パートナーを解消しても、職場では俺がしっかりお前のことを守ってやるから!」

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