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彼は想い人のために、死んだ私の心臓を奪う?第1話

この話は約2135字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

白石美咲(しらいし みさき)――それが、私の名前だった。

死んでから、5年。

そして今日、私がずっと想い続けた人、神崎悠真(かんざき ゆうま)が、ようやく私の眠る墓を訪れた。

理由は、ただ1つ。

彼の最愛の女性が、心臓移植を必要としていたからだった。

悠真は、私が生前に署名した臓器提供の同意書の写しを手に、風雨にさらされ、名前さえ読めなくなった私の墓石の前に立っていた。

霊園の管理人は、その様子を見かねて声をかけた。

「兄ちゃんよ、この子はもう5年前に亡くなったんだ。交通事故で、その場で即死だったんだ。遺体もひどい状態でな……いったい何の用なんだ?」

しかし、悠真には管理人の声など届いていなかった。

「……美咲はどこだ。今すぐ俺の前に連れてこい」

低く押し殺した声だった。

管理人は目を丸くし、困ったようにため息をついた。

「何を言ってるんだ。もう火葬も終わってる。ここにいるはずがないだろう。

葬式のときだって、ご両親は来なかった。この墓も、大学の友達が金を出し合って建ててくれたんだ」

その言葉を聞いた瞬間、悠真は勢いよく顔を上げた。

瞳には、凍てつくような怒りが宿っていた。

「……嘘だ。あいつが俺を置いて勝手に死ぬはずがない」

悠真は管理人を鋭く睨みつけた。

「あいつに伝えろ。3日以内に俺の前へ現れなければ、あいつのヤバい写真を全部ネットに晒す。後で泣いても知らないからな」

「……写真だって?」

管理人は困ったように眉をひそめた。

「あの子は、生きてる頃、新しい服1着買うのさえ我慢してた子なんだ。派手な遊びなんてするような子じゃなかった。

そんな子が、人に知られたくないような写真を撮るとは思えないな……」

* * *

「いつまで隠れてるつもりだ!」

そう吐き捨てると、悠真は私が暮らしていたアパートのドアを乱暴に蹴り開けた。

長い間、人の出入りがなかった部屋には、埃がうっすらと積もっていた。

ドアが開いた拍子に、それが陽の光の中へふわりと舞い上が上がった。

悠真は思わず眉をひそめた。

その後ろには、一ノ瀬詩音(いちのせ しおん)が寄り添うようについてきていた。

悠真にかばわれるように肩を抱かれ、青白い顔で小さく咳き込んだ。

「悠真……もう、やめよう?私は大丈夫だから……」

悠真はすぐに振り返り、優しく微笑んだ。

「詩音は気にしなくていいよ」

その声は、私が一度だって向けられたことのないほど優しかった。

「美咲のやつ……どこかに隠れれば、俺から逃げられると思ってるのか」

悠真はそう言うと、部屋の中へゆっくりと視線を巡らせた。やがて、その目が机の上で止まった。

そこには、少し色あせた写真立てが置かれていた。

あれは、私と悠真が並んで写った、たった1枚の写真だった。

誰にも見つからないよう、私は5年間ずっと大切にしまってきた。

悠真は写真を手に取ると、小さく鼻で笑った。

「姿をくらましたつもりか……相変わらず安っぽい芝居だな」

そのとき、物音を聞きつけた隣のおばさん――佐藤節子(さとう せつこ)が玄関先から顔をのぞかせた。

「あら、どうしたの?」

悠真は写真から目を離さないまま答えた。

「白石美咲を探してる」

「美咲ちゃん?あの子なら、もう5年前に交通事故で亡くなったよ」

その言葉に、詩音の目がかすかに揺れた。

けれどすぐに視線を落とし、遠慮がちに口を開いた。

「そんな……何かの間違いじゃ……少し前まで、私と電話で話してたんです」

節子は2人をじっと見比べると、あきれたようにため息をついた。

「間違えるはずないよ。あの日のことは、今でも忘れられないよ。

警察の人と一緒に、ご家族へ何度も電話したんだ。でも、誰も来なかった。最後まで来てくれたのは、大学のお友達だけだったよ。

お葬式まであの子たちが全部やってくれてね……本当に、美咲ちゃんは気の毒だった」

悠真の表情は、みるみる険しくなっていった。

「お前に何が分かる!美咲が俺を置いて死ぬはずない!全部、俺を振り向かせるための芝居に決まってる!」

節子は思わず言葉を失った。

しばらく黙り込んでいたが、やがて深くため息をついた。

「その言葉、5年前にここへ来て言ってくれたらよかったのにね……

美咲ちゃん、自分のことなんて何ひとつ贅沢しなかった。毎日節約して、お金を貯めてたんだよ。あんたにブランドの腕時計を贈るためにね」

節子は小さく首を振った。

「それなのに、その時計は別の子に渡したんでしょう」

悠真の表情がわずかに強張った。

だが、それもほんの一瞬だった。次の瞬間には、冷たく言い放った。

「……お前には関係ないだろう。

美咲に伝えろ。3日以内に姿を見せなければ、あいつの荷物は全部処分する」

節子は一歩前へ踏み出した。

「あんたに、あの子の物を捨てる資格なんてない!

美咲ちゃんはね、雨の中、3時間もあなたを待ってた。あなたに渡す腕時計を、大事そうに抱えてね。あの時あんたは、今お隣にいるその子と一緒にいたんでしょう。

美咲ちゃんが待ってることなんて、これっぽっちも気づかなかった」

詩音は不安そうに悠真の腕をつかんだ。

「悠真……もういいよ。ねぇ、帰ろう?」

「帰る?」

悠真はその手を乱暴に振り払った。

「あいつが出てくるまで、俺は帰らない!こんな芝居で俺が揺らぐと思うな!俺が後悔するとでも思ったのか?笑わせるな!」

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