婚約者が新居を幼馴染に譲った件第1話
この話は約1646字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。
結婚式の前夜。
婚約者の周防彰(すおう あきら)は、私たちが一緒に爪に火を灯すようにして貯金し、ようやく購入したマイホームを、彼の幼馴染への誕生日プレゼントとして贈ってしまった。
「女の子は自分だけの城を持ってこそ、心に余裕が生まれるものだ」と。
幼馴染の古川佳奈(ふるかわ かな)は感動し、彼の頬にキスをした。
私は背を向け、その場を後にした。
マイホームがなくなった以上、結婚式を挙げる意味もない。
* * *
結婚式の前夜。
婚約者の周防彰(すおう あきら)は、私たちが一緒に爪に火を灯すようにして貯金し、ようやく購入したマイホームを、彼の幼馴染への誕生日プレゼントとして贈ってしまった。
「女の子は自分だけの城を持ってこそ、心に余裕が生まれるものだ」と。
幼馴染の古川佳奈(ふるかわ かな)は感動し、彼の頬にキスをした。
私・鈴村澪(すずむら みお)は背を向け、その場を後にした。
マイホームがなくなった以上、結婚式を挙げる意味もない。
……
「澪さん、ちょっと待って!
今日は私の誕生日なのに、プレゼントを贈らないの?」
佳奈が背後から声をかけてきた。
手ぶらで来た私を見て、個室にいた他の連中は軽蔑の眼差しを向け、タダ飯食らいだとヒソヒソとささやき合う。
彰は気まずそうな顔で私を叱った。
「澪、なんて失礼なんだ。手ぶらで人の誕生日会に来る奴がいるか?
今すぐ佳奈にブランド物のバッグでも買ってきて機嫌を直してもらえ!」
仕事終わりに呼び出され、この茶番のような誕生日会に参加させられた挙句、私たちの新居が他人の手に渡るのを目の当たりにさせられたのだ。
以前の私なら泣き叫んで抗議しただろうが、今はもう、そんな気力もない。
「誰がプレゼントを用意していないと言った?」
私は左手の薬指から婚約指輪を引き抜き、佳奈の元へ歩み寄ると、彼女の指にはめた。
「この指輪、あなたにあげる。彰とお幸せに」
言い終えると、私は躊躇うことなく部屋を出た。
彰が追いかけてきて、私の手首を強く掴んだ。
「澪、嫉妬もいい加減にしろ。
佳奈は俺の妹みたいなもんだって、いつも言ってるだろ。
あんな嫌味を言って、誰が得するんだ?」
私は真顔で答えた。
「嫌味じゃないわ。本気であの指輪は、私より彼女にお似合いだと思っただけ」
「佳奈がお前の使い古しなんかで喜ぶわけないだろ」
「気に入らなきゃ捨てればいいわ」
彰は言葉に詰まり、苛立たしげに言った。
「勝手にしろ!また買ってくれなんて泣きつくなよ!」
そう言い捨て、彼は怒って戻っていった。
確かに、あの指輪は私が頼み込んで買ってもらったものだった。
婚約した日、彰は予算オーバーだから、婚約の記念品がナシだと言い出した。
私はブランド品や贅沢には興味がないが、婚約指輪だけはどうしても欲しかった。
彼は私を「金にがめつい」と罵り、買うのを渋った。
珍しく私が一週間も口をきかずに抵抗して、彼はようやく、不満げにあの三万円の指輪を買いに連れて行ってくれた。
私はそれを宝物のように大切にし、肌身離さず身につけていた。
だが今、ようやく分かった。
無理に求めたものは、結局、自分の手には残らない。
ホテルを出て歩道を歩く。冷たい風が吹きつけるが、不思議と、寒さは少しも感じなかった。
私の心の方が、よほど冷え切っているからだ。
どれくらい歩いただろうか。
彰から電話がかかってきた。
「澪、どこへ行ったんだ?胃が痛むんだ」
「胃が痛いなら胃薬飲めば?私に言わないで」
以前なら、彼が少しでも不調を訴えれば、私は居ても立ってもいられず駆けつけ、甲斐甲斐しく世話を焼いたものだ。
だが、もう家政婦扱いはごめんだ。
電話を切ると、私はすぐに上司に連絡した。
「張本(はりもと)部長、以前おっしゃっていた、私を地方支社のマーケティング本部長として赴任させるという話、まだ有効でしょうか?」
張本は驚き、声を明るくした。
「もちろん有効だとも!君の粘り強さと根性はずっと買っていたんだ。
君なら必ず市場を開拓できると信じているよ」
「ありがとうございます。
ご期待に添えるよう、全力を尽くします」
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)