婚約パーティーで元カノを選んだ男を捨てました第2話
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会場はきらびやかな光に包まれている。
ドレスの裾を持ち上げ、入口で司会者の合図を待っている。
隣に立つ瑛司は、うつむいてカフスを整えている。
「手、まだ痛むか?」
何気ない口調だった。
「もう痛くない」
前を向いたまま答えた。
母は最前列のよく見える席に座っている。抗がん剤治療で抜けた髪を、ワインレッドのニット帽で隠している。顔色は悪いが、とても嬉しそうに笑っている。隣にいる親戚の腕を取り、ステージを指さしながら何か話している。
何を話しているのか、だいたい想像がつく。
きっと、琴乃もようやく幸せになれると話しているのだろう。
瑛司は私の視線を追って母を見ると、小さくうなずいた。
「今日はお母さんの調子がよさそうだな。パーティーが終わったら、専門の先生にもう一度詳しく診てもらえるよう、俺が手配する」
瑛司はいつもそうだ。散々傷つけたあとで、決まって優しくする。
以前の私は、そのわずかな優しさだけで、美梨ばかりを優先する瑛司を何度も許してきた。
けれど今は、ただ疲れている。
「必要ない。今は体に負担の少ない治療を続けるしかないって先生に言われてるから」
静かに断った。
私のそっけない返事が意外だったのか、瑛司は一度こちらを見ると、何も言わずに腕を差し出した。
「行こう。もう入場の時間だ」
瑛司と腕を組んだ。
音楽が流れ、大きな扉がゆっくりと開いた。
スポットライトを浴びながら、笑顔を崩さず、一歩ずつステージへ向かう。
会場のいちばん前にあるテーブルを通りかかったとき、美梨の姿が目に入った。
そこは本来、主賓のために取っておいた席だった。
今は美梨が座り、赤ワインのグラスを手に、薄く笑いながらこちらを見ている。その視線が、私の薬指で止まった。サイズの合わないリングを見て、美梨はほんの一瞬、勝ち誇ったような目をした。
席に着くと、料理が次々と運ばれてきた。メニューはすべて私が決め、最後のデザートには瑛司がいちばん好きなチョコレートケーキを頼んでいた。
ところが、運ばれてきたのはマンゴームースだった。
一瞬、固まった。
瑛司は当たり前のようにマンゴームースを受け取り、美梨の前に置いた。
「美梨、これ好きだろ」
美梨は照れたように笑い、スプーンですくってひと口食べた。
「ありがとう、瑛司。覚えててくれたんだ」
瑛司は振り返り、私の前にも一つ置いた。
「甘いものでも食べれば、少しは気分も変わるだろ」
目の前の黄色いマンゴームースを見つめると、吐き気がこみ上げた。
瑛司とは付き合って5年になる。美梨がマンゴーを好きなことは覚えているのに、私に重いマンゴーアレルギーがあることは忘れていた。一口食べただけで全身に発疹が出て、ひどければアナフィラキシーショックを起こす。
スプーンには手を伸ばさなかった。
「どうして食べない?」
瑛司が眉をひそめた。
「口に合わないのか?美梨がわざわざ会場のスタッフに頼んで、メニューを変えてくれたんだ。マンゴーのほうがパーティーに合うからって」
当然のように言う瑛司を、静かに見つめた。
「お腹が空いてないだけ」
皿を少し遠ざけた。
瑛司の顔に、不満が浮かんだ。
「琴乃、今日はどうしたんだ?美梨がせっかくメニューを変えてくれたんだ。一口くらい食べられないのか?」
顔を上げ、まっすぐに瑛司を見た。
「瑛司、私、マンゴーアレルギーなの」
瑛司の表情が固まり、その目に一瞬動揺が浮かんだが、すぐに平静を装った。
「……忘れてた」
瑛司が小さく咳払いし、皿を下げようと手を伸ばした。
「忘れてたなら、別にいい」
淡々と答えた。
母は心配そうに、私たちを見ている。
「琴乃ちゃん、どうしたの?瑛司くんと喧嘩でもしたの?」
母のほうを向き、笑いかけた。
「何でもないよ、お母さん。このデザート、ちょっと重そうで、今は食べたくないだけ」
母はほっとしたように、私の手を軽くたたいた。
「それならよかった。今日は二人の大事な日なんだから、楽しまなくちゃね」
小さくうなずいた。
そのとき、司会者の明るく弾んだ声が、マイクを通して会場いっぱいに響いた。
「皆様、お待たせいたしました。続きまして、本日の主役であるお二人にご登壇いただき、婚約の証を交換していただきます!」
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