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学部一の美女に「たかり女」疑惑をバラされた?第1話

この話は約2455字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

十傑認定式の壇上に立った、その瞬間だった。

大スクリーンが、ふっと真っ暗になった。

次の瞬間、目を疑うようなトーク画面のスクショが、次々と映し出されていく。

会場を埋めた2000人の教職員と学生が、どよめいた。

映し出されたスクショのメッセージの送信者は私。受信者は最前列に座る、金融学部3年の九条蒼真(くじょう そうま)。彼は学内一の秀才で、学内一のイケメンだ。

スクショに並ぶのは、全部私が送ったメッセージだった。

【お金ない。10万円振り込んで】

【今夜そっちのマンション泊まるから、鍵開けといて】

【お金くれないなら毎日つきまとうから。社会的に終わらせてやるんだからね】

学部一の美女が、マイクを握って壇上に駆け上がってくる。そのまま私を指差し、声を張り上げた。

「皆さん、ご覧ください!桜井望(さくらい のぞみ)は清楚な優等生なんかじゃありません。お金のために九条先輩にしつこくつきまとって脅していた、たかり女です!

こんな恥知らずが特待生の中でも特別な『十傑』に表彰されるなんて、絶対おかしいです!」

客席から突き刺さる、無数の軽蔑の視線。学校側の先生方の顔色は、真っ青だった。

学部一の美女が、勝ち誇った顔で私を見る。

「桜井さん。九条先輩は優しいから警察には言わないみたいだけど、今日この場で、ちゃんと反省してもらわないと」

画面に映る「たかり」の記録を見つめながら、私は思わず額に手を当てた。

本気なの?

蒼真は、おばあちゃんが歳を取ってから授かった、私の実の叔父だよ。

実の叔父のところにご飯をご馳走してもらいに行って、お小遣いをねだっていただけ。

それのどこが、恥知らずなたかり女なわけ?

* * *

九条蒼真は、私の実の叔父だ。

このことを、学校の誰も知らない。

別に、わざと隠していたわけじゃない。

入学初日、蒼真に図書館の前で呼び止められて、無表情のままルールを言い渡された。

「学校では叔父さんと呼ぶな。親戚だってことも、誰にも言うな」

「なんで?」

「俺、まだ大学3年だぞ。叔父さん呼ばわりされたら、何に見える」

「年上の親戚」

「お前のおばあちゃんに言っとけ。20年早く産んでくれって」

言うだけ言って、蒼真はさっさと背を向けて歩き出した。

私は慌てて呼び止めた。

「じゃあご飯代なくなったらどうするの?」

振り返りもせず、銀行のカードが一枚飛んできた。

「LINEしろ。使い切ったら言え」

それ以来、学校では赤の他人として振る舞った。

蒼真は金融学科のトップで、成績も優秀、しかも顔もいい。学内一のイケメンとして通っていた。

一方の私は新聞学科の1年で、全く存在感のない、その他大勢のうちの一人だった。

だから私たちを結びつけて考える人間なんて、誰一人いなかった。

学部一の美女、桜小路美月(さくらこうじ みづき)が蒼真に惚れるまでは。

美月は、どこからか私と蒼真のLINEのやり取りを掘り当てていた。

おそらく、コンテストの期間中にスマホを預けていた隙を突いて、誰かに中を見せてもらったんだろう。

蒼真が毎月私に送金していること。私が数日おきにマンションへ出入りしていること。彼のカードでスーパーの牛乳を3箱まとめ買いしたことまで、しっかり握っていた。

だが、私たちの本当の関係までは知らない。

知ろうともしていない。

1年の女子が学内一のイケメンのマンションに何度も出入りして、しかも金まで使っている。それだけで、美月にとっては十分すぎる証拠だった。

認定式は、強制的に中止になった。

私はそのまま学校側に呼び出され、職員室送りになった。

隣の担当教員の田村恵子(たむら けいこ)は、チョークの粉を丸ごと一箱飲み込んだような顔をしていた。

「桜井さん。このやり取りについて説明してもらえますか」

「家族との、普通の会話です」

私がそう答えると、恵子は眉をひそめた。

「家族?九条くんの家族情報に、あなたの名前はありませんけど」

「彼は、私の……」

「彼氏だとでも言うつもりですか?」

いつの間にか職員室に入り込んでいた美月が、目を赤くしたまま椅子に座った。

「先生。彼女、前から九条先輩と自分は特別な関係だって周りに言いふらしてたんです。何度も止めたのに、聞かなくて」

恵子が美月を見て、それから私を見た。

「桜井さん。桜小路さんは学生自治会の副会長です。あなたを陥れる理由なんてありません。

まず今日は戻って、状況説明書を書いてきてください。

特待生資格は、当面凍結とします」

私は言い返そうと口を開きかけた。

「彼女だからこそ、陥れる理由があるのだ」と。

だが、職員室のドアはもう美月の手で親切にも開けられていた。

体を横にずらして道を空けながら、美月が小声で言う。

「私は後輩を目の敵にしてるわけじゃないの。ただ、こういう事は、はっきりさせたほうがいいと思って」

美月の学年は私よりひとつ上だ。その口ぶりは、裁判所の召喚状みたいにあくまで淡々と、そして残酷に響いた。

職員室を出た時には、スマホはもう鳴りっぱなしだった。

私についての話題が学内掲示板の話題投稿ランキング堂々の1位になっていた。

【十傑のうちの一人である特待生の正体は、学内一のイケメンに寄生するたかり女だった!トーク履歴流出!】

続けて一番評価の高いコメントを読む。

【道理でいつも身なりよかったわけね。そうやって稼いでたんだ】

自分の羽織っていた上着を見下ろす。蒼真がサイズが大きいと言って押し付けてきたやつだ。着ると太って見えるらしい。

身長187センチ、体脂肪率10パーセントの男に、太って見えると言われた。

私のおばあちゃんは蒼真を産んだ時、彼の脳みそを分娩室に忘れてきたに違いない。

蒼真にLINEを送った。

【叔父さん大変、あんたに惚れてる子が私たちのやり取りを十傑認定式でのスクリーンに晒した】

送信をしたが、いつまで経っても既読がつかず、どうやらブロックされたようだった。

蒼真はコンテストの期間中、スマホを預けたまま。今はこの世から消えたも同然だった。

いいだろう。

叔父とは連絡が取れず、姪は社会的に終わった。

この家族の行く末は、もうおしまいだ。

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