和紙文彼が私のビザ申請書類を抜き取った夜、私は別れる決意をした · 第2話設定≡

彼が私のビザ申請書類を抜き取った夜、私は別れる決意をした第2話

この話は約1772字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

「自分で稼いだお金で申請してるから」

「自分で稼いだって?」蒼真は冗談でも聞いたかのように笑った。「お前の父親の会社が倒産する前、自分がどんなだったか忘れたのか?うちが拾ってやらなきゃ、大学にだって通えてなかったはずだよな?」

「だから、私の許可もなしに書類を2通も抜いたの?」

蒼真の表情が一瞬凍りついた。

しかし、それは後ろめたさからきたものではなく、驚きのようだった。私が気づくとは、いや……気づいたとしても対応するとは、思ってもいなかったのだろう。

「どれくらい聞いた?」

「全部」

部屋が一気に静まり返る。

蒼真は踵を返し部屋を出て行った。入り口で一度足を止めたが、振り返ることはなかった。

「ビザが下りるかなんてまだわからないんだから、喜ぶのは早いぞ」

ベッドの上のアルバムは、私の10歳の誕生日のページで開かれたまま。

そして、梨花はそのページを一枚引き裂いて持って行った。

その写真は、蒼真が私の手を引く姿が写っていたものだった。

……

「本気で荷物まとめてるの?」

翌日の昼、また梨花がやってきた。

ドアの枠にもたれかかり、キャリーケースに服を詰め込む私を見下ろす梨花。口元の笑みはいつも通り、完璧に作り込まれたものだった。

「あなたに関係ある?」

「そんなつんけんしないでよ。私は心からあなたのことを心配してるんだから。言葉が通じない国での生活は本当に辛いんだよ。だから、蒼真くんも、あなたに合わないんじゃないかと思って――」

「だからわざと大事な書類を抜いたってわけ?」

梨花はまばたきを一つして、何も答えず棚から青い表紙のノートを取り出し、めくり始めた。

一気に頭に血が上る。

それは私の日記だ。

「それを置いて」

「あなた、昔はこんなに字が下手だったんだね」梨花がページをめくりながら声に出す。「今日、蒼真が傘に入れてくれた。彼も私のこと――」

私は日記をひったくった。

すると、後半のページに端が折られた跡があることに気づいた。

空白の部分には、鉛筆で何やら文字が書き込まれている。

しかし、これは私の筆跡ではない。

2月14日のページには「重要」、7月のページには「使える」と書かれ、横にはチェックマークもあった。

「ねえ……私の日記に書き込みをしてたの?」

「凪、なんで蒼真くんがあなたのことを、毛嫌いするようになったか、まだ分かってないの?」

梨花が椅子に座り、その顔からはさっきまでの笑みが消える。

「『面倒くさい』『重い』『自信がない』――そんなレッテルがどうしてあなたに貼られるようになったのか……考えたことがある?」

私は指の関節が白くなるほど、日記を強く握りしめた。

「私の日記の書き込みを、蒼真に見せていたのね……」

「だって、すごくよく書けていたんだもの」梨花が立ち上がり、ゆっくりとスカートを払った。

「蒼真くんは感情的な女が一番嫌いでしょ?でも、あなたはそれを全部紙に書いてくれた。だから、何ヶ所か選んで蒼真くんに見せたら、彼はあなたを面倒で品のない、面倒くさい女だと思ってくれたってわけ。

彼がなんであなたを避けるのか、なぜ恥ずかしい人だって言うのか……分かってくれた?」

「梨花……」

「被害者ぶらないでくれる?」

梨花が一歩踏み出してきて、息がかかるほどの距離で私に低く告げた。

「この家に来た日から、あなたは勘違いしてたの。所詮あなたは居候の厄介者。正式に認められた婚約者なんかじゃない。この家に、あなたの居場所なんて最初からないんだから。ビザも……手に入れられるのは私だけ。あなたには絶対渡らない」

その時、廊下から蒼真の足音が近づいてきた。

梨花の表情が一瞬で切り替わる。口元が下がり、瞳が潤み、か弱げに俯いた。

「蒼真くん……」梨花が今にも泣きそうな表情で蒼真に駆け寄った。「凪に……この家にいる資格がないって言われたの……」

まるで知らない他人のように私を見つめる、蒼真の冷ややかな眼差し。

「今度は何だ?」

「梨花が私に何を言ったのか、彼女に聞い――」

「もういい」蒼真は梨花の肩を抱き、きつい口調で私を遮った。「梨花は母親がいないんだ。もう少し考えてやれないのか?」

「彼女にもう一度言わ……」

「もういいって言っただろ」

梨花は蒼真の腕の中で震え、見事な芝居を続けている。

そして、蒼真の胸に顔を寄せたまま私を振り返り、唇を動かした。

声は出さずに、無言のまま。

[あなたの負け]

縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)