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学部一の美女に「たかり女」疑惑をバラされた?第2話

この話は約2063字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

翌朝早く、寮の私の部屋のドアにA4紙が貼られていた。

【自覚を持って九条先輩から離れてください。これ以上新聞学科の恥を晒さないで】

差出人は【新聞学科女子一同】。

私はその紙を剥がして、裏返した。

裏は白紙だった。

ちょうどいい、メモ用紙にしよう。

午前の授業、私は階段教室の一番後ろの列に座った。

前にいたクラスメートたちが、申し合わせたように3列前に移動した。

まるで私から放射線でも出ているみたいに。

美月の取り巻き、小森茉莉(こもり まり)がわざわざ私の隣まで回り込んできて、机の上にミルクティーを置いた。

「美月先輩がミルクティー、ご馳走するって」

「いらない」

「それに――」

茉莉は声を潜めた。

「今日中に掲示板に謝罪文を上げれば、炎上を鎮めるのに協力してくれるって」

「何を謝れって?」

「九条先輩に対するあなたの行いが、不適切だったって認めること」

「普通の身内付き合いのどこが不適切なの?」

茉莉はため息をついた。

「あのやり取り、もう全校学生に晒されてるんだよ?

今さら何を言っても、誰も信じないよ。

素直に頭を下げたほうがいいって」

私はミルクティーを押し返した。

「頭を下げるのはいいよ。

その前に、私の十傑の座を返してから言って」

茉莉はミルクティーを持って去っていった。

昼、食堂に行くと、学生証をかざした端末に残高不足の表示が出た。

蒼真の銀行カードは、美月に「証拠」として学生自治会に提出されてしまっている。

自分名義の口座には、あと940円しか残っていない。

今月はまだ19日ある。

一日あたり平均50円。

私は茶碗に盛った白米だけを持って、隅の席に座った。

ルームメイトの早坂夕奈(はやさか ゆうな)が、自分のおかずを半分こっちに押し出してきた。生活費を使い果たしておかずが買えないんだと思っているらしい。

もっとも、事実その通りだった。

「私の食べていいよ」

「いい、ダイエット中だから」

「45キロしかないのに、何を痩せるの?」

「風に吹き飛ばされるくらい痩せれば、この学校とはもう無関係でいられるじゃない」

午後、学生自治会室にカードを取り返しに行くと、美月は書類を整理しているところだった。

美月は顔を上げて私を見たが、表情ひとつ変えなかった。

「カードは、今は渡せない」

「あれは私の生活費なんだけど」

「名義は九条蒼真になってる」

美月は銀行カードを掲げてみせた。

「本人が確認するまでは、あなたに渡すわけにはいかない」

「だったら、あなたたちが預かる権利もないでしょ」

美月はカードを引き出しにしまった。

「これは九条先輩の資産を守るためよ。

もしあなたが本当に、彼を脅していたとしたら?」

美月の声は、教科書でも読み上げているみたいに落ち着いていた。まるで彼女のほうが被害者で、私のほうが、警戒すべき危険人物みたいだった。

私は手を伸ばして引き出しを開けようとしたが、美月がその手を押さえつけた。

「カードを奪う気?ドアの外に学生自治会役員が3人いる。

今ここで手を出したら、明日には処分が下るよ」

私は手を引いた。

美月の爪が、手の甲に赤い跡を残していた。

「九条先輩は明後日、コンテストが終わって学校に戻ってくる。

そのとき、本人にこのカードを自分に渡したのかを問いただせばいい。

もし彼が、これは確かにあなたに渡したカードだと言うなら、文句なく返すわ」

美月は微笑んでドアを手で示した。

「でも、もし違ったら……

今学期のあなたの表彰資格は、すべて取り消すよう提案するから」

学生自治会室を出て、廊下で手の甲の赤い跡を見つめた。

美月が私の手を押さえつけたとき、ドアの外にいた役員3人全員がそれを見ていた。

それをおかしいと思った人間は、ひとりもいなかった。

彼らの目には、私はたかり女に映っているのだから。

不当な悪を制圧する――そんな歪んだ正義感のもと、彼女の暴力は、当然の制裁として正当化された。

私はスマホの連絡先を片っ端から見返した。

両親は海外出張中で、時差は12時間。

おばあちゃんはスマホの使い方がわからない。

蒼真とは、相変わらず連絡が取れないままだった。

掲示板にまた新しい投稿が上がっていた。

【徹底調査・たかり女の桜井望:1年生のうちから先輩のカードでブランド品を購入?自宅マンションへの長期出入りの疑惑も】

添えられていた写真は、先週末、蒼真が「もういらない」と押し付けてきたあのコートを着て、彼のマンションから出てくる私の姿だった。

撮影角度は狙ったように悪く、照明も薄暗い。

たしかに、深夜に高級マンションへ出入りする金目当ての女に見えなくもなかった。

コメント欄の最新の一件――

【こんな人間を退学にしないなんて、学校の風紀はどうなってるの?】

私はスマホの画面を消した。

おばあちゃんは先月、電話で蒼真にこう念を押していた。「望の面倒をしっかり見てやって」と。

蒼真の返事は、やけに威勢が良いものだった。

「安心して、母さん。俺はあの子を実の娘かのように面倒見るから」

その「実の娘」は今、昼飯代にも困り、カードは取り上げられ、評判はズタズタになっている。

叔父さん、ずいぶんと面倒見がいいこと。

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