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彼は想い人のために、死んだ私の心臓を奪う?第2話

この話は約2289字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

節子は呆れたように鼻で笑った。

「まだそんなこと言ってるのかい?美咲ちゃんが事故に遭った日ね、彼女の手には、あんたの写真が入ったキーホルダーをずっと大事そうに握っていた。

そんなこと、あんたは何ひとつ知らないんだろうね」

節子は悠真をまっすぐ見据えた。

「それに、お友達が遺品を整理してたとき、枕の下からあんた宛ての手紙が何通も出てきたんだ。どれも結局、出せないままだったけどね。あんた、一通でも読んだことあるのかい?」

悠真は拳を強く握り締めた。

「適当なこと言うな!」

「だったら、これは何だい?」

節子はくるりと背を向け、部屋の奥から色あせた紙箱を抱えて戻ってきた。

「これはね、美咲ちゃんのお友達に預かったものなんだ。『もしあの人が来たら渡してください』って頼まれてね」

詩音は目に涙を浮かべ、おずおずと口を開いた。

「違います……悠真は、美咲さんのことを本当に大切に思ってたんです……」

「大切に?」

節子は苦々しくつぶやくと、紙箱を床へ放り投げた。箱が開き、中に入っていた手紙が何通も床へ散らばった。

「本当にそうだったら、美咲ちゃんをこんなアパートでひとり暮らしなんかさせないわ。最後まで返事ひとつ寄こさないまま、放っておいたりもしない」

悠真の視線が、床に散らばった手紙へ吸い寄せられた。

見覚えのある、やわらかな文字。紛れもなく、私の字だった。

節子は静かに言葉を続けた。

「事故の前の日もね、美咲ちゃん、『もう一回だけ会いに行こうと思うんです』って言ってたんだよ。『ちゃんと気持ちを伝えたくて』って。

でも、結局会えなかった。あの子は、そのまま帰ってこなかった。

今さら後悔したような顔をしたって遅いんだよ。あの子は、もう戻ってこないわ」

悠真は唇を強く噛み締め、顔色が見る見るうちに悪くなった。

それでも彼は意地を張り、口先だけは決して折れようとしなかった。

「……信じるか!全部、あいつが仕組んだことだ!

3日待ってやる。それまでに出てこなければ、あいつの荷物は全部処分する!」

そう言い残すと、悠真は詩音の腕をつかみ、そのまま部屋をあとにした。

部屋を出る間際、詩音は床に散らばった手紙へ、そっと視線を落とした。そして誰にも気づかれないよう、数通の手紙を足でそっと机の下へ寄せた。

節子はその背中を見送り、小さく吐き捨てた。

「……本当に、どうしようもない人だね」

5年前のあの日――悠真は詩音をかばうため、私を突き飛ばし、暴走してきたトラックの前へ押し出した。

私の時間は、その瞬間に終わっていた。

だけど、不思議なことに私は消えなかった。

行き場を失った幽霊のまま、5年間ずっと悠真のそばを離れられずにいた。

悠真は詩音を助手席へ乗せ、震える彼女を支えながら、何度も優しく声をかけていた。

その眼差しは、どこまでも優しかった。

そんな表情を、私は一度も向けられたことがなかった。

5年前。あの日、私も同じ助手席に座っていた。

そして、悠真のために用意した誕生日ケーキを大事に抱えていた。

その日は、私の誕生日だった。

そして、私たちが付き合い始めて、3年目の記念日でもあった。

そのとき、不意に悠真のスマホが鳴った。

画面に映っていた名前は――詩音だった。

電話に出た悠真は小さく息をつくと、私を見ることもなく口を開いた。

「詩音の具合が悪いらしい。悪いけど、ここで降りてくれ」

私はそっと悠真の袖をつまんだ。

「悠真……今日は、私の誕生日なの。それに……付き合って3年の記念日でもあるんだよ」

悠真は私の手を払いのけると、うんざりしたように言った。

「少しは分かってくれ。詩音には俺しかいない」

そう言い残し、車は雨の中を走り去っていった。

取り残された私は、その場に立ち尽くした。

腕の中から滑り落ちたケーキは、地面へ落ちて箱ごと潰れた。雨に打たれたクリームも、ゆっくりと崩れていった。

私はただ、それを見つめていた。

あとになって知った。

あの日、詩音は体調が悪かったわけじゃない。ただ、買い物に付き合ってほしかっただけだった。

私は雨に打たれたせいで高熱を出し、3日間寝込んだ。

それでも、悠真から連絡が来ることは、一度もなかった。

あの頃の私は、悠真は、ただ少し不器用なだけなんだと思っていた。

だけど、そうじゃなかった。

私たち3人の前へ、制御を失ったトラックが突っ込んできたあのとき、悠真は、一瞬たりとも迷わなかった。詩音を守るために、私を突き飛ばした。

その瞬間、ようやく思い知った。

私は最初から、一度も愛されてなんていなかった。

私の身体は、トラックにはね飛ばされた。意識もゆっくり遠のいていった。

薄れゆく視界の中で、最後に映ったのは――詩音を強く抱き寄せ、必死にその名を呼び続ける悠真の姿だった。

そこに倒れていた私へ、悠真が視線を向けることは最後までなかった。

私は、最期の最期まで、彼の目に映ることすらなかった。

私を見つけ出せない悠真は、やり場のない怒りを私の遺品にぶつけるしかなかった。

私が暮らしていたアパートの荷物は、すべて悠真の家へ運び込まれた。

「あいつが姿を見せたら、その場で全部処分してやる」

ソファに座っていた詩音は、積み上げられた荷物へ目を向けた。

何度も洗われて色あせた服。読み古された本。どれも質素なものばかりだった。

詩音は一瞬だけ口元を緩めた。けれど、すぐに困ったような表情を浮かべた。

「悠真……そんなことまでしなくても……美咲さんが知ったら、きっと悲しむよ……」

悠真は隣へ腰を下ろすと、詩音の手を包み込んだ。

「あいつのことはもういい。詩音は何も心配するな。

君に適合するドナーは、必ず見つける。どんな手を使ってでも、俺が君を助ける」

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