思い入れはすべて水の泡第3話
この話は約1776字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
そう言って私は掠れた声で叫んだ。
なんで私だけ、こんなひどい扱いをされなきゃいけないの?
すると、真奈美の目は、すぐに赤くなった。
「朔さん、やっぱり私を元のチームに戻して。
こんなふうに辱められてしまうなんて、嫌よ、そんなんだったらつらい思いをするほうがましよ!」
そう言って立ち上がって去ろうとする彼女を朔は追いかけ、そして腕の中に飛び込んでくるのをされるがままに受けとめると、
私を見るその目には、責めるような色が浮かんだ。
「梨花、そんな言い方はないだろう。
お前がチームに入れたのだって、俺が口添えしたからじゃないか」
そう言って彼は最後に、命令をするような口ぶりで私に言い放った。
「そんなふうに騒がれると、俺の判断が正しかったとしか思えないな。
お前は少し短気すぎる。基礎訓練チームで、頭を冷やしてくるといい」
……
それから私は家に帰って荷物をまとめ、寮に引っ越す準備をした。
朔は真奈美のために、私の訓練資格をもう取り上げてしまったのだ。
きっと、これだけでは終わらないはずだ。
そう思って離婚届を置いて、私はやっと立ち上がった。
そのとき、ドアが蹴破られて、兄が怒った顔で入ってきた。
「梨花、真奈美さんに謝ってこい」
「私が何をしたっていうの?」そう言う私の声は怒りと悔しさで震えた。
すると、兄は声を荒げた。
「大勢の前で彼女に恥をかかせたんだぞ。高度訓練チームにふさわしくないなんて言って、それでも自分が悪くないとでも言うのか?
陣内家が、お前みたいな恩知らずを育てた覚えはないぞ!
勇太さんは、俺と朔を助けるために死んだんだ!お前もその恩を返すのが当然だろう!」
そう。真奈美の夫の勇太は、兄と朔の親友だった。
そしてとある重大な任務の最中、二人をかばって命を落としたのだ。
だから兄と朔は、一生、真奈美に罪悪感を抱いて生きている。
でも、私は納得できなかった。
「あの人が助けたのは、あなたたちでしょ!なんで私の将来を犠牲にして、恩返ししなくちゃいけないの!」
それを聞いて兄は、ショックを受けたように私を見つめた。
その時朔も、ドアの外から入ってきた。私を見る視線は兄と同じように失望しきっていて、眉をきつくひそめているのだった。
「梨花、お前がそんな人でなしだとは思わなかった。
もし勇太さんが俺たちを助けてくれなかったら、まだ俺たちに甘やかされて暮らせるとでも思っていたのか?
お前が今手に入れているものは全部、真奈美さんの犠牲で成り立っているんだよ。彼女は俺たち家族のせいでつらい思いをしてるのに、お前は少しも申し訳ないと思わないのか!」
すると兄が、私の荷物を奪おうと前に出てきた。
「訓練資料を出せ。真奈美さんが使うから」
そんな中、私は荷物をぎゅっと抱きしめて、離そうとせずに叫んだ。
その声は怒っていたけれど、涙がどうしても止まらなかった。
「絶対に渡さない!これは私のものよ!」
それを見て朔も、私の荷物に掴みかかってきた。
彼は私の指を一本ずつ、無理やりこじ開けようと、指が折れてしまいそうなほどの力を込めた。
「お前は才能があるから、また宇宙へ行くチャンスはある。
真奈美さんはお前より年上だ。これが彼女にとって最後のチャンスなんだよ。
だから真奈美さんに譲ってくれ。俺が代わりに、一生かけてお前に償うから。それでどうだ?」
しかし私は、一歩も譲らずに言った。「絶対にいや!」
すると朔の力はどんどん強くなり、ついに荷物を奪い取ると、私を床に突き飛ばした。
その拍子に私の後頭部が、机の鋭い角にぶつかり、途端に血の匂いが広がった。
私が震える手で、そっと後ろに触れてみると、べっとりと血がついていた。
「宇宙飛行士の体に、傷跡が残っちゃいけないのに!
朔、お兄ちゃん!病院に連れてって!」
それを見て朔はひどく慌てて、急いで私を支えに来た。
「梨花……ごめん、俺が悪かった……
今すぐ病院に連れていくから!」
そのとき、ドアの外から真奈美の悲鳴が聞こえた。
「朔さん!うっかりガラスの破片を踏んじゃって、足を切ったみたい!」
それを聞いて朔は、私を掴んでいた手をすぐに離すと、まっすぐドアの外へ向かってしまった。
そして私の方に来ようとしていた兄も、くるりと向きを変えて行ってしまった。
こうして二人の足音が、だんだんと遠ざかっていく中、私は痛みをこらえ、なんとか自分の力で立ち上がると、病院に向かって歩きだした。
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)
第4話は公式アプリで
当サイトでの試し読みはここまでです。アプリをインストールし、下のアプリ用コードを入力すると、この作品の第4話からそのまま読み進められます。
R16771- 下のボタンから公式アプリをインストールします(無料)。
- アプリを開き、「コードを入力」にこのコードを入れると、この作品が本棚に入ります。
作品ページへ戻る 当サイトに掲載しているのは試し読みの章だけです。