婚約者が新居を幼馴染に譲った件第2話
この話は約1433字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。
来週のフライトを予約した。
その後、デパートへ行ってずっと欲しかったコートを買い、レストランで豪華な食事をした。
私の収入は、人並み以上にはある。
だが今まではマンションを買うために、一円でも多く貯金しようと切り詰めた生活をしていた。
夢にまで見たマイホーム。
その夢が叶う直前で、彰の手によって粉々に砕かれたのだ。
閉店のチャイムが鳴るまで、私はデパートの椅子に座り込んでいた。
ようやく重い腰を上げ、帰路についたのは深夜近くだった。
家に着いたのはもう十二時近くだった。
ドアを開けた瞬間、音楽が鼓膜を突き破らんばかりに響いた。
佳奈が連れ込んできた連中と、リビングをクラブ同然にして踊り明かしていたのだ。
こだわり抜いて選んだ布製のソファには、あちこちに生クリームがべたべたと塗りつけられ、床にはゴミが散乱している。
この部屋の隅々にまで心血を注ぎ、大切に整えてきたのに、無残に荒らされている。
怒りよりも、胸が締め付けられる思いだった。
私はリビングの電気をつけた。
突然の明かりに、盛り上がっていた連中が不満げに私を睨んだ。
私は怒りを抑えて言った。
「全員、出て行って!」
佳奈は勝ち誇ったような笑みを浮かべ、権利書をひけらかしながら近づいてきた。
「澪さん、もう年でボケちゃったの?
彰さんがこのマンションを私にくれたこと、忘れちゃった?」
彼女の取り巻きたちも囃し立てる。
「そうだよ、ここはもう佳奈ちゃんの家なんだから、どう使おうが自由でしょ?」
「佳奈ちゃん、早く鍵を変えたほうがいいよ。
野良犬が入り込まないようにさ」
私は佳奈の手から権利書を奪い取り、名義人の欄を広げて連中に突きつけた。
「よく見なさい。名義人は私と周防彰になってるわ。
今すぐ出て行かないなら、不法侵入で警察呼ぶわよ」
佳奈の顔に一瞬だけ動揺が走ったが、すぐに何食わぬ顔で開き直った。
「何よ、偉そうに。彰さんは明日、名義変更してくれるって言ってたもん」
「このマンションは私と彰の共有名義なの。
名義変更には双方の承諾が必要だわ。
私の承諾なしに、名義変更なんてできるわけないでしょ?」
それを聞いた佳奈は、泣きじゃくりながら彰に電話をかけた。
十数分後、彰が駆けつけた。
佳奈はすかさず彼に泣きついた。
「彰さん、このマンションは私にくれたんでしょ?
なのに澪さんが、不法侵入で訴えるって……」
彰は眉をひそめ、私の腕を強引に掴んで外へ連れ出そうとした。
「澪、このマンションは佳奈にやったんだ。
みっともない真似はよせ、帰れ!」
私は彼の手を振り払った。
「彰、忘れたの?このマンションには私だって金を出してるのよ。
あなたには、勝手に人に贈る権利なんてないはず!」
大勢の前でメンツを潰された彰は、声を荒らげた。
「澪、金の話をするつもりなら、お前の母親が要求した五百万円の結納金の件はどうなる?
持参金も用意せず、よくも言えたもんだ!」
佳奈たちは驚愕し、私を軽蔑の目で見た。
「うわ、信じられない。娘を売り飛ばすような行為じゃない?今どきそんな家があるなんてね」
「毒親のATMにされてるってこと?」
「こんな女と結婚したら、人生おしまいね。疫病神もいいとこだわ」
彼女たちの言葉に顔が火照り、心の底から惨めな気持ちが込み上げてきた。
両親にとって、おそらく私は都合のいいATMでしかなかった。
いつも胸の奥に消えない不安と劣等感を抱えていたのも、そんな毒親のせいだったのだ。
彰だけは私の苦しみを理解してくれていると思っていた。
だが彼は今、私の傷口を皆の前に晒した。
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)