和紙文婚約パーティーで元カノを選んだ男を捨てました · 第3話設定≡

婚約パーティーで元カノを選んだ男を捨てました第3話

この話は約1588字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

席を立ち、ドレスの裾を持ち上げてステージへ向かうと、瑛司も後ろからついてきた。会場中の視線が、私たちに集まっている。

司会者はマイクを手に、笑顔で立っている。

「婚約の証を交換する前に、まずはお二人で、お祝いのケーキにナイフを入れていただきましょう!」

5段の大きなケーキが運ばれてきた。

瑛司は私の手を取り、銀色のケーキナイフを握った。

瑛司の手のひらは熱いのに、私の手は冷え切っている。

「琴乃、さっきは悪かった。俺の不注意だった」

瑛司が耳元で声を潜めた。

「終わったら、琴乃がいちばん好きな店に連れていく」

手を振りほどかず、ただケーキを見つめた。

「いい。早くお母さんと病院に戻りたい」

私が素直に喜ばないのが気に入らないのか、瑛司は眉をひそめたが、それ以上は何も言わず、ナイフを握る手に力を込めた。

ケーキにナイフを入れようとした、そのときだった。

会場のどこかから突然、声が上がった。

「美梨、どうしたの?」

振り向くと、美梨が胃のあたりを押さえ、血の気の引いた顔で椅子に倒れ込んでいる。

そばにいる親戚たちは、すっかり取り乱している。

瑛司の動きが止まり、銀色のケーキナイフが音を立ててワゴンの上に落ちた。次の瞬間には、迷いなく私の手を離し、ステージから飛び降りて美梨のもとへ駆け寄っていた。

「どうした?」

焦りを隠そうともしない声だった。

「わからない。急にお腹が痛いって言い出して、もう耐えられないって……」

瑛司は美梨を抱き上げた。

「控室へ連れていく」

美梨を抱いたまま、大股で控室へ向かっていった。

会場がしんと静まり返った。

みんなは顔を見合わせたまま、どうしていいかわからずにいる。司会者もステージの上で固まり、マイクを持ったまま次の言葉が出てこない。

最前列の母は顔から血の気が引き、肘掛けを強く握ったまま、小さく震えている。

私はステージに立ったまま、瑛司が美梨を抱いて廊下の奥へ消えていくのを見つめた。

スポットライトが私一人だけを照らしている。ひどく滑稽な光景だった。

「雨宮様、これは……」

司会者が、気まずそうに私を見た。

ワゴンに落ちたケーキナイフを拾い、紙ナプキンで柄を拭った。

「大丈夫です。私一人で切ります」

ケーキナイフを握ると、表情を変えず、迷うことも手を止めることもなく、大きなケーキに刃を入れた。

会場から、まばらな拍手が起こった。

ケーキを切り分けて皿に1切れ載せ、ステージを下りると、そのまま母に差し出した。

「お母さん、食べてみて。甘いよ」

母は目を赤くして、私を見つめた。

「琴乃ちゃん、瑛司くんは……」

「友達の具合が悪くなったから、様子を見に行っただけだよ」

笑顔でその言葉を遮った。

「気にしないで。ほら、ケーキ食べて」

母は震える手で皿を受け取った。大粒の涙が、クリームの上にぽろぽろと落ちた。

紙ナプキンで、母の頬を伝う涙を拭った。

「お母さん、今日は私の婚約パーティーだよ。どうして泣くの?」

母は声を詰まらせ、何も答えられなかった。

振り向き、近くにいたスタッフを手招きした。

「控室を見てきていただけますか。瑛司に、何か必要なものがないか聞いてください」

スタッフはうなずき、急いで控室へ向かった。

ほどなくして、ピンク色の保温ボトルを手に戻ってきた。

「雨宮様、榊原様から、篠崎様がお腹を痛めているので、このボトルに水を入れ、痛み止めと一緒に持ってきてほしいとのことです」

その保温ボトルを見つめた。

それは今日のために買ったものだ。パーティーの間に喉を潤せるよう、水を入れておくつもりだった。自分で描いたキャラクターのシールも貼ってある。それが今では、美梨のためのものになっている。

「わかりました。お願いします」

スタッフは保温ボトルを手に、再び控室へ向かった。

会場のスクリーンには、婚約記念に撮った写真が繰り返し映し出されている。

写真の中の瑛司は、かつてあれほど愛おしそうに私を見つめていた。

縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)

第4話は公式アプリで

当サイトでの試し読みはここまでです。アプリをインストールし、下のアプリ用コードを入力すると、この作品の第4話からそのまま読み進められます。

S70085
  1. 下のボタンから公式アプリをインストールします(無料)。
  2. アプリを開き、「コードを入力」にこのコードを入れると、この作品が本棚に入ります。
iPhone・iPad
で入手
Android
で入手

アプリで第4話を読む

作品ページへ戻る 当サイトに掲載しているのは試し読みの章だけです。